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「衛星データパイプライン」で誰もが衛星データを活用できる未来を創る- 株式会社New Space Intelligence

宇宙産業の市場規模に寄与しているのは大半が衛星データ利用です。近年民間事業者による小型衛星開発が盛んとなり、多くの衛星が地球を周回するようになったことで、広範囲を一度に観測できる衛星のデータ活用のさらなる拡大が期待されています。今回のインタビューでは、誰もが衛星データを利用できる衛星データプラットフォームの開発に取り組んでいる山口県宇部市の株式会社New Space Intelligenceの代表取締役社長・長井裕美子氏にお話を伺いました。

長井 裕美子 
株式会社New Space Intelligence 代表取締役社長

New Space Intelligenceが構築する衛星データパイプライン

―本日はよろしくお願いします。初めに、貴社の事業概要についてお伺いしてもよろしいでしょうか。

長井氏 端的に言えば、顧客の衛星データの利用に際して、目的に合ったデータを選択・統合・解析・提供という一連のサービスを行う事業です。私たちはこれを「衛星データパイプライン」と呼んでいます。2021年11月に起業し、現在メンバーは10名です。日本、タイ、モンゴル、インド、フィリピンと、多くの国からのメンバーで構成されています。

衛星データパイプラインの概要
Credit: 株式会社New Space Intelligence

―まだ起業したばかりですね!起業した背景を教えてください。

長井氏 この会社は、山口大学とタイのアジア工科大学院の長井正彦研究室に始まる大学発のベンチャーです。人工衛星といえば、これまでは政府主導による大型衛星でしたが、現在は民間主導による小型衛星がメジャーとなり始めています。そして、今後小型衛星はさらに増加し、宇宙利用はどんどん加速していくでしょう。そこで、衛星データ市場のゲームチェンジャーになるべく、衛星データを取り扱うプラットフォーム事業を立ち上げるに至りました。

―多くの衛星が開発され、打ち上がっていますよね。

長井氏 私たちは、衛星利用の中でも監視の用途に着目しています。地上の監視を行うには、人間によるパトロールや監視カメラ、ドローンやヘリの利用などがありますね。何かあったらすぐ現地を直接確認できるという点では人工衛星よりそれらは有利ですが、広範囲を監視する点で人工衛星に敵う手段はありません。他にも、天候に左右されないこと、継続的に運用できること、危険な場所でも監視ができること、こうした利点が衛星リモートセンシングにはあります。

インフラ監視の比較表
Credit: 株式会社New Space Intelligence

誰もが衛星データにアクセスできる衛星データプラットフォーム

―衛星データプラットフォームとはどのようなものでしょうか。

長井氏 衛星データを使って何かしたいとなった時に、その目的に合ったデータを複数選んで統合し、解析してその結果を提供できるプラットフォームのことです。現在、そしてこれから爆発的に増加していく衛星データの中から、適切なデータを選択したり、複数のデータを上手く統合したりするのは簡単ではありません。またそれに合わせて解析を行うには、非常に高度な技術を必要とします。衛星データパイプラインは、これらを網羅したプラットフォームとなります。

―現在、各企業は衛星データをどのように利用しているのでしょうか。

長井氏 従来は、自社の衛星を使ったり個別に契約した企業の衛星データを受け取ったりして解析している、という状況です。しかし、衛星データと一口に言っても光学、熱赤外、マイクロ波の衛星など様々であり、その中でも多種多様な衛星データがあります。当然、用途によって適した衛星データというのは異なりますが、目的に合わせて衛星を開発したり、他社から購入するために個別にやりとりをしてデータを選んだりするというのは、効率のいい状況とは言えません。そこで、このプラットフォームを利用することで、多様な選択肢の中から容易に最適なデータを使用することが可能となるわけです。

多種多様な衛星データ
Credit: Credit: 株式会社New Space Intelligence

―いままでにはないサービスですね。

長井氏 特に、複数の衛星データを組み合わせるというのは特徴的だと思います。様々な衛星データを組み合わせることで監視漏れを防いだり、監視頻度を上げたりできるようになります。現在、多くの衛星データ会社は1種類のデータを使って解析と提供をしています。私たちは、多種多様な衛星データの中から適切なものを選び、統合し、解析します。「衛星データパイプライン」とは、この一連の流れを自動化したシステムのことを指しています。高頻度、低価格、最適な解析方法で、かつ顧客が使いやすい形で提供できるように、2023年3月のリリースを目標に活動しています。

―例えば、ある会社が1つの衛星とは契約しているけど他の衛星データも使いたいという場合に、これを御社のサービスと合わせて利用するということもできるのでしょうか。

長井氏 はい、そうですね。新たに取得する衛星データ代は、顧客が負担して頂きますが、衛星データパイプライン上ではデータの違いを気にすることなく利用することができます。

ゲームチェンジャーたる New Space Intelligence

―では、より具体的なことをお伺いしたいと思いますが、データを統合するというのはどんなものなのでしょうか。

長井氏 Google Earthの上にのせたり、顧客のシステムに組み込んだりといったことですね。例えば広島県の不法投棄対策の事例では、2名が手作業でパトロールしている状況を支援するために、衛星データを使って変化を検出したら通知するというシステムを作っています。このシステムでは、変化を検出して通知することができます。監視点が100か所程度なら見て回ることができますが、千か所や一万か所となるとできなくなっていきます。そこで、変化の通知を基に監視員が効率的な見回りをすることができます。

衛星データ活用の例: 不法投棄の監視
ある地点での状況変化を読み取り、不法投棄の可能性があることを示す
Credit: Credit: 株式会社New Space Intelligence

―なるほど。では、1つのデータだけではわからないことが複数のデータを用いるとわかるというのはどういうことなのでしょうか。

長井氏 光学衛星とSAR衛星では観測の仕方が違います。同じ対象物を違う見方をすれば、分からないことが見えてくるということです。これは、車の衝突防止機能と一緒で、カメラとレーダを併用して、より精度よく運転支援をしているのと同じ考え方です。

―様々な衛星データを利用できるとのことですが、現時点でどれくらいの種類の衛星データを利用できるのでしょうか。

長井氏 国の数で言うと15カ国を想定しています。日本とアメリカを中心に、ヨーロッパやアジアなど、多様な国の多様な衛星に対応しています。そのすべてのデータを統合して解析する技術が私たちにはあります。

―そのような技術はどう蓄積していったのでしょうか。

長井氏 なぜ大学発スタートアップなのにこんなノウハウがあるのか、とよく言われます。実は、災害が起きた時に各国の衛星を利用して緊急観測をする国際災害チャータという枠組みがあります。この時に世界中から提供される様々な衛星のデータの解析する、ということを長井研究室でやっていました。ある時は韓国の衛星、ある時はブラジルの衛星、台湾やタイの衛星など、毎回異なる衛星のデータ解析をしてきたわけです。この活動を通じて、多種多様な衛星データを解析する技術が蓄積されていきました。

―開発中の部分はどの点になるのでしょうか。

長井氏 解析ノウハウはあるので、あとは自動化プラットフォームの開発です。データを選んで統合して解析するというそれぞれのプロセスは自動化できているので、これらをシステム化して自動で処理できるようになれば、利用を格段に広げていくことができるようになります。

―このようなサービスは非常に便利ですが、私は初めて聞きました。他に競合はあるのでしょうか。また、あるとしたらどのような点に優位性がありますか。

長井氏 同様の事業を行っているところはありませんね。技術の蓄積を長い間行ってきたので、どこよりも先行しているという自負はあります。また、現在すでにある衛星データ提供者と比較すると、私たちはコスト的にも優位です。通常では、衛星ごとに対応したシステムを構築することになりますが、衛星の運用が終了するとそのシステムは使えなくなり、次に開発する衛星のために再びシステムを開発することになります。しかし、私たちはより汎用的な形で作っているため、コスト的にも効率の良いシステムになると考えています。もっと言えば、衛星を運用している側にとってもプラットフォームの利用によって提供先が増えるわけですから、競合というよりもWin-Winの関係になっていけるのではと考えています。とりあえずプラットフォームに投げておけば誰かが利用してくれる、ということになります。

―なるほど、衛星データの提供側にもメリットがあり、それによってさらに利用者もバリエーションが増えていくというわけですね。

長井氏 まさにその通りです。「誰もが衛星データを利用できる未来」を創るのが私たちのビジョンです。このプラットフォームによって衛星データ利用がどんどん拡大し、いまはまだない宇宙利用が生み出されることを通じて、地球の課題解決に貢献していきたいと思っています。

以上、株式会社New Space Intelligenceの代表取締役社長・長井裕美子氏のインタビューでした。現在個々に衛星データを選んで解析して利用するということを行っていますが、これには知識と経験が必要であり、誰もが衛星データを利用できる状況にあるとは言えません。衛星データパイプラインというプラットフォームができることで、安く早く誰でも利用できるようになれば、宇宙利用はもっと活発になるでしょう。来年のリリースが待ち遠しいですね!

株式会社New Space Intelligence

https://www.newspaceint.com/ja


                                      SPACE Media 編集部