人工衛星利用と農業の関係を紹介していく「農業×衛星リモートセンシング」連載。第2回の今回は、衛星リモートセンシングを用いた「持続可能な農業」を考えます。
農業×衛星リモートセンシング第1回:https://spacemedia.jp/2021/10/28/00159/
前回の第1回では、農業の担い手不足やそれによる耕作放棄地の増加という課題から、「持続可能な農業」の必要性が浮かび上がってきました。少ない労力でも農地が管理でき、放棄された農地も有効に活用して今後に繋げていく仕組みづくりが必要です。日本の農業の課題に応えるかのように、持続可能な農業を考え、衛星リモートセンシングを用いて人類と地球の共存の実現を目指す会社が、この日本にあります。それがサグリ株式会社です。
Credit:サグリ株式会社
衛星データと機械学習で農業に参入するサグリ社
サグリ株式会社は「人類と地球の共存を実現する」をビジョンに掲げて活動する、日本の農業系衛星ソリューション事業会社です。
サグリ社の特徴は、衛星データと人工知能(AI)、そして区画技術を組み合わせたサービスです。
衛星データは地上の広い範囲を均質的に取得できる一方で、取得できる画像の解像度に限界があり解析が難しいことから、エンドユーザが直接活用できる状況限られていました。そこで、サグリ社はAI技術を用いて積み重ねられた衛星画像のビッグデータの解析を行い、ユーザが必要とするデータを提供できるようにしました。AIに衛星データの特徴を学ばせることで、時系列の変化を含む農地の特徴を捉え、肥料の最適なまき方や収穫に最適な時期の予測など、農業で活用できるようにしています。
このような衛星データと人工知能を活用した農業系事業は国内外問わず需要があり、サグリ社はインド南部のベンガルールにも拠点を置き、事業を展開しています。インドでは、収集した農業データから将来の農家の経済能力を予測するマイクロファイナンス事業を展開しており、インドの農業従事者たちの信用力を高める活動を行っています。
サグリ社が持つテクノロジーは様々な活用法があり、大きな可能性を秘めていると言えるでしょう。
耕作放棄地の課題解決に向けた「ACTABA」
そんなサグリ社が大きく掲げている事業の一つに「農地パトロール調査の支援」があり、それを実現するサービスが「ACTABA」です。前回、農業分野における課題の一つとして、耕作放棄地を挙げました。耕作放棄地は、長い間作物の栽培が行われずに放置され、今後も利用される予定のない土地のことです。これらは雑草や害虫の発生、不法投棄の温床にもなっています。
この耕作放棄地は例年、各自治体の農業委員会委員が農地を巡回する農地の利用状況調査(農地パトロール調査)によって把握しています。この農地パトロール調査はいくつもある広大な農地を農業委員会員の方々が巡回しなければなりません。多いところだと数か月かかることもあり、全ての特定は困難です。
耕作放棄地、つまり使われなくなった土地の利用は、持続可能な農業の一つのカギとなるものですが、そもそも耕作放棄地を特定しなければ土地利用に動くことさえできません。サグリ社のACTABAは、そんな重労働である耕作放棄地の特定をサポート。土地利用のスタートをサポートするという意味で、とても大切な役割を担っていることになります。
耕作放棄地の例
今までの農地パトロール調査では、目視で農業委員会員が巡回して紙の地図に場所を書込み、更に自治体の職員がシステムに入力するというプロセスを踏んでいました。そこでACTABAは、耕作放棄地と耕地の両方を教師データとしたAIと、調べたい場所の衛星画像データを用いて解析を行います。耕作放棄地と思われる場所をAIが解析し、放棄されている疑い(耕作放棄地率)が高い場所ほど濃い色で衛星画像データにプロットされます。
こうすることで、まずたくさんある農地を巡回して耕作放棄地がある場所をマークしなければいけなかった農地パトロール調査の作業が、衛星画像データへのプロットに変わったことで調査範囲を削減でき非常に簡単になりました。さらに得られた情報をそのままデータ出力することで、自治体職員が行っていたシステムに入力する手間もなくなり、大きな労力の削減につながっています。他にも、今まで目視による巡回だったために、人によって基準がばらばらだった確認作業が衛星データによって統一されるため、より正確な耕作放棄地の特定が可能になるというメリットもあります。
衛星データ×AI×区画整理。今後も広がる、サグリ社の技術
AIと衛星データを組み合わせることで、これだけ作業の効率化が可能になるというだけでも驚きですが、ACTABAの耕作放棄地判定精度は9割を超えるといいます。また、ACTABAが繰り返し使用されることで、そのデータをさらに学習し精度が向上する、つまり使われれば使われるほどAIの精度は上がっていきます。これこそが、AIを巧みに使うサグリ社の強みと言えるでしょう。
こうしたサグリ社の衛星データ×AIの利点は、作業の効率化と精度向上だけが利点ではなく、広い汎用性も大きなポテンシャルとしてあります。例えば、耕作放棄地の特定に用いられている土地診断システムですが、これを土台とすれば、農地の土壌診断を行い、肥料が撒かれていない場所を判別し、施肥量調整を行うことも可能です。
もう一つ衛星データ×AIの汎用性が高い例として、サグリ社が提供している「農地のポリゴン化」があります。
2019年から農林水産省が提供している国内農地の区画情報(筆ポリゴン)というものがあり、これは全国の農地を200m四方(北海道は400m四方)で区画化したものです。農地のデジタル情報として「スマート農業」に活用し農業団体の業務効率化などのメリットがあります。しかし、この筆ポリゴンデータは国内の全ての農地にあるわけではありません。
そこでサグリ社は筆ポリゴンデータを教師データとしたAIと衛星データを用いて、自動的に農地をポリゴン化する技術を開発しています。ACTABAと同じく、独自に農地ポリゴンを作るための労力を大幅に削減でき、国内外問わず様々な農地のポリゴン化による恩恵を受けることが可能です。
農地のポリゴン化は単純な業務の効率化だけではなく、農業ドローンや自動運転トラクターといった「スマート農業」に必要な機械を動かすための基礎データとなる可能性もあり、正に未来の農業に向けた技術とも言えるのです。
宇宙を通して見る、農と食の未来
2021年11月5日には、北海道・帯広で開催された北海道宇宙サミット2021に、サグリ社CEOの坪井 俊輔氏が参加し、宇宙を通した農と食の未来について以下のように語っています。
(以下、坪井氏)
「今の日本の農業は、法人化などによって大型化する一方で、高齢化も進んでいて、平均年齢67歳を上回っている状況です。
日本の農業を衰退させないためには、今まで農家さんが持っていたノウハウをデータで再現するというのが重要になってきます。
例えば気象衛星などのデータの積算を使って、お米の出水時期などを予測する。リモートセンシングの波長データを使って、作物ごとの状況を把握する。こういった技術を使った農業が開発されようとしています。実際、アメリカのトウモロコシ畑は、約25%が衛星データを使った農機を使って栽培が行われています。日本では水稲1ヘクタールあたり10~12万円の施肥代が使われていますが、衛星データを用いれば、それを2~3割削減することができるポテンシャルが秘められています。
そういったところに私たちはデータを通してアクセスし、自動的に農機などが農家さんを助けてくれるような時代が来るのではないかという風に思っています。
実際にサグリ社はそこから事例を作りながら、インドやアフリカへと技術をグローバルに発展させていて、これからも日本発の技術、事業を展開していきたいと思っています。」
上記に語られているように、現在、指数関数的に衛星関連のデータは増加しており、ここ数年で衛星画像データ単体の値段も大きく下がり始めているどころか、無料で使えるものもあります。こうしたデータを活用し、実際にユーザからの満足を得ているのがサグリ社なのです。
坪井氏が語られている通り、宇宙利用業界だけでなく、様々な業界においてもこうした衛星データを活用できるプレイヤーが増えていくかどうかが、ひいては日本全体の発展にも関係してくる重要な視点になります。
こうした技術と発想が全国に広がれば、現在も議論になっている農業における深刻な課題をいつか解決することができるかもしれません。今後もサグリ社に注目していきたいです。
次回の第3回も、農業×衛星リモートセンシングで活躍する企業を紹介していきます。
[参考]
サグリ社:https://sagri.tokyo/