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米Blue Origin、月のレゴリスの模擬物質から太陽電池のプロトタイプを開発

Amazonの創設者兼会長であるジェフ・ベゾスが設立した航空宇宙企業Blue Originは2023年2月10日(米国時間)、月のレゴリス(塵、土、砂利)模擬物質から太陽電池と送電線を開発する取り組みにおいて、実用レベルでの太陽電池のプロトタイプを完成させたと発表しました。

Credit:Blue Origin

「Blue Alchemist」技術の開発背景

米航空宇宙局(NASA)が提案する「アルテミス計画」では、2025年に月面に人類を送り、その後、ゲートウェイ(月周回有人拠点)計画などを通じて、月面拠点を建設し、月での人類の持続的な活動を目指しています。

しかし、実際に人類が月で活動するとなると、解決しなければならない問題が数多くあります。その一つが月面インフラの構築、すなわち電力供給問題です。月で活動するためには十分な電力が必要不可欠となり、月にいながらにして電力を効率よく供給できるシステムを構築しなければなりません。

同社はこの状況を踏まえ、地球から特別な物質を持ち込むことなく、月面のいたるところに存在する物質から直接、月面の電力システムを作る「Blue Alchemist」技術を開発しました。この技術は、月に多く存在するレゴリスを溶融電解し、鉄、シリコン、アルミニウムを作り出すというものです。同社によると、Blue Alchemist 技術は限りなく拡大でき、月面のどこでも電力確保の制約をなくすことができるとのことです。

また同社は、過酷な月の環境から太陽電池を守るための保護ガラスや、大量の電気を高電圧で効率よく送る送電線などについても、溶融電気分解によって得られる素材で作ることができると説明しています。

Blue Origin では 2021 年から水面下で、月の模擬物質を原料に太陽電池と送電線を作る研究を行ってきましたが、太陽電池のプロトタイプを完成させたのは今回が初めてとのことです。

月のレゴリスの模擬物質で実験

Blue Originの研究者らはまず、月面にある素材だけで太陽光パネルの製造ができるかをテストするため、月のレゴリスと化学的および鉱物学的に同等とされる模擬物質を独自に開発しました。次にこの模擬物質を溶融レゴリス電解(高温で溶融し電気分解)に通し、構成元素である鉄、シリコン、アルミニウムを抽出。シリコンは太陽電池製造に必要な 99.999 % 以上の純度に精製できたとのことです。

なお、同社が開発した模擬物質は粒の大きさや全化学組成のばらつきが実際の月のレゴリスと同様になるよう勘案して作られております。

地球上でのシリコンの精製には、有毒で爆発性のある化学物質が大量に使用されますが、同社の方法は太陽光と抽出されたシリコンのみを使用するため、環境に優しいものとなっております。

また、鉄、ケイ素、アルミニウムから分離された酸素も副産物として得られ、生命維持やロケット燃料への活用が期待されています。

将来の月移住計画の実現に向けて

同社は今後、実際に月のレゴリスを使った検証を計画しており、これに成功すれば月にある素材だけで持続的な電力の供給が可能となり、NASAが計画している月移住の実現に向けた大きな一歩になると考えられます。

またこの技術は、炭素排出量を抑え、水を使わず太陽電池を製造するため、地上でも大きな利益をもたらす可能性を秘めています。