「気象衛星」や「通信・放送衛星」など、さまざまな分野で活躍をする「人工衛星」。世界各国が新しい衛星の打ち上げに挑戦しており、今では毎年1,000機以上が打ち上げに成功しています。
このように世界中で「人工衛星」が作られる中、日本では京都大学と住友林業により、「宇宙での樹木育成・木材利用に関する基礎研究」を目的としたプロジェクト「LignoStella Project」が発足し、世界初の「木造衛星」である「LignoSat」を開発しています。今回は「木造衛星」にどのような将来性や魅力が存在するのか、解説していきます。
Credit: 京都大学
そもそも「人工衛星」の役割は?
「衛星」とは大きな天体の周りを回る他の天体のことを指します。身近なところだと月は地球の衛星です。月のような自然の天体に対して、人が製造した天体を「人工衛星」と呼びます。地球の周りを周る人工衛星だけでなく、月周回衛星「かぐや」のように月の周りを回る人工衛星もあります。このような人工衛星ですが、具体的にどのような役割を果たしているでしょうか。
「人工衛星」の役割は、実際には多岐に渡ります。たとえば、1957年に当時のソ連が宇宙開発競争を行っていたアメリカに先駆けて打ち上げた「スプートニク1号」は、電離層の観測や電波の伝搬実験に使用されました。その後、長距離の通信や、放送局から発信された電波を中継して各家庭に届ける「放送衛星」が登場し、さらには、宇宙のさまざまな天体を観測する「科学衛星」や、宇宙での生物に与える影響を調査・実験する「生物衛星」のようなものもあります。そして、みなさんが普段持ち歩く携帯が、正確な位置情報を計算できるような信号を送る「測位衛星」なども存在しています。GPSはアメリカが打ち上げて運用している測位衛星です。このように、役割によって、多くの「人工衛星」が宇宙空間を飛行しているのです。
宇宙ゴミでいっぱい
多くの役割を持って宇宙に存在する「人工衛星」ですが、その中でも地球表面から2,000km以内を周回する「地球低軌道衛星」の数は、現在では約7,500機も存在するとされています。(参考:LIVE SCIENCE https://www.livescience.com/how-many-satellites-orbit-earth)
たとえば最近話題に上げられる「SpaceX」ですが、彼らの打ち上げる人工衛星は、この「地球低軌道衛星」にあたります。
しかし、これほど多くの「人工衛星」が打ち上げられることに、デメリットも存在します。地球低軌道を飛行する「人工衛星」は役割を終えた後、通常は大気圏に突入して燃え尽きます。しかし、中には燃え尽きることなく残骸として残ることも。また、軌道上で衛星同士が衝突し、宇宙ゴミとなる危険性も増えているのです。衛星を打ち上げたロケットの残骸が宇宙を漂っている場合もあります。
宇宙ゴミは、たとえ小さいものであっても高速で宇宙を飛んでいますので、他の人工衛星に衝突すると大きな損傷を与えます。そして、国際宇宙ステーションの破損につながる恐れもあるのです。
深刻化する宇宙ゴミ Credit: JAXA
世界初の「木造衛星」開発
「人工衛星」増加による宇宙ゴミの発生。そして、宇宙ゴミは環境汚染に繋がる恐れもあります。そのような懸念払拭の役割を担うと期待されるのが、「LignoSat」と名付けられた「木造衛星」です。住友林業と京都大学の共同開発であり、世界初の試みとなります。
従来の「人工衛星」の本体にはアルミニウム合金が多く使用されてきました。しかし、このアルミニウム合金は、燃え尽きる際に「アルミナ」と呼ばれる酸化アルミニウム粒子を発生させます。そして、この「アルミナ」が大気中に漂い続けることで、太陽光を反射し、気温低下などにより農業に大きな影響を与え飢餓を促進する危険性があります。また、燃え尽きなかった場合にも宇宙ゴミとして残り環境にダメージを与えるため、環境保全の対策は必要不可欠でした。これらの課題を解決する役割を担うのが「木造衛星」なのです。
宇宙環境を保全
「木造衛星」はこれまでのアルミニウム合金の衛星と比較し、どのようなメリットがあるのでしょうか。
まず材質が木材であるため、大気圏に入れば完全に燃え尽きます。そのため、アルミニウム合金のような粒子発生がなくなります。燃え尽きるため、当然宇宙ゴミの発生もありません。
さらに、木材には気温変化や太陽光への耐久性が強いとされるヤマザクラ、ダケカンバ、ホオノキの3種の使用を検討しています。これにより、搭載する電子基板やバッテリーを保護することもできるのだとか。
通常の人工衛星であれば、電磁波を受信するために通信機器やアンテナを、衛星外に展開する必要があります。そのため、衛星が複雑な構造になり、その分の材料費がかかってきました。
しかし、「木造衛星」であれば電磁波を衛星内まで透過することができます。従って、衛星内に通信機器やアンテナを組み込むことができ、シンプルな構造かつ安価に製作することができるのです。
2023年打ち上げを目指して
今後は国際宇宙ステーションの「きぼう」船外実験プラットフォームで木材の劣化状況を確認する実験を行う予定です。2023年の実用化を目指し、着々と研究が進められています。
毎月のように多くの衛星が打ち上げられ、宇宙が身近となり始めた今。そんな現状だからこそ、世界に先駆けて宇宙環境を考慮して開発が進められる木造衛星に今後も注目です。
Photo Credit: 京都大学
綱嶋 直也