昨年、札幌青少年科学館にレンタル展示したモデルロケット
Credit: 北海道ハイテクノロジー専門学校
北海道の札幌市と千歳市の間に位置する「北海道ハイテクノロジー専門学校」では、2021年4月に「宇宙・ロボット学科」が設立され、ロケット開発など実践的な学びを通じて宇宙分野で活躍する人材を養成しています。
今回の記事では、学科長・渥美良和先生とスタッフ・齊藤雄大先生に話を伺い、宇宙・ロボット学科の魅力やこれからの宇宙人材にかける思いについて語っていただきました。
宇宙・ロボット学科の魅力とは:講師は植松電機社長!
―本日はよろしくお願いします。初めに、宇宙・ロボット学科の概要についてお聞かせください。
渥美氏 宇宙・ロボット学科では、3年間の課程を通じて宇宙工学やロボット工学、CADなどを学び、新しい価値を生み出し、社会に貢献できる人材を養成しています。講師には北海道大学と共同開発したCAMUI型ハイブリッドロケットで有名な株式会社植松電機(以下、植松電機)の植松努社長をお招きし、実際に手を動かしてロケットや惑星探査機を開発するなど、実践的な教育をしています。
ロケット製作入門編
Credit: 北海道ハイテクノロジー専門学校
―日本で宇宙開発を学ぶ環境は様々あると思いますが、御校の宇宙・ロボット学科の魅力はどのような点にあるのでしょうか。
渥美氏 まずは、本当にロケットを飛ばしたことがある植松社長に教わっているという点だと思います。大学で宇宙工学を勉強するという道もありますが、大学は研究機関であり、発明を主として学びを突き詰めて行くことになります。本学科では、ロケットや探査機の開発をしている植松電機の協力を得て、その開発工程を教材に学びを突き詰めております。宇宙に到達するロケットの製作は非常に大変な事です。ですが、学科創設1年目から長さ2m程度のロケット製作に携わり、打ち上げ高度200M~220Mに到達することが出来ました。宇宙までには届かずとも、宇宙までに到達するものと同じ経験は積むことが出来るわけです。
学生が開発したロケット
Credit: 北海道ハイテクノロジー専門学校
―確かに、実際にロケットを飛ばした植松社長から教育を受けられるのは非常に貴重な機会ですね。この学科を創設する際に、植松社長はどのような経緯で講師を務めてくださることになったのでしょうか。
渥美氏 実は、飛び込みで植松社長を訪問しました。大学とは違った学びで文系も理系も関係なく、ただ純粋にその世界(宇宙・ロボット)の分野・産業に携わりたいと言う方に、教育を提供したいと言う考え方に共感をしていただきまして、講師を引き受けてくださいました。植松社長も、ちょうど宇宙(ロケット・探査機)を教材に教育という部分に力を入れていきたいと考えられていたタイミングだったというのもうまくマッチしました。専門学校は、実技・実践を重視できる事と新設学科でいろんなカリキュラムがチャレンジできると言う事で作成に関しては植松電機さんにお任せしています。
―なぜ教育に力を入れていきたいと思われていたのでしょうか。
渥美氏 植松社長には、「人の自信や可能性が奪われない社会」を作ると言う夢があります。ご自身が開催している「ロケット教室」などがそれを代表する取り組みです。そもそも、宇宙(ロケット)などを身近に感じ、誰もが目指せる分野となれば、自然と業界の人材不足問題は改善されて行くと言うお考えがあるからだと思います。
実践的なカリキュラム
―カリキュラム全体としてはどのような特徴があるのでしょうか。
渥美氏 まず、「融合技術」としての宇宙・ロボット工学を学んでもらうということを考えています。惑星探査機もロボットの一部ですね。制御や回路、素材や加工技術など、幅広い分野について学ぶことになります。
探査機入門
Credit: 北海道ハイテクノロジー専門学校
高度計測器とデーター収集・解析実習
Credit: 北海道ハイテクノロジー専門学校
―大学との違いについて、具体的にお聞かせいただけますか。
渥美氏 先にも述べましたが、大学と専門学校の育てる人材像は違います。ロケットについて、何か発明や研究をするとなれば様々な実験を何度もしなくてはなりません。そもそも、その実験装置を作る人が少ないという状況があります。本学科はそのような、発明・研究をする方のサポートを出来る人材を育てたいと思っております。ですので、その実験装置を作るためには、ロケット自体の構造や仕組みを知っていなければならないので、カリキュラムの中でロケット開発を経験するわけです。
ロケットエンジン燃焼実験装置 ロケットエンジン燃焼実験装置見学実習
ロケットエンジン燃焼実験装置操作実習
Credit: 北海道ハイテクノロジー専門学校
宇宙・ロボット学科の学生
―学科に所属している学生はどのような学生なのでしょうか。文系出身の学生もいますか。
渥美氏 理系も文系も両方いますね。授業の中で開発に必要なことを学んでいきますし、また文系出身の学生の方が柔軟な発想を持っているという印象もあります。例えばロケットから探査機を落とすという機構設計を開発した時のことです。理系のチームは、パカっと開いて蓋を分離する機構設計を作りました。このようなデザインは多く、自然な発想だと思います。ただ、文系出身のチームは、スライド式の機構設計を考えていました。デザインの理由を聞いたら、第一にカッコいいから、そして第二に機体回収時のことを考えてのことでした。分離式だと切り離されてしまい、回収時が困難になりますが、スライド式であれば、バラバラにならずに回収もしやすいという利点があります。製作をするのは、スライド式の方が大変ですが、発想が柔軟で面白いと思いました。
―理系も文系も関係ないのですね。
渥美氏 そうですね、関係ないですね。むしろ熱意の方が大事だと思います。入学してくる生徒の志望理由も、ガンダムやスターウォーズが好きです!という学生が多いです。ですが、そういう気持ちがあると学びって加速しますよね。熱い思いを持った若者に、私たちも植松社長も期待をしています。
融合技術を学ぶということを話しましたが、その中で生徒1人1人にとって、自分の得意分野が見つかったらいいなと思っています。すべてが得意という人はおらず、人それぞれ個性を生かしながら役割を担って社会が成り立っていますから。
Credit: 北海道ハイテクノロジー専門学校
―学生たちの将来に、どのようなことを期待していますでしょうか。
齊藤氏 日本の宇宙産業は世界から見ると遅れています。なので、日本も若手が盛り上がってきたぞと言われる存在になって欲しいなと思います。
渥美氏 ロケット開発を教材にする事例は海外ではありますが、日本ではまだほとんどありません。彼らがこれから素晴らしい人材に育っていき、ロケット開発が教材として浸透していったらいいなと思います。あとは植松社長の理念を体現して、お世話になった分を報いることのできるような存在になっていってくれたらと思います。
宇宙分野の人材のこれから
―今後、宇宙・ロボット分野において、どのような人材や教育が重要になっていくと考えていますか?
齊藤氏 課題に正面から向き合える人材が求められると思います。植松電機の方々と話していると、いつもそれを感じます。勉強の得意不得意よりも、真摯に目の前の課題と向き合って、仲間と力を合わせることや情報を共有して整理をすることなどが大事です。
渥美氏 常にBプランも同時に考えていける人材が必要だと思います。そのためにも「教える」と言う教育では無くて、「考える」と言う教育が必要になると思います。なので、最初に基本を教えた後は、課題を与え、それに対してどうアプローチするかということを考えさせています。例えば8回の授業なら、3回までで基本の勉強を終わらせ、あとは実践的な課題にひたすら取り組む、という具合です。
―なるほど。自分で試行錯誤をして取り組む時間が大事なのですね。
渥美氏 そうです。学生たちは、この「時間」のために通っているわけです。社会に出れば責任や失敗出来ないプレッシャーなど、様々な困難に出会います。だからこそ、学生の間は失敗を恐れず、むしろ繰り返す事で思考力を成長させて欲しいと思っています。ですので、いつも学生には失敗できる貴重な環境にいることを自覚して欲しいと伝えています。
―宇宙教育を学ぶには、最高の環境ですね。
渥美氏 ロケット開発でも人工衛星や探査機でも、やりたいと思ったら、いきなりでもやってしまえばいいのに、と思っています。私たちの学校は、まだあまり知られていないので、もっと知名度を高めていきたいです。植松社長やインターステラテクノロジズの方々も、「宇宙といえば北海道」というブランドにしていきたいと思っているので、人材教育を通じて、私たちも北海道から日本の宇宙産業を一緒に盛り上げていけたらと思っています。
北海道という広大で自由な環境でロケット開発に取り組み、実践的な宇宙分野のエンジニアを経験できる、日本の宇宙教育の最先端をいく専門学校です。何より植松社長から直接指導を受けられるという、大変貴重な体験ができることは大きな魅力の1つです。まだ創設2年目ですが、渥美先生や斎藤先生、そして植松社長の学びを得た卒業生たちの今後の活躍が楽しみです。興味のある学生の皆さんは、是非進学を検討してみてはいかがでしょうか。
北海道ハイテクノロジー専門学校 宇宙・ロボット学科
https://www.hht.ac.jp/department/space/#development
<画像左>
渥美 良和 Yoshikazu Atsumi
北海道ハイテクノロジー専門学校
宇宙・ロボット学科 学科長
宇宙、ロボット分野の企業と連携し道内初の宇宙・ロボット学科を立ち上げる。
サッカー経験を活かし、様々なチームプロジェクトを推進。
JFA公認B級ライセンス保有、ノルディーア北海道の監督を経験
<画像右>
齊藤 雄大 Yuta Saitoh
北海道ハイテクノロジー専門学校
宇宙・ロボット学科 義肢装具士学科(障がい者スポーツ) 講師
宇宙・ロボット学科の立ち上げから在校生の学校生活のサポートまで幅広く担当。
医療分野のモノ作りスペシャリストである義肢装具士の講師としても活躍。
元日本車椅子ソフトボール日本代表監督(2015-16)
HOKKAIDO ADAPTIVE SPORTSを設立
SPACEMedia編集部