私たちは、季節ごとに移り替わる星座や沢山の流星群といった天文現象を、毎日移り変わる夜空を見て楽しむことができます。その夜空から、私たちの目で見ることができる星が減ってきているのはご存知でしょうか?
科学技術の発展により、特に人が多く住む地域ではビルや工場の建設などの開発が盛んに行われています。都市開発は人々に便利さや煌びやかさを与える一方で、地上から発せられる光を増やすことになり、天体観測を阻害する要因になる場合があるのです。
今回は、地上の光が星空に与える影響について見ていきます。
■目次
(1)地上の光が与える、天文への影響
(2) 過剰な光によってもたらされる「害」
(3) 地上の光と共存していくために
(4) 夜空の星を忘れないために
(1)地上の光が与える、天文への影響
夕食時の東京の繁華街の様子を思い浮かべてみましょう。街はたくさんの電灯であたりを一斉に照らされ、宣伝用の掲示板が光で強調されています。さらに、閉店後の店舗も電光看板の明かりはそのままで宣伝を続けています。このような場所ではビルの隙間から夜空を見上げても、月や明るい星しか見えないことが多いかもしれません。
次に、ほとんど人がいない、開発されていない自然公園を想像してみます。電灯や電光看板といった人工物も、地上の光もほとんどありません。そうした中で木々の隙間から見る夜空は、都会に比べると多くの星を見つけることができるでしょう。
私たちが見ることができる夜空の星というのは、地球から見れば微かな光であり、地上に強い明かりがあれば簡単にかき消されてしまいます。開発が進んだ都心部では天の川を見ることがむずかしくなっています。そのため、都心部で生まれ育った人の中には、天の川を見たことがないという人も少なくはないかもしれません。
このように地上が明るい分、星の光が見えなくなってしまえば、天体観測などの支障になってしまいます。さらに、電灯の鋭い光が輝線となってカメラや望遠鏡のレンズに入り込んでしまい、直接的な支障になる可能性もあります。
星空を見上げることは、天文台による研究以外に科学教育的にも必要なことです。幼少期に夜空で星を探したことをきっかけに天文宇宙、科学などに興味を持つ人は少なくありません。このような教育的な機会を失わないようにすることは、非常に重要なことです。
(2)過剰な光によってもたらされる「害」
強い地上の光の影響は、天体観測だけに留まるものではありません。
まず考えられるものとして、地上で沢山の人工光を生み出すためには、莫大なエネルギーを使うというのは想像できます。資源エネルギー庁の「令和2年度エネルギー白書」のデータによれば、事務所や娯楽施設などのエネルギー源として、電力の割合が高まってきており、業務他部門の動力・照明のエネルギー消費量は全体の4割以上になっています。エネルギー消費を抑えるための節電という意味でも、地上の光を抑える・弱めることは重要な視点の一つになります。
さらにこうした強い光は、動物や植物の生態系に大きな影響を及ぼします。地球上の生物は太陽が昇り、沈むというリズムの中でそれぞれの環境に合わせた進化を遂げてきました。しかし、近年の人工光の急激な増加によって、動物や植物の生態系にも変化が起きる可能性があります。夜行性で光を避ける習性を持つ生き物は、特に影響を受けやすいです。例えば、明るい場所や時間が急激に増えたことで活動できる時間が減ることで、餌の確保に充てられる時間が減ることになります。その生物にとっては生死にかかわる問題であり、その生物を捕食する、その生物に捕食される生物にも影響が出る可能性があります。これらの影響が連鎖すれば生態系の分布自体が変わる可能性もあるのです。また、過剰な人工光は植物の成長にも影響を及ぼし、光が当たる時間や程度によって成長時期や発育に悪影響が現れる恐れもあります。
過度に明るい電光看板などは自動車の運転手にとって眩しく感じる可能性があります。その明るさによって、付近にいる歩行者の発見を遅らせる恐れもあります。こうした人工光の眩しさは、交通安全の問題にも繋がってくるのです。
地上における過剰な光による悪影響は公害と捉えられ、「光害(こうがい・ひかりがい)」とも呼ばれています。
業務他部門エネルギー消費原単位の推移(資源エネルギー庁「令和2年度エネルギー白書」)
(3)地上の光と共存していくために
このように「光害」と呼ばれ、様々な影響を与えてしまう地上の光ですが、地上の光は私たちの生活を照らし、豊かな活動を支えてくれている存在でもあります。人工光の発生源をむやみに廃止したり糾弾すればいいというものではなく、どのように適切に使い、天文などと共存できるかを考えていくことが必要です。
例えば、上向きにも光が漏れていた電灯に笠をつけて光が漏れるのを防ぐことや、不必要な場所を照らしていた電灯を減らすこと、閉店後の広告の光を薄くする・消すことなど、工夫はたくさんあります。それぞれの小さな工夫を重ねることで、人工光の様々な影響を小さくすることができます。
すでに日本でも、長野県や群馬県、岡山県など星空を観光資源とする自治体を中心に、無駄なサーチライトの廃止や、指向性が高く消費電力が少ないダイオードを用いた電灯の採用などの努力が行われています。こうした工夫を進めるためにも、過剰な地上の光による影響を多くの人々に知ってもらうことも大切です。環境省は光害に関するホームページを開設し、「星空の街・あおぞらの街」全国協議会を設置しています。大気環境の保全に関する意識を高め、郷土の環境を生かした地域おこしの推進を行っています。
地上の光や星空の現状を知り、小さな工夫を凝らすだけでも、この問題は前向きな進展を見せるかもしれません。
(4)夜空の星を忘れないために
地上の光と共存し星空を守る運動は、日本で注目を集めており、2018年には、米国・アリゾナ州の国際ダークスカイ協会が、沖縄県の西表島石垣国立公園を、美しい星空が保護されている地域として正式に認定しました。
同じく沖縄県の石垣島では、毎年、旧暦の七夕の日に「南の島の星まつり」というイベントが行われています。このイベントは石垣島主催の星の祭典で、星の魅力のPR、夜空を見上げることへの関心に繋げることを目的としています。沖縄県出身のアーティストによるライブコンサートや、星に纏わる講演会、天体観測会などが島中で行われますが、その中の一大企画が「ライトダウン」です。「3、2、1、ゼロ」というカウントダウンが終わるとともに、イベント広場はもちろん、市街地など島中の明かりを全て消します。この日、この瞬間は毎年、石垣島では地上の光がない中で、人類が多くの光を作り出す前の星空を眺めることができます。
私たちは日々生活する中で、どれだけ夜空を眺め、その数について考えるときがあるでしょうか。夜空を見上げてみた時、幼少期に見た時よりも星の数が減ったと思うことはないでしょうか。改めて、今まで、そしてこれからの星空について考えていければと思います。
[参考]
環境省:「星空を見よう」 光害について
沖縄県石垣市:南の島の星まつり