2023年4月28日から、東京都江東区の日本科学未来館で開催されている「NEO 月でくらす展」。開催にあたり、編集部ではNEO 月でくらす展 監修者の立命館大学 教授の佐伯和人先生に、展示の見どころについてお話をお聞きしました。
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月面開発が急速に進んでいる背景とは?
4月26日に行われたispace社の月面着陸挑戦など、最近急速に宇宙に対する注目が高まっています。今回の展示では、2040年に人類が月に進出し、約1,000人がくらし、年間1万人あまりが月に観光に訪れる、という想定で展示を企画したそうですが、本当にあと20年ほどで「月でくらす」ことが実現するのでしょうか?
「ここ数年で、月探査・開発が急激に加速しています。この流れがこのまま続けば、2040年には月に1,000人規模の基地ができており、観光客が1万人ほど月に行くということは、十分ありうることだと思います」(佐伯先生)
月旅行の費用については1,000万円から数1,000万円ほどが見込まれるようで、すべての人が気軽に行けるようになるには時間がかかるようですが、2040年頃には「地球で家を建てるか、月に旅行に行くか」という価格帯になるようです。
すでに民間の宇宙飛行や宇宙旅行といったビジネスも始まっていますが、このように宇宙が身近になってきた背景には、NASA(アメリカ航空宇宙局)などが、これまで国が行ってきた事業を民間に委託する流れがあると佐伯先生は解説します。
また、デジタル技術の発達によって、コンピュータ上でさまざまなシミュレーションなどが容易に行えるようになったことも、実験・実証などのコストを下げることにつながり、宇宙開発の加速に寄与しているそうです。
展示に散りばめられたヒントを読み解こう!
今回の展示では隕石回収や水資源探査、月面探査機撮影などのミッションや、月面重力体験体験などができ、お子さんが楽しく月を学ぶことができる機会ですが、大学生や大人の来場者ももちろん楽しむことができます。
「展示は基本的にお子さんが楽しめるような内容にしていますが、これらの展示の裏には、科学的に練られた設定があります。例えば「月面ゾーン」には月面基地の外の景色が再現されていますが、そこで見える地球は北半球と南半球が逆になっているんです。これは月の基地がある場所に関係しているのですが、なぜこんなふうに見えるのか、なぜそんな景色が見える場所に基地があるべきなのか、最新の科学的知見に基づいて作られていますので、大学生や社会人の来場者の方には、ぜひそのようなところも読み取っていただきたいなと思います」(佐伯先生)
科学的な裏付けを読み取るのは難しそうに感じますが、佐伯先生は事前知識がなくても、パネル展示を読めば、そこに散りばめられたヒントに気づくことができると言います。
研究者レベルの人が見てもニヤリとする内容も仕込んであるそうなので、リピートしてみることで、新たな気づきが得られるかもしれません。展示の内容を深く理解できれば、日々の宇宙ニュースを見る際の目線も変わってきそうです。
「月でくらす」視点はビジネスのヒントにも
「月の未来」をかたちにした今回の展示は、宇宙ビジネスを考える際のヒントにもなります。現在、地上で衣食住にかかわるビジネスをされている方は「月でくらす」という視点で今のビジネスを見ることで新しい発見がありそうです。
また、月での住まいや食料品の生産などは建築業界、農業、食品業界の方にとっても重要なビジネス領域になるのではないでしょうか。
月や宇宙でのビジネス、経済の発展について、佐伯先生は産業界と研究領域が協力することも大切だといいます。
「宇宙でのものづくりが地球のものづくりと異なるのは、放射線や熱、真空など、宇宙ならではの環境を考慮に入れなくてはならないことです。民間の方だけでは難しいことも多いのですが、技術やノウハウの点はJAXAや大学などが協力できる点も多いです。宇宙探査の実績がある大学やJAXAが組織として試験設備や耐宇宙環境のものづくりノウハウを提供し、いろいろな企業が参加できる仕組みを作ることで、日本の宇宙産業を発展させていくことができるのではないかと考えています」(佐伯先生)
会期は2023年9月3日(日)まで。月を身近に感じる機会をぜひ体験してみてください。
NEO 月でくらす展 公式HP:https://tsukidekurasu.com/