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学生主体で取り組む、衛星・ロケットプロジェクト ―大阪公立大学小型宇宙機システムセンター

STEM教育などへの注目もあり、学生による宇宙開発は全国でホットな取り組みになりつつある。そんな中、「学生の 学生による 学生のための宇宙機開発」を掲げる、大阪公立大学小型宇宙機システムセンター(SSSRC)という団体がある。SSSRCで小型人工衛星プロジェクトのプロジェクト・マネジャー(PM)を務める中島翼さんと、ロケットプロジェクトに所属する松下昂由さんに話を聞いた。

SSSRCで小型人工衛星プロジェクトのプロジェクト・マネジャー(PM)を務める中島翼さん(左)と、ロケットプロジェクトに所属する松下昂由さん(右)

大阪発の小型人工衛星「まいど1号」開発をきっかけに、大学内に設立

大阪公立大学小型宇宙機システムセンター(SSSRC)発足のきっかけは、2009年に打ち上げられた小型人工衛星「まいど1号(SOHLA-1)」の開発まで遡る。まいど1号の開発に大阪府立大学(現 大阪公立大学)の学生が携わったことがきっかけで2005年に大学内にSSSRCが設立され、現在は、実際に軌道に投入される人工衛星などの宇宙機の開発がメインの活動となっている。

そんなSSSRCの活動の主役は、学生だ。

「テーマ選びやプロジェクトの推進自体は、私たち学生が主体になって行っています。SSSRCでは大学教員である小木曽望先生がセンター長を務めてくださっていますが、物品購入の際の相談や他の先生方との仲介などといったサポートというかたちで指導いただいています」と松下さんは説明する。今では全国の大学で宇宙機開発の取り組みが行われているが、教員などが細やかに指導しながら行われることが多い。物品を仕入れる際の企業とのやり取りなども学生が主となって進めるSSSRCのあり方は異色といえる。

衛星チームの活動中の様子。さまざまな専攻の学生が集まっている

学生主体のSSSRCの活動には、航空宇宙工学など、宇宙に直結する学科を専攻する学生だけでなく、多様なバックグラウンドをもつ90人ほどの学生が参加している。

SSSRCは主に2つのチームに分かれており、中島さんがプロジェクトリーダーを務める人工衛星チームには約60人、松下さんが所属するロケットチームには約15人の学生が参加しているという。

2人はプロジェクトリーダーとしての取りまとめ業務と並行して、現場での開発にも携わっている。実際、松下さんは「チーム内ではさらに細かく担当を分けて開発を進めていますが、そのとりまとめを行うだけでなく、ロケットの構体を作るためにパイプを切ったり、3Dプリンターを動かしたり、自分でもいろいろ手を動かしています」と語る。学生が主体で進めるからこそ、現場でのものづくりとマネジメントの両方に全力投球でき、収穫として得られる経験やノウハウも多いと言えそうだ。

超小型衛星の開発を通して、膜構造物の形状計測と分析の確立を目指す

現在SSSRCは、2Uと呼ばれる10cm×20cm×10cmというサイズの超小型衛星の開発を進めており、2026年後半から2027年前半での打ち上げを目指している。開発中の衛星でのミッションについて、中島さんはこう説明する。

「今回のミッションでは、膜構造物の展開と3次元での形状計測を目的としています。膜構造物は宇宙機のアンテナや、太陽風を受けて航行するための帆であるソーラーセイルなどに広く用いられているのですが、展開時に膜構造物にシワができたり、振動が出たりするとミッションに障害が出るため、膜構造物の形状計測と分析を行うことをミッションにしています」

以前のプロジェクトで製作されたOPUSAT-Ⅱ

以前も膜構造物の形状計測が試みられたことはあるが、その際は2次元で行われており、3次元での計測手法の確立自体にも大きな意義があるのだという。3次元での形状計測が行えれば、計測に基づく膜構造の制御などが可能になり、かなりインパクトのある成果となるそうだ。

現在の開発について中島さんは、「SSSRCとして今3機目の衛星を作っています。1、2機目で蓄積したノウハウや設計を受け継いでいるところもありますが、以前使っていた部品が廃版になったり、ミッションが変わったりしているのでゼロから自力で頑張らなければいけないところも多いです」と話す。世界的に見ても画期的なミッションに学生主体で果敢に取り組む姿は非常に頼もしく感じられる。

最終目標は打ち上げ後の自律制御、ハイブリッドロケットの開発に挑む

SSSRCでは超小型衛星だけでなく、ハイブリッドロケットの開発も行っている。「COLOURSロケットプロジェクト」に取り組む松下さんは、ロケットのプロジェクトについて、こう話す。

「固体燃料と液体酸化剤で推力を得るハイブリッドロケットの開発を行っています。日本のH2Aロケットなどは液体水素と液体酸素を組み合わせた2液式でメジャーな方法ですが、ハイブリッドロケットは実用化が進んでいません。ハイブリッドロケットを開発して打ち上げ後の自律制御を行うことが最終的な目標です。現在は、打ち上げ経験を積むことを目下の目標としてプロジェクトを進めています」

燃焼試験の準備を行うロケットチーム(左)と燃焼試験の様子(右)

実は、このプロジェクトの前身となるロケットのプロジェクトは不調に終わってしまったという。しかし再び学生の手で立ち上げられ、困難を乗り越えながら地道に進められている。

「まずは、ロケットに燃料を注入するためのGSEという地上設備の開発から始めました。購入してしまえばすぐ手に入るのですが、ガスを扱うのに必要な知識も勉強できるので、どうせなら自作しようと考えました。コロナ禍で、対面で集まれない時期もあり、大変でしたがGSEは去年完成しました。今はロケット本体の開発に移行しています」(松下さん)

あえて手間のかかる道を選ぶ、ということはなかなかできることではない。しかし、SSSRCのメンバーは貪欲に学び知識を得ようとしている。開発に必要な知識もインターネットで検索する以外に、企業関係者などに相談するなどして地道に集めているそうだ。「自分たちで作り上げる」という環境であるからこそ、積極的に知識を得たり自ら手を動かしたりして成果を積み重ねていけるのだろう。

宇宙開発の未来を担う育成の場をいつまでも

SSSRCの今後の目標はどのようなものなのだろうか。

中島さんは「過去には巨大紙飛行機プロジェクトが行われるなど、自由にやりたいことを自ら手を挙げてプロジェクトにできるというのが、センターの魅力の1つです。しかし、今は取り組んでいる人工衛星とロケット両方のプロジェクトを遂行したいという思いが強いです」と語る。在学中に何とか今のプロジェクトを成し遂げたいという思いが2人を突き動かしているようだ。

さらに個人的な目標について松下さんは、「たびたびメンバーとも話しているのですが、私はずっと燃焼をやってみたかったので、ロケットエンジンの自作をしてみたいです」と語り、中島さんは、「時間や費用の制約がないなら、既製品を使っている部分や過去の設計を受け継いでいる部分を自作して、ゼロベースの設計をしてみたいです」と話した。主体的に取り組んできたからこそ、できる限り自力で行いたいというこだわりが感じられる。

このように、学生主体で意欲的に宇宙機開発に取り組むSSSRCだが、これらの活動費は寄付により支えられている。ふるさと納税の仕組みを活用して寄付金を募っており、誰でもSSSRCのプロジェクトの後押しをすることができる。SSSRCのホームページでは、今後ミッション経過報告や成果報告を行っていく予定だという。 日本の宇宙開発を支える人材育成の一端を担うであろうSSSRCの活動に少しでも関心をもたれた方は、寄付を通じて日本の宇宙開発の「今」、そして「未来」を支えていこう。

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