コメットハンターへの道 -「彗星」観測とその魅力-

地球から肉眼で見ることができる天文現象は数多くありますが、その中でも美しく人気があるのが「流星群」です。以前、流星群について掲載した「流星群ウォッチング入門 -流れる星を数えてみよう-」の記事でも紹介しましたが、そのような流星群を生み出す親のような存在が「彗星(Comet)」です。

彗星は、流星群と同じく肉眼で見れることがある天文現象で、稀に出現する大彗星などは、天文愛好家以外でも大きな話題となります。こうした現象に魅せられて日々彗星を追いかける「コメットハンター」という人々が戦前からいるほどに、彗星は魅力あふれる天体です。

今回はその「彗星」について紹介していきます。

 

流星群ウォッチング入門 -流れる星を数えてみよう-:https://spacemedia.jp/entertainment/1933

「彗星」とは?

「彗星(Comet)」とは、数十mから数十km程の小さな天体で、そのおよそ8割が氷、その他はガスと微量の塵で構成されています。その本体は「核」と呼ばれ、球体になるほど重力が彗星自体にないため歪な形をしています。氷と塵で構成されており、黒っぽいことから「汚れた雪玉」とも言われています。

彗星は通常時、この核が凍り付いた状態なため、太陽から遠く離れている段階では、通常の小惑星と見た目は変わりません。彗星が「彗星」として地上の人々から認識されるのは、太陽に近づいた時です。彗星はその多くが氷でできているため、太陽に近づき熱にさらされると、表面が蒸発します。よって彗星からガスや塵が放出され、「コマ」と呼ばれる核をまとう薄い大気のようなものになります。

やがて太陽から噴き出しているプラズマ(太陽風)に流され、彗星の塵やガスが太陽とは反対の方向に伸びていきます。これが「尾」です。尾は一般的に彗星がイメージされる最大の特徴で、箒のようにやや細く広がって見えることから、彗星は「箒星」とも言われています。彗星の「尾」はロケットのように彗星の進行方向と逆に噴き出していると勘違いされることがありますが、実際は太陽とは逆側に放出されています。

太陽に近づいた際の彗星の図
Credit:国立天文台

彗星の尾をズームアップしてよく見てみると、2つに別れているように見えるかもしれません。これは彗星の塵が伸びた「ダスト(塵)の尾」と、彗星のガスが伸びた「イオン(プラズマ)の尾」で、観測するとその違いを楽しむことができます。ダストの尾は放出される際に塵の大小によって圧力の受け方が違うため、弧を描いて広がって見えます。一方、イオンの尾は、太陽風の強い影響で流され真っすぐ細長く伸びるように見えます。

コマや尾は、彗星が地球に近づくと望遠鏡で観測することができます。肉眼でも見ることができるような「大彗星」であれば、巨大な尾を地上から肉眼で見ることができるかもしれません。太陽に近づくことで、コマや尾が発生し姿を変え、通常の天体とは違う性質を持つ点が彗星の大きな魅力の一つと言えます。

 

 

彗星は通常の惑星とは違う軌道で公転しており、その動きによっても分類がなされています。

太陽の周りを小さな楕円軌道で回り、定期的に太陽に接近する彗星を「周期彗星」と言います。”75年に一度現われる”ことで知られるハレー彗星などもこれに分類されます。彗星が太陽の近くを通ることを「回帰」と言います。この周期彗星の中でも200年以内に一度は回帰するものを「短周期彗星」と言い、次の回帰に200年以上かかるものは「長周期彗星」と言います。

一方、彗星の中には放物線や双曲線軌道を描き、太陽系を通り過ぎるような軌道を持つ「非周期彗星」もあります。こうした彗星は太陽に近づく(回帰する)のは一度きりで、一度回帰すると二度と戻ってきません。

 

短周期彗星は、一般的に海王星軌道の外側に広がる「エッジワース・カイパーベルト」と呼ばれる領域で生まれたとされており、長周期彗星や非周期彗星は「オールトの雲」と呼ばれる太陽系の外側に取り巻いている領域で生まれたと言われています。いずれも太陽系が生成・進化した際のなごりを深く残しており、太陽系の起源を知る上で大きな手掛かりになると知られています。

 


太陽系、エッジワース・カイパーベルト、オールトの雲の位置関係図
Credit:国立天文台

彗星を追いかける「コメットハンター」

彗星は太陽接近時の特異な見た目から、古来から多くの地域で災いの予兆とされ、恐れられてきました。やがて科学者によって彗星の軌道や構造について解明されました。17世紀ごろに望遠鏡が発達すると、肉眼では発見できなかった小さな彗星が、小惑星と並んで多く発見。かつて彗星を恐れていた人類は、今まで発見することができなかった小さな天体を探すようになりました。こうした彗星探しを積極的に行う天文家を「コメットハンター」と言います。

大学や研究所に勤務する天文家は、革新的な学術論文を生産する必要がありました。新たな小惑星や彗星の発見が直接高い評価に繋がらず、探査はあまり行われませんでした。そこで、趣味で星を追うアマチュア天文家が、新たな彗星捜索を担っていました。多くの彗星や小惑星は、アマチュア天文家が発見したもので、1960年代から1990年代にかけて日本でもコメットハンターによる彗星発見数が全盛期を迎えました。やがて2000年代に入って地球近傍天体の探査が公的機関でも活発化し、高性能カメラや人工衛星のセンサによる観測が広まると、地球から観測できる暗い彗星が根こそぎ発見されました。アマチュア天文家のコメットハンターの全盛期は過ぎましたが、現在も自身の望遠鏡で彗星を探すコメットハンターもいます。

 

アマチュア天文家が発見した彗星は、発見者の名前が由来となることが多くあります。1996年に肉眼でも見えるほどになった「百武彗星」も、発見したアマチュア天文家の百武裕二氏の名前がルーツです。彗星は発見すれば歴史に名を刻めるかもしれないという魅力もあり、天文家にとっては夢と希望が詰まった星であると言えるかもしれません。

現在、アマチュア天文家による新天体の発見は、大規模な捜索プロジェクトや人工衛星の発達によって困難になってきていますが、現在はNASAがインターネット上に公開した人工衛星の画像データから彗星を探すという変わったコメットハンターもおり、彗星捜索の形も時代と共に変わりつつあります。

 

大彗星を追いかけよう

新たな彗星を見つけるコメットハンターになるのは難しいかもしれませんが、通常の彗星観察もまた魅力的な天体観測であるため、紹介します。天体観測の際の人工光や準備に関する注意点は、以前の「流星群ウォッチング入門 -流れる星を数えてみよう-」で解説しています。

 

彗星は稀に流星と混同されるときがありますが、天体観測の際、流星は一瞬で流れるのに対し、彗星は他の天体と同じく地球の自転の動きに合わせてゆっくりと動く(日周運動)ため、比較的ゆっくりと観測することができます。しかし、彗星は前述した通り周期彗星・非周期彗星の違いなど軌道要素は多様で、回帰する周期も様々です。流星群と違い一年に一度必ず見ることができるというものでもありません。事前に国立天文台のホームページ等で観測日の星図を見て、空のどこで彗星が見えるのか確認するのがおすすめです。

彗星は通常地上から肉眼で見えるわけではなく、望遠鏡や双眼鏡が必要な場合がほとんどです。もし望遠鏡や双眼鏡がある場合は、比較的明るい彗星を星図で確認し、追いかけてみると良いかもしれません。

 

一方、肉眼でもはっきりと見ることができる「大彗星」は、大規模な天文現象として天体観測用の機材を持たない人でも楽しめます。

「大彗星」は何らかの理由によって大増光(アウトバースト)し、肉眼でもはっきりと見えるほどに明るくなった彗星のことです。例えば、彗星の核自体が大きくて放出される物質も多くなることがあります。ほかにも、太陽に接近した際の距離が近く、多くの氷やガスを放出し大増光するケースや、純粋に地球に近い距離を通過するため地上から明るく見える等、その発生条件は様々です。

 

 

大彗星の出現を予測するのは難しく、実際に大彗星となるかどうかは実際その時になってみないと分からないことがほとんどです。アマチュア天文家にとって有名な彗星に、2013年に回帰した「アイソン彗星」があります。アイソン彗星は太陽に近い軌道を通るという予測が立てられており、史上最大の大彗星になると世界中のアマチュア天文家に期待されていましたが、実際に大彗星になることはありませんでした。アイソン彗星は太陽に近い軌道を通りましたが、逆にその熱と重力によって彗星が崩壊してしまい、増光しなかったのです。

天文現象全般に言えることですが、全てが思い通りに行くわけではなく謎に満ちているところも、彗星の魅力です。

2007年1月に大彗星となったマックノート彗星
Credit:S.Deiries/ESO

 

今回は彗星とその観測について紹介しました。謎に包まれながらも夢が溢れる彗星。皆さんも追いかけてはいかがでしょうか。

参考資料

国立天文台:彗星

https://www.nao.ac.jp/astro/basic/comet.html

 

アイソン彗星

https://www.nao.ac.jp/astro/sky/2013/ison.html

SPACEMedia編集部