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その衛星画像、本物ですか?- ディープフェイクと偽の衛星画像

多くの人工衛星が地球を観測している現代では、インターネット上で簡単に衛星画像を取得することができます。衛星画像は天気予報でも用いられているように私達の生活にも欠かせないものとなっており、ニュース記事で参考資料として使用されるなど、私達の貴重な情報源にもなっています。

一方で、「衛星画像は情報源として信頼できる」……このように考えてしまう、もしくは無意識にそう思ってしまう人は少なくないかもしれません。しかし、実際にはインターネット上に溢れる他の画像と同じように、衛星画像は偽物を作ることは難しくありません。

今回は、偽物の衛星画像の脅威について、そしてそういった画像に騙されないためにはどうしたらいいのか、といった点について書いていきます。

偽の衛星画像を作る「ディープフェイク」とは?

そもそも「偽の衛星画像」とはどういうものなのか。考えられる主なものとしては、本来存在しない建物や地形が表示された画像、もしくは本来存在するものが削除された画像です。これらの画像は手作業で存在しない建物を追加したり削除したりもできますが、近年は新たに「ディープフェイク」という技術が用いられ、より容易に偽の画像を作り出すことができてしまいます。

「ディープフェイク」とは、「DEEP learning(深層学習)」と「FAKE(偽装)」を組み合わせた言葉で、深層学習を用いた存在しない画像・動画の生成技術のことを指します。「深層学習」とは、人工知能を用いた技術の一種で、対象となるもの(例えば画像や動画など)の特徴を細かく「学習」することで、他の似たようなものを認識したり、新たに生成できたりします。これらは自動運転にも使用されている技術で、近年注目を集めています。

ディープフェイクは、この深層学習を用いて既存の画像や動画の特徴を学習し、他の関係ない画像や動画にその特徴を移植することができます。例えば、シマウマの白黒模様という特徴を学習させ、他の画像に写った普通の馬をシマウマの模様にすることが可能です。

こうしたディープフェイク技術は悪用することもできるため、一部で社会問題化しています。有名な政治家による偽の演説動画が作られたり、とある俳優が全く関係ない作品に出演しているような動画が作られたりといったことが実際に起きています。現代はこういった技術の発展もあり、情報の真偽の判断が大変難しくなっています。

撮影した馬の映像が、ディープフェイクによってシマウマに変換されている
Credit:UC Berkeley Unpaired Image-to-Image Translation using Cycle-Consistent Adversarial Networks

ディープフェイクによって作られた「偽の衛星画像」

ディープフェイクの影響は、既に衛星画像にも及んでいます。衛星画像は本物そっくりの画像を作成するには高度な技術が必要だったため、今までは信頼できるデータの一つとして数えられていましたが、ディープフェイクの登場によってその信頼も揺らぎつつあります。

Credit:Deep fake geography? When geospatial data encounter Artificial Intelligence

 

上の衛星画像を見て、何か違和感を持つ方はいるでしょうか。一見、普通の街を映した衛星画像に見えます。米国のワシントン州に住んでいる人がいれば、見覚えがあるという人もいるかもしれません。

しかし実際にこの画像に写っているのは、中国・北京のとある町の特徴を学習した人工知能が、米国・ワシントン州のタコマという町の衛星画像に北京の町の特徴を埋め込んだ、地球上に存在しない場所なのです。こうしたディープフェイクで作られた画像は本物とほとんど見分けがつかず、実際の画像と言われても違和感はありません。

今回の例ではただ町の特徴を入れ込んだだけですが、例えば存在しない場所が本当にあるかのような画像が拡散されれば衛星画像を用いた場所の特定の信頼性に関わります。また、画像の特徴を学んだ人工知能はその特徴を削除することも可能なため、犯罪や安全保障にかかわる場所を衛星画像から削除することも可能になってしまいます。

こうした衛星画像の偽装は偽の演説動画等を作るよりも容易であり、今後ディープフェイクの技術がより簡単に使われるようになれば、大きな脅威となります。

「偽の衛星画像」にどう対処すべきか?

ディープラーニングによって作られた「偽の衛星画像」を見破るのは、上の画像を見ても分かる通り大変難しいです。元画像との周波数や色彩の比較によって偽の画像を見つけるという研究も一部では進んでいますが、そのために必要な技術は偽の衛星画像生成よりも高度な物であり、一つ一つの画像を検証するのも難しいと言えます。

ワシントン大学のBo Zhao氏はこうしたディープフェイクによって作られた偽の衛星画像を見破るための研究を論文「Deep fake geography? When geospatial data encounter Artificial Intelligence」でまとめています。画像の周波数や色彩等から偽の衛星画像の特徴を調べられる可能性があるといいます。一方でBo Zhao氏は一般の人々が不意に触れることになる情報を疑い精査するのは難しく、偽の衛星画像がソーシャルメディアで広く拡散されることで何らかの問題を引き起こす可能性は常にあると語っています。

これは衛星画像に限った話ではありませんが、偽の衛星画像に騙されないためには、あらゆるメディアで表示されている情報元を知り、それが信頼できるものであるかを判断するのが、現在最も有効な手段です。

今後メディアで衛星画像を見る際には、それが本物か偽物か、一度立ち止まって考えてみましょう。

 

<参考>

Deep fake geography? When geospatial data encounter Artificial Intelligence

 

UC Berkeley Unpaired Image-to-Image Translation using Cycle-Consistent Adversarial Networks

 

SPACEMedia編集部