Credit:Jeff Koons
宇宙にはこれまでも、コカ・コーラや缶詰など、あらゆる商品やサービスが実験的に持ち運ばれてきました。同様に、さまざまなアート作品たちも、宇宙飛行士たちと共に宇宙へ進出したことがあります。たとえば昨年には、日本の子供たちによるモザイクアートがISSに打ち上げられ、無事地球へと帰還。他にも、スペースX社による民間人のみで行われた宇宙旅行ミッション「Inspiration4」では、詩と絵画を組み合わせたデジタル作品が軌道上に持ち込まれました。
このように、近年では宇宙とアートの関係は密接となってきているのです。そのような状況の中、NFTアートの月面展示プロジェクト「Moon Phases」が始動することが分かりました。制作するのは世界的有名アーティストのジェフ・クーンズ氏。世界初の試みとなり、アート界だけでなく、宇宙全体に衝撃を与える結果となるかもしれません。
一体どのようなNFTアートがどのような形で月面に展示されるのか。人類の誰もが気になるプロジェクトとなるでしょう。
目次
NFTアート、月面展示プロジェクト「Moon Phases」
人類が最初に月面に降り立ったのが1969年。それから50年以上が経った今も、私たちは月への夢を追い求めています。
そして、ついに今年の3月、宇宙初のNFTアートの月面展示プロジェクトが始動することが発表されました。これまでにも、宇宙空間へ飛び立つアート作品はいくつか存在しました。しかし、月面への着陸許可を得たアート作品は今回が初めてなのです。プロジェクト名は「Moon Phases」。現在、最も作品が高額で取引されていることでも有名なアーティスト、ジェフ・クーンズ氏による初のNFT作品であることも注目の理由となっています。
同プロジェクトは、民間航空宇宙企業であるIntuitive Machines社の協力のもと、ジェフ・クーンズ氏の彫刻作品を月へと打ち上げ、月面に展示。作品をNFT化した後、そのまま月面で永久保存となるのだそうです。
プロジェクトの詳細は、同プロジェクト公式ホームページにて随時更新されています。幻想的な月と芸術的なアートが組み合わさり、人類が初めて見る光景を目にすることができるでしょう。(公式ホームページ:Jeff Koons Moon Phases)
アート界のデジタルシフト!代替不可能なNFTアート
最近テレビやSNSなど、あらゆる媒体で耳にする「NFT」というワード。その一方で、「NFTとは結局何なのか」「どんな価値があるのか」など、正体がいまいち理解できていないという人は多いのではないでしょうか。
「NFT」とは、Non-Fungible Tokenの略称であり、非代替性トークンを意味します。直訳すると、「他に代わるもののない、唯一無二のデジタルデータ」のことを指します。みなさんはビットコインやイーサリアムなど、「仮想通貨」を利用したことはあるでしょうか。この「仮想通貨」はブロックチェーンという技術を活用して作られており、「NFT」も同様にブロックチェーンの技術を活用しています。このブロックチェーン技術では、デジタルデータに鑑定書を付属させることができるため、他人によるデータのコピーを防止することが可能。したがって、ブロックチェーン技術を活用している「NFT」は、偽造のできない、唯一無二のデジタルデータとなるのです。
以上から、NFTアートは代替不可能なデジタルアートということになります。作品1つ1つがコピーすることのできない貴重なデジタルアートとなるため、その希少価値から、作品によっては数億円の値がつくことも。一方で、さまざまなプラットフォーム上で誰もが作品を販売することができ、世界中の人がそれらを購入することができます。NFTアートは、アート界にとって新たな価値ある市場となっているのです。
前澤友作氏も、宇宙でNFT作品を発行
2021年、ZOZO創業者の前澤友作氏が日本の民間人初の宇宙旅行を成功させました。実はその際、前澤氏は宇宙船「ソユーズ」とISSのドッキングするシーンや、上空からのカリブの島々の撮影に成功しています。そして、それらの記録を「Rendezvous(ランデブー)」という名前で、NFT化し販売しているのです。
このように、NFTアートは新たなアート市場であるに留まらず、すでに宇宙への進出すらも捉えてきているのです。
今最も“売れている”アーティスト、ジェフ・クーンズ氏
Credit:Jeff Koons Studio
宇宙で初めて月面にて展示されるNFTアート。この偉業に挑戦するアーティストであるジェフ・クーンズ氏は、現在活動しているアーティストの中で、一番売れている作品を生み出していることでも知られています。
そんな現代アートの巨匠による作品は、ステンレス製の鏡面処理を施した、バルーン・アニマルの彫刻が特徴。この特徴を活かした彼の作品では、RabbitやBalloon Dog が世界的に有名です。
これまでアート界で多大な影響を与えてきたジェフ・クーンズ氏ですが、実はNFTアートを制作するのは、同プロジェクトで初めての経験となります。しかし、彼はファッションや音楽業界とのコラボなど、他市場へも積極的に進出するアクティブな性格のアーティスト。したがって、彼の同プロジェクトへの参加は必然的なものなのかもしれません。
月面展示の彫刻作品、NFTとリンク
同プロジェクトで、ジェフ・クーンズ氏は果てしない宇宙への旅路からインスピレーション
を元に、NFT作品を制作するのだそう。まず、彼の彫刻作品はIntuitive Machines社の月着陸船で月面の目的地へと運び出され、小型衛星に格納されます。そして、彫刻作品にリンクしたNFTを作成していきます。プロジェクトの詳細は今も随時更新中となっていますが、このNFTはギャラリー「PACE」のNFTプラットフォームで販売され、初回売上分の一部を国境なき医師団に寄付することが分かっています。
「Oceanus Procellarum」で永久展示
地球から月までの距離はおおよそ384,400km。そのような地点に展示された作品は、その後どうなるのでしょうか。
同プロジェクトの詳細によると、作品はそのまま月面へと残り、永久展示となるのだとか。したがって、成功すれば初の「月面着陸遺産」となる可能性があります。まさに記録づくめのプロジェクトとなるでしょう。
展示場所は月の西側に位置する、月の海の1つ「Oceanus Procellarum(嵐の大洋)」。マグマが凝固した洪水玄武岩によって覆われた、南北2,600km以上もある広大なこの場所で、人類の進化の証として永遠と存在し続けるのです。
「Moon Phases」が、人類の新たな可能性を広げる
少し前までは、宇宙に進出すること自体が遠い夢のような話でした。しかし、今では多くのアート作品が宇宙へ飛び出し、そしてついに、月面への到達を目前に控えています。
同プロジェクトが成功すれば、アート界の成長はもちろんのこと、これからの人類のあらゆる活動の舞台が地球以外でも行えることの証明ともなるでしょう。アポロ11号の月面到達から53年。月面でのNFTアートの展示は、人類の新たな可能性を広げる大きな一歩となるのでは。
メイン画像Credit:Jeff Koons
綱嶋 直也