宇宙開発と一口に言っても人工衛星の打ち上げや宇宙環境利用など様々ですが、宇宙開発にあまりなじみがなくても、多くの人がその言葉で思いつくのはやはり「ロケット」ではないでしょうか。その力強い打ち上げ風景は宇宙開発を象徴すると言っても良い光景でしょう。しかし、これらロケットの打ち上げは安全確保のために間近で見ることは当然できず、ロケット自体も間近で見る機会は多くありません。
そこで今回は、科学館などの施設で展示されている「本物」のロケットと、その展示場所5選を紹介していきます。
H-Ⅱロケット
・種子島宇宙センター:https://www.jaxa.jp/about/centers/tnsc/
・筑波宇宙センター:https://www.jaxa.jp/about/centers/tksc/index_j.html
H-Ⅱロケットは、1990年代に現在のJAXAの前身であるNASDA(宇宙開発事業団)が開発した2段式衛星打ち上げ用ロケットです。
それまでのアメリカの技術を導入してライセンス生産していたものとは違い、重要な主要技術の全てを日本国内で開発した初めてのロケットで、のちのH-ⅡAやH-3ロケットに繋がる、純国産ロケットでもあります。
7号機よりも先に打ち上げられた8号機が打ち上げ失敗によって失われたことにより、完成した7号機の打ち上げも中止となりました。その7号機は、第1段、第2段ともに種子島宇宙センターのロケットガレージに保管されています。現在も施設案内ツアーに参加するとその姿を見ることができます。
また、H-Ⅱ開発時には試験用の機体が開発されており、打ち上げに必要な様々な実証実験が行われていました。この機体も現在まで残されており、こちらは筑波宇宙センターに完全な状態で、横になって常設展示されています。第1段目のLE-7エンジン装着部のカバーは透明な板になっており、エンジンの構造を下から覗くことができるようになっています。
なお、つくばエキスポセンターの屋外展示場にも、H-Ⅱロケットの実物大模型があります。横向きではなく、縦向きに設置されており、真下から眺めた姿はとても迫力がありますので、こちらもぜひ訪れてみてください。
H-Ⅱロケット実物大模型 Credit:つくばエキスポセンター
H-ⅡBロケット
・名古屋市科学館:http://www.ncsm.city.nagoya.jp/
H-ⅡBロケットはJAXAが開発した2段式衛星打ち上げロケットで、主にISS補給船・HTV(こうのとり)打ち上げのために開発されました。当時の主力ロケットだったH-ⅡAロケットの技術を基礎とし、大きなHTV打ち上げのために第1段目のエンジンを2基束ねて推力を増強させているなどの大幅な改良がなされています。
H-ⅡBロケット開発時には構造試験のために試験用機体が作られており、その第1段エンジン部、第1段燃料タンク、第1段中央部、段間アダプター、そして衛星などを搭載するフェアリングが名古屋市科学館に展示されています。そのほかは展示用のレプリカですが、H-ⅡBロケットの実機を見ることができるのはこの名古屋市科学館の展示のみです。
展示されている燃料タンクは切断されており、その内部構造を見ることができます。ロケットは軽さと丈夫さが求められますが、そのための「はちの巣構造」などの工夫が燃料タンクにも施されており、実際に見ることができます。
名古屋市科学館
M-Ⅴロケット
・JAXA相模原キャンパス:https://www.jaxa.jp/about/centers/sagamihara/index_j.html
M-Ⅴロケットは、1990年代後半から2000年代前半まで活躍した、JAXAの前身であるISAS(宇宙科学研究所)が開発した3段式衛星打ち上げロケットです。
M-Ⅴは赤外線天文衛星「あかり(ASTRO-F)」や太陽観測衛星「ひので(SOLAR-B)」といった科学衛星、火星探査機「のぞみ(PLANET-B)」や、小惑星・イトカワでの試料回収と地球への帰還成功で大きな話題となった「はやぶさ(MUSES-C)」も打ち上げた、日本の宇宙探査史において重要な役割を果たしたロケットです。
M-Ⅴロケットの2号機は月探査機「LUNAR-A」の打ち上げに使われる予定でしたが、LUNAR-A自体の計画が大幅に遅延し中止となってしまいました。また、金星探査機「PLANET-C(のちの「あかつき」。H-ⅡAロケットで打ち上げ)」打ち上げに使われる予定だった9号機も、M-Ⅴロケット自体の廃止によって製造途中の1段目が残されました。
その使われなかった2号機の第2段目と、9号機の第1段目は、合わせてJAXA相模原キャンパスの宇宙科学探査交流棟の前に野外展示されています。しかしM-Ⅴの先端のフェアリングは、断熱材にコルクが使われていて雨に弱いため、フェアリングのみ実物大模型となっています。
ペンシルロケット
・国立科学博物館:https://www.kahaku.go.jp/
・JAXA相模原キャンパス:https://www.jaxa.jp/about/centers/sagamihara/index_j.html
・桃井原っぱ公園:https://www.city.suginami.tokyo.jp/shisetsu/kouen/04/momoi/1007363.html
ペンシルロケットは、日本ロケットの父である糸川英夫氏が責任者となって開発された手のひらサイズのロケットで、1955年にロケット打ち上げのための様々な実験のために用いられたものです。実験装置や人工衛星を載せたりはできないものの、小さくても一つのロケットとして機能しており、150機ほどが実験のために使われたと言われています。日本の宇宙開発の原点と言えるロケットです。
大量に作られたペンシルロケットはいくつか残り、それぞれJAXA相模原キャンパスや国立科学博物館に展示されました。また、ペンシルロケットの初発射の地と言われている現在の桃井原っぱ公園(旧中島飛行機株式会社東京工場)には「ロケット発祥之地」の石碑が置かれ、その石碑にある硝子の蓋の中にも本物のペンシルロケットを見ることができます。
国立科学博物館に展示されているペンシルロケット(筆者撮影)
マーキュリー・レッドストーン(MR-7)
・コスモアイル羽咋:http://www.hakui.ne.jp/ufo/
マーキュリー・レッドストーンは、アメリカの有人宇宙飛行計画「マーキュリー計画」実現のために開発された有人打ち上げロケットです。弾道ミサイルをベースとしたロケットの上に有人宇宙船を搭載したもので、このロケットを用いてアラン・シェパード宇宙飛行士がアメリカ初の有人宇宙飛行に成功、地球周回軌道ではありませんが、宇宙空間に出て再び地球上に降りる弾道飛行に成功しました。
石川県・コスモアイル羽咋には、実際にこれらの弾道飛行に用いられて宇宙を飛んだロケット胴体が展示されています。そのほかはレプリカですが、直立した約25mの有人ロケットのスケールを実感することができます。「MR-7」はアラン・シェパード宇宙飛行士の弾道飛行に用いられたもので、ロケット胴体のみとはいえ大変貴重なものです。
コスモアイル羽咋はアメリカのアポロ宇宙船やロシアのルナ24号月探査機など、NASAやロシア宇宙局と交渉し貸し出された実物が展示されている、他では見られない珍しい展示物が多数ある宇宙博物館です。
展示されている「マーキュリー・レッドストーン」。機体に「MR-7」の文字が見える。
Credit:コスモアイル羽咋
今回は展示されていて実際に会いに行けるロケット5選を紹介しました。
実際に本物を見て、知ることは宇宙開発を理解することにおいてとても重要であり、より深い興味へと繋がると思われます。お近くにロケットが展示されている施設があったら、是非足を運んでみてください。
観覧可能な時間帯などは、それぞれ展示施設のホームページをご覧ください。
<参考>
・姫路科学館 – 本物のロケットや人工衛星に会える博物館や科学館
https://www.city.himeji.lg.jp/atom/planet/stargazing/satellite/rocket.html
・H-Ⅱ展示について
Robot Watch-JAXA、H-Ⅱロケットを一般公開 https://robot.watch.impress.co.jp/cda/news/2007/04/24/460.html
・H-ⅡB展示について
JAXAs No042 https://fanfun.jaxa.jp/c/media/file/media_jaxas_jaxas042.pdf
・マーキュリー・レッドストーン展示について
産業技研史資料データベース – マーキュリーレッドストーンロケット
http://sts.kahaku.go.jp/sts/detail.php?no=100710221035
SPACEMedia編集部