• HOME
  • イチBizアワード2023
  • 地理空間情報を用いた課題解決のアイデアを発掘し、コミュニティを形成する―内閣官房 - SPACE Media

地理空間情報を用いた課題解決のアイデアを発掘し、コミュニティを形成する―内閣官房

地理空間にまつわるデータを駆使した社会課題解決のビジネスアイデアを募る
『イチBizアワード』。事業化と社会実装、2つの視点で8月末までアイデアを受付中だ。
本アワードを企画した内閣官房に、そのねらいと目指すところを聞いた。

大久保泰輔 氏(おおくぼ・たいすけ)
内閣官房 地理空間情報活用推進室

建設、農業、防災… 活用が進む「地理空間情報」の社会実装を加速

― 内閣官房が主催する『イチBizアワード』は、昨年に第1回が開催された新しいアワードです。「地理空間情報」をテーマにしたアワードを企画された背景を教えてください。

大久保氏 『イチBizアワード』を企画している内閣官房地理空間情報活用推進室は、地理空間情報の活用推進を目的とする組織です。

背景には、2007(平成19)年に施行された「地理空間情報活用推進基本法」という法律の下、5年周期で政府全体として取り組むべき基本計画が取りまとめられてきました。直近では、2022(令和4)年3月に、第4期の「地理空間情報活用推進基本計画」が策定されています。

第3期基本計画では準天頂衛星4機体制等の基盤整備を着実に進めるとともに、ダイナミックマップを活用した自動運転車(レベル3)や農機の自動走行システムの市販開始等の社会実装が進んだと言えます。

第4期では、地理空間情報の活用を進め、社会実装をさらに加速させていくことを目指しており、指針の1つとして地理空間情報活用人材の育成や交流支援を推進することを掲げています。

― 地理空間情報の活用はすでに社会のあちこちで進み始めているのですね。ビジネスに活用されている事例などはもうあるのでしょうか?

大久保氏 例えば、水災で被災した際の保険支払には浸水時に地盤面からの浸水の高さで支払い対象になるかが決まるという基準があり、衛星画像などを用いて被災地域の特定や浸水状況の確認などに活用している例があります。また、最近ではAI(人工知能)などの新技術も出てきているので、同じ箇所を撮影した複数の衛星画像から差分を自動抽出し、都市の変化等の地上での変化を捉えるといった活用もなされています。

地理空間情報は、スマートフォンの地図アプリをはじめとして、
日常生活に欠かせないものとなっている

そもそも、「地理空間情報」とはどのような情報か?

― 「地理空間情報」と聞くと、地図アプリのようなものをイメージしますが、具体的にはどのような情報を指すのでしょうか。

大久保氏 地図アプリに用いられるデジタル地図も、もちろん地理空間情報の一つです。地理空間情報は、かなり広い概念で、特定の地点やエリアを示す位置と、それに関連づけられたさまざまな情報を指しています。例えば、ある地点の病院の位置の情報に紐付く、病院の施設名称、診療科目、病床数といった付随する情報を合わせて地理空間情報と呼んでいます。

地理空間情報の技術的な基盤は、位置を把握するための衛星測位技術と、さまざまな地理空情報を活用するための地理情報システム(GIS)の二本柱です。衛星による測位は、スマートフォンなどのGPSに代表されるように、今いる位置の情報を示してくれるものです。

一方のGISは、さまざまなデータをレイヤとして重ね合わせて視覚的に表現、分析できるシステムです。複数のデータを組み合わせることで、1種類のデータでは見えなかった示唆が得られることもあります。例えば、避難施設の情報、災害時の自動車通行実績情報を基盤となる地図上に重ね合わせることで、災害時の安全な避難ルートを示すこと等が考えられます。

データを組み合わせることで新たな価値が見えてくる

― 地理空間情報を活用して課題解決を考える際には、複数の情報を組み合わせることが重要なポイントになりそうですね。

大久保氏 そうですね。最初に申し上げたように、農業分野ではロボットトラクターによる耕作やドローンによる農薬散布などに、位置測位や農地の区画データ等が組み合わされて実現されています。

また、さまざまな主体の持つ独自のデータの組み合わせが社会的価値を創出した事例としては、2021(令和3)年7月に発生した熱海市伊豆山土石流災害があります。これは山の上部の盛土が崩落したことで起きた災害でしたが、災害発生以前のこのエリアの地形の3次元点群データがオープンデータとして公開されていました。このオープンデータや官民の持つ独自のデータを用いて土石流の発生前後でデータを比較したことで、盛土の存在や今後の崩落危険のある場所がわかり、二次災害の防止に役立ったのです。

地理空間情報関連では、「G空間情報センター」において、3次元データや車・人の流れ、まちづくり・不動産などさまざまなテーマのデータセットが公開されています。また、衛星画像は「Tellus(テルース)」などで公開されています。有償データもさまざまあり、これらを組み合わせることで課題に対するこれらの情報の組み合わせから、アイデアのヒントが生まれるかもしれません。

無償・有償さまざまな衛星データ画像が集められたデータプラットフォーム
「Tellus(テルース)」。提供されているデータを眺めるだけでも
どのような活用ができそうか、アイデアが刺激されそうだ

自由な発想で社会課題や日常の困りごとを見つめ直す

― アイデアを考える際には、「何のために」という目的意識も大切ですね。

大久保氏 はい。昨年のアワードでは、農業適地の評価や海岸侵食の監視、空き家問題への対応など多彩なアイデアが寄せられました。気候変動や環境問題などの大きな課題だけでなく、身近な課題への対応も大切なことだと思います。メタバースや生成AIなど、最新技術と地理空間情報を組み合わせることでも、アイデアが生まれるかもしれません。

もう一つお伝えしたいのは、「手間やコストが少なく目的を達成するには?」という視点です。

海岸侵食監視のアイデアは、衛星画像を使うのではなく、海岸を訪れた人々がスマートフォンで撮影した画像データを活用するというものでした。別の目的で撮影された画像が海岸侵食の把握にも役立つわけで、最小の労力で課題解決も達成できるアイデアとして参考になるのではないかと思います。

― イチBizアワードに関心をもつ方に向けて、メッセージをお願いします。

大久保氏 第2回となる今回は、多様な分野の協賛企業の皆さんや自治体も巻き込み、コミュニティ形成に力を入れていきます。年明けにはアイデアの優秀賞受賞者、事業会社、自治体等の方々を招いたコミュニティイベントの開催も計画しています。新しい発想をもった人、技術をもつ人など、さまざまな人がつながり、それぞれの強みを生かすことで、よりビジネスを発展させることもできると思います。

今年度はビジネスの観点を強めたアワードにすることを目指しています。一方で、さまざまな方にご応募いただけるよう、アイデアとして応募できる部門も用意しています。その他、応募者向けに講座を提供するので参考にしていただけると幸いです。ビジネスプランとして必ずしも完成されたアイデアである必要はありません。多くの方に、自由な視点で発想したアイデアを応募いただきたいと考えています。

昨年の『イチBizアワード』受賞者の皆さん。今年のイチBizアワードでは
社会実装の加速を目指し、ビジネスの観点を重視していく
Credit: 内閣官房

【イチBizアワードについて】

『イチBizアワード』は、内閣官房による、地理空間情報を活用したビジネスアイデアコンテストです。
2022年に第1回が行われ、第2回は2023年8月31日までアイデアの募集が行われました。応募されたアイデアは、審査を経て2023年11月上旬に結果発表が行われる予定です。

https://www.g-idea.go.jp/2023/