動き出した第三期「宇宙戦略基金」、企業が見据えるべき方向は ―JAXA宇宙戦略基金事業部・佐々木宏GPに聞く

動き出した第三期「宇宙戦略基金」、企業が見据えるべき方向は ―JAXA宇宙戦略基金事業部・佐々木宏GPに聞く

一昨年度の創設から大きな注目を集めている「宇宙戦略基金」。第一期、第二期の採択が完了し、現在は第三期の公募が開始されはじめています。

第一期、第二期を経て、民間企業による宇宙への挑戦のすそ野を広げていくフェーズにある今、第三期に向けて新たに基金へ挑戦する企業に求められる視点とはどのようなものでしょうか。

JAXA宇宙戦略基金事業部にてゼネラルプロデューサー(GP)を務める、佐々木宏氏に聞きました。

佐々木 宏(ささき・ひろし)
宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙戦略基金事業部 参与/ゼネラルプロデューサー
1987年宇宙開発事業団(現 JAXA)入社、有翼往還機(HOPE)・再突入実験機(OREX)の研究やロケットエンジン(LE-7)の開発など、宇宙輸送系の研究開発に従事。1995年にHTV(こうのとり)プロジェクトに参画し、2002年にHTVプロジェクト サブマネージャーに就任。その後、経営企画部 次長、宇宙科学研究所 科学推進部長、国際宇宙探査センター長、有人宇宙技術部門長を歴任。2024年より現職。

研究開発の最前線から「ファンディングエージェンシー」まで

ロケットエンジンの研究から宇宙ステーション補給機「こうのとり」(HTV)のプロジェクトマネジメントまで、約30年にわたってJAXAで宇宙開発に携わってきた佐々木氏。宇宙開発の最前線から、基金という産業やビジネスの目線も必要な領域への異動はギャップもあったように思えますが、宇宙戦略基金事業部に着任してからこれまでをこう振り返ります。

「探査センター長や有人宇宙技術部門長を務めていた頃から、月面開発での官民連携や、宇宙ステーションの民間移行という議論が活発になっていました。その流れの延長線上に基金の業務があると思っているので、大きなジャンプがあったとは感じていません。ただ、立ち位置や役割は大きく変わりましたね」

これまでの宇宙開発では、多くの場合JAXAがプロジェクトの主体として開発を進めてきましたが、宇宙戦略基金では民間事業者が主体となり、JAXAは研究課題の選定や資金提供、選定先への助言などを行う「ファンディングエージェンシー」の役割を担います。予算規模も従来の共同研究に比較して大きなものが多くなりますが、佐々木氏は最終的な意思決定は事業者側が行うという原則を意識していると言います。

新しい宇宙開発の世界に向け、民間の宇宙技術開発をエンカレッジする

宇宙戦略基金は第一期・第二期の公募・採択を経て、多様な企業・機関の宇宙技術開発を支援しています。佐々木氏は、事業者との「距離感」がこれまでの研究開発と基金との大きな違いだと話します。

「JAXAやNASAには、長年の研究開発の中で培われてきた基準や方法論があります。でも、事業者の皆さんはそれとは全く違う考えのアプローチをとることも多々ある。これではうまくいかないのでは、と思うこともありますが、新しい世界はそういうチャレンジからしか生まれないということは、SpaceXを見ていても感じます。さまざまな人が参画して挑戦することが必要だと思いますし、そのときに私たちとして事業者の皆さんとどのくらいの距離感で付き合っていくべきかということは、今一番考えているところです」

宇宙ビジネスの世界を一変させたSpaceXの草創期から同社とかかわりがあったという佐々木氏。従来の常識を超えた挑戦が現在につながったという同社の成長を目にしたことが、現在の姿勢につながっているということです。

これまでは、「予算を無駄にしてはいけない、失敗してはならない」という考えの下、物事を徹底的に詰めてから進められてきた宇宙開発の世界。その結果、一つのミッションの運用が開始されるまで5年程度を要するということも珍しくありません。しかし、国際情勢が目まぐるしく変化し、宇宙開発競争も激化する中、世界に伍する宇宙開発を進めていくためにはスピードを上げていくことも求められます。

適時にアドバイスをしながらも、踏み込みすぎずに多様な事業者のチャレンジをエンカレッジしていきたい、と佐々木氏は語ります。今までとは少し距離感の違う関係性が築かれていく中で、新たな宇宙開発のかたちが模索されています。

非宇宙産業からの問い合わせも増加、国内外で高まる基金への注目

宇宙戦略基金の創設は国内企業に大きなインパクトがありました。非宇宙領域の企業などからJAXAへの問い合わせが増加するとともに、製造業やアカデミアからの技術活用の相談や、学会・業界団体からの講演要請も増えたそうです。

また、海外からの関心も高く、海外の宇宙関連イベントや会議に参加すると、宇宙機関・民間企業を問わず基金への質問が多くあると佐々木氏は手応えを語ります。

「昨年までは制度の目的など基礎的な質問が多かったのですが、最近は具体的な質問が増えてきました。アメリカでは日本との協力、または日本の成果をどう取り込むかという観点、ヨーロッパは一緒に協力できないかというスタンス、それ以外の国々は仕組みを参考にしたいという感じで、国により質問の方向性はまちまちですが、注目を集めていることは感じています」

宇宙領域参入の第一歩となる「イベント参加」と「問い合わせ」

自社の技術を生かして宇宙開発に挑戦したい、宇宙戦略基金の技術開発テーマに応募したい、と考える企業は、まずどのようなアプローチをすべきでしょうか。

JAXAでは、宇宙戦略基金ホームページに問い合わせ窓口を設置しており、基金に関する具体的な相談と、基金で設定されている技術開発テーマに関する技術・アイデアの提案を受け付けています。

特に、「アイデア提供等」の窓口では宇宙戦略基金に限らず、JAXAが実施している産業支援プログラムについても問い合わせることができるため、基金事業に当てはまるか判断がつかない場合でも、対応を検討してもらうことが可能です。

また、JAXA新事業促進部にも産業相談窓口があり、宇宙戦略基金を含めて幅広く相談を受け付けています。基金への応募はまだハードルが高いと思われる段階でも、内容によっては宇宙探査イノベーションハブでの共同研究やJAXA宇宙イノベーションパートナーシップ(J-SPARK)など、別の枠組みで取り組みを始められる可能性があるとのこと。

「基金に限らず、いろいろな産業の方に宇宙を目指してもらいたいという思いがあります。問い合わせに限らず、我々が主催するイベントの場などで、直接お話をしに来られる方もいらっしゃいます」 基金を含め、宇宙領域の技術開発やビジネス開発に取り組むための入口は複数あります。まずは臆せずコンタクトを取ることで道が開けてくるかもしれません。

宇宙戦略基金を活用した国際協業の新枠組み「Co-funded事業推進枠組み」

第三期に関して、内閣府の宇宙政策委員会では「他分野技術との連携・融合による宇宙分野での実証」「宇宙技術の統合による実証の加速」、そして「輸送技術の実証加速・商業化支援」という方向性が出されています。

将来を見据えた要素技術の開発という色合いの濃かった第一期、第二期から、技術の実証に向けて動き出している第三期ですが、第二期から新たに取り入れられている取り組みの一つに、「Co-funded事業推進枠組み(CBPF)」があります。これは、宇宙戦略基金を呼び水に、日本企業が他国企業との協業や相手国の資金・市場の獲得を目指せるようにする仕組みです。

本枠組みでは、基金で採択された事業や、2国間の企業による共同事業等に関する企業情報を、宇宙機関同士の信頼関係のもとで共有し、得られた情報を双方の国の宇宙機関が一部の事業で審査・評価等に活用します。 すでに英国宇宙庁(UKSA)、フランス国立宇宙研究センター(CNES、参考記事)と合意に達しており、英仏以外にも複数の国と合意に向けた準備が進んでいるということです。

「Co-funded事業」のイメージ
Credit:「Co-funded事業推進枠組みについて」(宇宙航空研究開発機構〔JAXA〕調査国際部、宇宙戦略基金事業部、新事業促進)資料より

Co-funded事業推進の背景には、民間での宇宙開発が増加する中、各国の宇宙機関の間で、国をまたいだ民間企業の連携をいかに促進していくかが話題になっていたという経緯があるといいます。

宇宙開発や宇宙ビジネスは、国際協力・国際展開という視点抜きに考えることはできません。Co-funded事業による企業同士の連携促進は、日本企業の海外進出の大きな後押しになると思われます。

また、日本企業と海外企業の接点構築という面ではすでに取り組みが行われており、国内外の大規模宇宙カンファレンスに合わせた企業ブースの相互訪問やマッチングイベントなどが実施されています。こうした機会を逃さず活用することも、宇宙ビジネスの展開に重要な視点です。

JAXAが宇宙ビジネスを展開する日本企業に行ったアンケートでは、企業が扱う製品・サービスによって目指す地域の方向性が異なるという結果が出ています
Credit: 日本の宇宙ビジネスの海外展開支援に係る企業アンケート2025 集計結果(速報版)(JAXA 新事業促進部・宇宙戦略基金事業部)

基金はゴールではなく、ステップ ビジョンを掲げ、勝ち筋を描く

宇宙戦略基金への挑戦を検討する企業に向け、佐々木氏はこう呼びかけます。

「基金はゴールではなく、あくまでも一つのステップです。何を自分たちの勝ち筋として、どのように事業を進めていくのか、その道筋の中で基金を役立てる、と考えていただければと思います」

そして、これまでに採択されてきた提案は、「技術の実現性と事業化に向けた道筋がはっきりしている」と佐々木氏は指摘します。

「よいアイデアや技術をもっている方はたくさんいます。それだけでなく、いかに事業化に向けたステップ、将来につなげられるシナリオが描けているかが重要だということだと思います」

核となるアイデア・技術をいかに事業化につなげるか。未来を見据えたシナリオを構築することが宇宙技術開発、宇宙ビジネスの構想に必須の観点だといえそうです。

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