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【海外動向】フランス宇宙産業の現在と将来展望 ―フランス国立宇宙研究センター(CNES)インタビュー

ヨーロッパの宇宙機関というと欧州宇宙機関(ESA)を思い浮かべる方も多いと思いますが、ヨーロッパ諸国の中には独自の宇宙機関をもつ国も存在します。フランス国立宇宙研究センター(CNES)もその一つで、CNESは日本にオフィスを構えています。

世界的に宇宙開発・宇宙ビジネスが成長する中でフランスはどのような取り組みを行っているのか? また日本との協力などについてどう考えているのか? 在日フランス大使館 宇宙開発参事官で駐日CNES地域代表のジュリアン・マリエズ(Julien Mariez)氏に聞きました。


ジュリアン・マリエズ(Julien Mariez)
在日フランス大使館 宇宙担当参事官(2021年9月より)。日本、韓国、東南アジアとの協力を担当。2004年にフランス国立宇宙研究センター(CNES)入所、宇宙法および国際協力を担当する法務官としてキャリアを開始。2012年に法務部長に就任。CNES在職中、国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)法律小委員会においてフランス代表団の一員を務めた。

在日フランス大使館の一部、そしてフランス宇宙機関の代表として― 2つの顔をもつCNES

港区・広尾にある在日フランス大使館の中に、フランス国立宇宙研究センター(CNES)のオフィスがあります。大使館内に拠点を置く理由を、在日フランス大使館 宇宙担当参事官のマリエズ氏はこう説明します。

「CNESは在日フランス大使館の一部として、2つの役割をもっています。一つ目は大使館の一部門として大使にアドバイスを行うこと、もう一つが日本におけるCNESの代表としての役割です。CNESは公的機関ですが、政府とは独立した組織です」(マリエズ氏)

CNES東京オフィスは、日本での宇宙外交政策の促進を目的に2000年に設立。宇宙航空研究開発機構(JAXA)との協力に加え、内閣府や文部科学省、経済産業省といった宇宙関連の省庁との窓口も担っています。日本以外にも、中国、インド、アラブ首長国連邦(UAE)、ドイツ、イタリア、ベルギーの大使館内にオフィスが設置されているということです。

一方で、ヨーロッパには欧州連合(EU)の宇宙機関として欧州宇宙機関(ESA)があります。CNESとESAはどのような関係なのでしょうか。

「ESAは、欧州諸国が単独では実施できない宇宙プログラムを可能にする国際協力メカニズムです。フランス、ドイツ、イタリアは独自の宇宙機関をもっていますが、そのほかのEU諸国にとってはESAが唯一の宇宙機関です。ESAの中で、CNESはフランス政府を代表してさまざまな委員会に出席していますが、CNESとESAは宇宙機関同士としての協力もしています。私たちはESAのメンバーであると同時に、外部パートナーでもあるわけです」(マリエズ氏)

ちなみに、フランスはドイツと並ぶESAの2大貢献国。CNESの予算から、年間約10億ユーロ(約1,700億円)をESAに拠出しているということです。

宇宙活動を幅広くカバーするフランスの宇宙産業 政府による支援も

フランスには、宇宙航空領域の大企業が複数存在しています。マリエズ氏は、フランスは宇宙活動のすべての分野で産業リーダーを擁していると語ります。

「宇宙輸送ではESAの基幹ロケットAriane 6を開発するAriane Groupや打上げ事業者のAriane Space、衛星分野ではAirbus Defense and SpaceとThales Alenia Space、衛星通信事業者としてはEutelsatがあります。フランスの宇宙産業は打上げと衛星分野に特に強みがありますが、注目すべきは、この10年で150社以上の宇宙スタートアップが設立されたことです。宇宙輸送、軌道上サービス、通信、衛星データ活用など、さまざまな分野で新興企業が誕生しています」(マリエズ氏)

フランスは航空機や自動車等の製造業が発達しており、ハードウェア関連が強い印象がありますが、現在はアプリケーション領域も伸びているといいます。反面、マリエズ氏は探査や宇宙環境利用については日本のispace、Space BDなどが先行していると捉えているそうです。

航空機・自動車産業などが強い印象のあるフランスですが、宇宙関連ではアプリケーション領域の企業も伸びていると説明するマリエズ氏

こうした中、フランス国内でも宇宙産業を支援する政策が動き出しています。

「政府による宇宙産業への支援として、2つの重要なメカニズムがあります。一つは、マクロン大統領が創設した5カ年にわたる国家投資計画『France 2030』で、宇宙分野に15億ユーロ(約2,600億円)の予算が割り当てられています。新技術や新規参入者、スタートアップの創出が目的で、小型の再使用型ロケットや宇宙経済の発展を重点分野としています。2つ目は『Connect by CNES』という支援メカニズムで、約20人の専門チームが中小企業・スタートアップに投資、技術支援、B2Bネットワークを提供します」(マリエズ氏)

『Connect by CNES』はフランス企業向けの施策ですが、B2Bネットワークの提供においてはフランス国内の中小企業・スタートアップを国際的なエコシステムにつなぐこともミッションで、日本はそのネットワークの対象国になっているとのこと。日本の宇宙ビジネス関連企業にとっても見逃せない政策といえるでしょう。

宇宙産業への支援を進めるフランスですが、マリエズ氏は日本の宇宙産業の成長に注目しているといいます。

「私たちは日本のエコシステムの台頭と日本政府の強力な政策支援を目の当たりにしていますが、まだこのことを知らないフランスの関係者も多いので、日本のポテンシャルを伝えることも私たちの役割です。ニュースレターによる発信などを行っており、日本をパートナーシップの有望な対象と見なすフランス企業からの問い合わせが最近増加しています」(マリエズ氏)

マリエズ氏は、CNESとJAXAの間でよい関係が築かれている中、これを日仏の産業界にも拡大していく必要があると話します。アストロスケール(参考記事)やBULLがすでにフランスに進出していますが、マリエズ氏はフランス企業が手がける海洋監視や宇宙監視アプリケーションは、日本に市場のポテンシャルやパートナーシップの可能性があると期待を寄せます。そして、両国共通の関心分野である防衛分野でも協力の可能性があるとします。

なお、フランスの宇宙セクターは企業数・雇用面で欧州最大の規模となっており、約7万人が宇宙分野で働いています。一方で、非宇宙領域の企業の宇宙ビジネス参入という転換はまだ十分に進んでいないとも指摘します。たとえば、日本ではトヨタやホンダなど自動車関連の非宇宙企業が宇宙分野に参入していますが、ルノーやプジョーといった自動車メーカーの参入はまだ少ないそうです。

また、マリエズ氏は10年間で1兆円(約60億ユーロ)が投じられる日本の「宇宙戦略基金」を評価します。

「素晴らしい取り組みだと思いますし、フランスにも同じようなものがあればと感じます。宇宙輸送、衛星、探査の3つの柱に基づく構成も優れていますね。この基金を通じ、日本はエコシステム強化と重要分野における世界的リーダー企業の創出、JAXAや防衛省の活動への貢献、そして、これまで日本は輸出が限定的だったことが弱点だったと思いますが、国際市場での競争力強化が達成できるのではないでしょうか」

日本の「宇宙戦略基金」は、フランスの宇宙関係者にとっても印象的な取り組みとして捉えられているとのこと

日仏宇宙協力の現状と展望 科学・産業ともにいっそうの関係深化を

続いて、宇宙開発と宇宙ビジネス、双方の面でのフランスと日本の今後の協力のあり方について聞きました。

「まず、宇宙機関としてCNESとJAXAの協力があります。フランスにとって日本は重要なパートナーですが、米国の宇宙政策の変化により、この関係の重要性はより高まる可能性があります。先日就任したフランソワ・ジャック(François Jacq)総裁は、議会での聴聞で、米国の撤退により生じる困難を克服するための重要なパートナーとして、日本に何度も言及しています。現在、宇宙開発・探査領域では、日仏独による第一段再使用型ロケット『CALLISTO』開発や、CNESがローバー等を提供する火星衛星探査ミッション『MMX』、高感度太陽紫外線分光観測衛星『Solar-C』ミッションなどが進められており、将来的には有人宇宙飛行・探査分野での協力も期待されます。2030年の国際宇宙ステーション(ISS)退役後の選択肢はまださまざまある状況ですから、日仏の間で新しい協力のあり方が見出されることを期待しています。産業レベルでは、AirbusとThalesがスカパーJSATに衛星を提供しているほか、フランスのスタートアップUnseenlabsが海上保安庁に海上監視サービスを提供するなど、協力が進んでいます」(マリエズ氏)

アメリカの政策方針が大きく転換する中、日本とフランスの協力はこれまでの関係から、より深く、幅広いものになっていくかもしれません。

そして、マリエズ氏がもう一つ重視する分野として挙げるのが「サステナビリティ(持続可能性)」です。

「先ほど申し上げた日本のスタートアップBULLはフランスに会社を設立しましたが、同社は打上げ機や人工衛星などの宇宙物体を運用終了後に軌道離脱させる装置の開発を進めていますよね。デブリ除去などの宇宙のサステナビリティは非常に重要な項目で、日仏共通の関心分野であると思います」

CNESでは、クロスユー、SPACETIDEなど、日本のエコシステム発展を担う民間団体とも関係を構築しています。この背景には、フランス政府が日本との産業パートナーシップを発展させることを明確な目的として掲げていることとも関連します。

マリエズ氏は今後、欧州、そしてフランスでは宇宙政策関連で動きがあることも教えてくれました。

「今年11月にドイツで開催されるESA閣僚理事会で、今後のESA活動への資金提供が決定される予定です。また、フランスでは10月に新宇宙政策が発表される予定で、打上げ・防衛分野での戦略的自律性強化と産業エコシステム強化が柱になると予想されます」

さらに、マリエズ氏は個人的な希望として、「日本との共同資金調達メカニズムが創設されれば」とも語ってくれました。ロケットや衛星、さらには将来の民間宇宙ステーションなど、宇宙開発は人類全体に大きな発見や貢献を提供する代わりに膨大な資金を要します。国という枠を越えた資金調達の仕組みがあれば、より大きな取り組みを効果的に進めることができるかもしれません。

最後に、マリエズ氏は日本の宇宙ビジネス関係者に向けてこう呼びかけてくれました。

「私たちは日本の宇宙関係者との交流と、フランスの宇宙エコシステムの紹介を目的としています。フランスの産業界やCNESとの関係構築を歓迎しますので、フランスでの宇宙ビジネスに興味のある方はぜひご連絡ください」

フランスの宇宙関係者向けニュースレターを担当したガブリエル・ギシュさん(左)とともに。背景は、2024年に開催されたパリ2024オリンピック・パラリンピックの機運醸成のために掲げられた「Terre de jeux 2024」(大会の地、の意味)のラベル

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