2023年11月8日、建設大手の鹿島建設株式会社（東京都港区、代表取締役社長 天野裕正）は、神奈川県小田原市の「鹿島西湘実験フィールド」とJAXA相模原キャンパスを結んだ自動遠隔建設機械による月面での作業を想定した実証実験を行い、月面の永久陰領域等での施工に必要となる構成技術、要素技術の妥当性を確認することができたと発表した。
これは、鹿島が代表者となり、JAXA（宇宙航空研究開発機構）と学校法人芝浦工業大学の3者が2021年から参画している国土交通省の公募事業「宇宙無人建設革新技術開発推進事業」における研究開発の一環として行われたもの。
今回の実験では、JAXA相模原キャンパスを指令拠点とし、3台の自動・遠隔操作用に改造した建設機械（バックホウ2台、クローラダンプ1台）を「鹿島西湘実験フィールド」に配置。
月での水掘削を想定した掘削・運搬作業シナリオに基づき、自動制御と遠隔操作のハイブリッド施工を実証した。
今回は汎用の建設機械を用いており、また、起伏や凹凸が少なく地盤性状が既知の環境であるといった実際の月面の環境とは異なる条件ではあったが、自動運転と遠隔操作により複数の機械を同時に稼働させた。
具体的には、レーザー距離計（LiDAR）を用いて自己位置の推定と環境地図の作成を同時に行うSLAM技術により、周囲環境の地図作成と自己位置推定をしつつ、月面の永久陰領域等での作業を想定したシナリオに沿って実験が行われた。
その結果、GNSS（全地球航法衛星システム）等の測位システムがなく、通信遅延が発生する環境でも、複数の建設機械が土砂の掘削・運搬作業を効率的に行うことができた。
これにより、月面の永久陰領域等での作業に必要となる構成技術、要素技術の妥当性が確認できたことになる。
3者は今後、今回の一連の作業を精緻に再現するシミュレータの開発を進め、実証実験で得られたデータや月面環境データを活用して月面上での作業を模擬する段階につなげていくとともに、今回の実験で測位技術として活用したSLAMを地上の現場でも活用していく方針。
現状、2040年頃には1,000人程度が月に居住することが実現するとされている。そうした環境を実現するためには、インフラや居住空間などの建設が必須となる。
今回の実証実験で、自動制御・遠隔操作による施工作業の技術的な妥当性が確認できたことは、人類の月での居住に向けたステップが一つ進んだと言えるのではないだろうか。
なお、鹿島の月面開発にかかわる取り組みは、2023年9月13日に開催された総合宇宙イベント「SpaceLINK」のセッション「つながる・わたしと月面開発」でも紹介されている。
