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月面探査ローバー「YAOKI」で月面開発を進める!- 株式会社ダイモン

現在、アルテミス計画を中心とした月面探査の準備が着々と進んでいます。月には様々な資源がありますが、今後はそれを利用して月面基地を建設したり、月を中継地点として火星を目指したりするなど、月面拠点を整備することが鍵となっています。そこで、月の地図情報の取得を可能とする月面探査ローバー「YAOKI」の開発を手掛ける株式会社ダイモンの(CEO兼CTO)・中島氏と(COO)・三宅氏に、ローバーが宇宙ビジネスにもたらす価値についてお話を伺いました。

世界最小の月面探査車「YAOKI」
月面探査ローバー「YAOKI」
Credit: 株式会社ダイモン

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月面探査によって実現する未来

―本日はよろしくお願いします。御社では月面探査ローバーYAOKIを開発しているとのことですが、月面探査の意義についてお伺いしてもよろしいでしょうか。

三宅氏 私たちは、将来的に月の資源を利活用していくということを見据えて月の精緻な地図情報を構築することを目指しています。現在でも地表部分については月周回衛星「かぐや」によって5メートルメッシュの地図情報はありますが、衛星による撮影ではこの程度の精度に留まります。そこで、月面地表に降りてその場で探査することによりcm級の精度の地図情報を作り、さらに土壌成分情報も加え、今後の資源採掘や精製、製品化までの全体設計に役立てていきます。月面はレゴリスで覆われていますが、その下には水、鉄、チタン、マグネシウムといった資源があり、これらの活用はさらなる月面開発、宇宙開発には欠かせません。そしてこうした素材は今後月面で工場を建設していく際には必ず必要になります。

―月面工場ですか。いまの私にはまだ想像もつきません。

中島氏 地球から月にモノを運ぶとしたら、1kg運ぶのに1億円かかるといわれています。例えばトヨタが開発している月面ローバーのルナ・クルーザーは6トンですが、運ぶだけで6000億円かかることになります。もし現地の資源を利用してこれを現地で作れれば、圧倒的に安価に月の開発が進められます。日本の企業でそのようなことができたらいいなということで、日刊工業新聞と定期的な勉強会を開き、将来の月面工場建設に向けた取り組みを行っています。

―月面開発フォーラムのことですね。

三宅氏 月の資源による月での生産活動はYAOKIで実現したいことの1つですが、具体的な技術仕様などはまだ先の話で、整っていない部分がたくさんあります。日本が早く行って早く始めれば、日本で標準をとれます。日本工業新聞は、創刊して100年以上産業の新聞としてモノづくりを支えてきており、であれば月でのモノづくりも支えようということになりました。2000社の企業に呼び掛けて、月で工場を作って生産することの価値の理解と具体的に実行する手段を学ぶということで、月面開発フォーラムを企画しています。ちなみに、フォーラムは毎月満月の日に実施しています。

―2000社も巻き込んでいるのですね!日本がリードしていきたいとのことですが、日本企業が月面開発に取り組む優位点はどのようなことがあると考えられますか。

三宅氏 日本の製造業の競争優位性の高さは、精度の高さにあります。カイゼンにより品質の高いものを大量に作る生産ラインや細かなところまで気が配れる生産システムを持っています。月面開発はほぼ100%遠隔自動制御になるので、現地できちんと動くものを作らないといけません。そうなると、重箱の隅まで気にするような日本のモノづくりの精神性は優位になると思っています。

月面工場の構想図

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徹底的な改良を経てきたYAOKI

―続いて、探査ローバーYAOKIの話を伺っていきたいと思います。先ほど月までの輸送は1kgで1億円という話がありましたが、YAOKIも相当な軽量化がなされていると聞きました。どのような工夫を行ってきたのでしょうか

中島氏 まず、開発を始めた10年前の頃はローバーといえば4輪や6輪が通常でしたが、そこを2輪にしました。当初は無理だとよく言われましたが、今ではそれなりに2輪も認められていて、他にも2輪の開発事例が出てきています。あと、強度解析による改良は100回以上は行いました。これに8年かかりました。この100回という数字は意味のあった改良についてのみの回数で、やってみたけどダメだったということも含めると何千という回数を重ねました。

―すごい試行回数ですね。一番印象に残っている改良点はなんでしょうか。

中島氏 車輪の形状を半球状にし、ボディも球体にして、車輪の中にボディが入るダンベルのような形にしたことですね。なぜこれを強調するかというと、丸みを帯びた設計というのはやはり良いなと感じたからです。人工衛星などの宇宙構造物の多くはカクカクしていますよね。作りやすい設計だし、重力が無いから丸さは必要ないということでもあると思いますが、強度設計的には角が立つと無駄な強度があったり応力集中が生じたり、また熱が角に溜まったりもします。しっかり設計を見直せば改良の余地があるのではないかという思いが以前からあったので、丸みを帯びたダンベル形状のものを作って試してみたら、やはり強度が向上し、大きく軽量化することができました。副産物として走行性能も上がりましたね。車輪の中に隙間なくボディを埋めることで、砂が入る余地がなくなって沈み込みにくくなりました。

―丸みを帯びた方が良いというのは、どういうところからの発想なのでしょうか。

中島氏 私はもともと自動車などの機体設計をやっており、設計が洗練されてくるとどんどん角が取れて丸くなっていくという実感が経験的にありました。設計を見るだけで、どのレベルまで洗練されているかどうかわかりますよ。試作品は明らかにカクカクしています。人工衛星は浮いているだけなので作りやすいカクカクした設計でも構わないですが、ローバーは月面の重力下にありますから、やはり地球上の自動車と同じ発想で取り組む必要があります。

―なるほど。地球上と同様に開発するという話がありましたが、逆に月面探査ローバーを地上転用するという試みはあるのでしょうか。

三宅氏 月面探査ローバーの特徴は、月面という厳しい環境で空間把握を行うということです。この点を見れば、人間が立ち入ることができない劣悪な環境に飛び込んでその状況を把握するということで、地上でも適用先があります。最初に思いつく適用先は、福島第一原子力発電所の廃炉ですね。人間が立ち入れないけど内部のデブリを除去しなくてはならない、しかし状況がよくわからない、というケースです。それ以外では災害時の対応です。河川や火山など入り混みづらい場所の状況を把握することに適しています。あとはトンネルを作る時の状況把握といったことも考えています。室内用や舗装された道でのロボットというのはたくさん開発されていますが、こうした環境下でのロボットはやはりまだあまり開発が進んでいません。

―地上での利用について具体的に進んでいるプロジェクトなどはありますか?

三宅氏 公表できないものもありますが、例えば9月6日に福島イノベーション・コースト構想の共同記者会見に参加して、YAOKIというプロジェクトを用いて月面の産業を復興の一つにすることに加え、これを利用して廃炉事業に繋げたいということを伝えました。

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ダイモンのこれから

―現在6人という少数で開発を行っているとのことですが、なぜそんな少数でここまでのことができるのでしょうか。

中島氏 始めた頃はずっと一人でした。そして、YAOKIの名の通り、毎週毎月七転び八起きという日々を過ごしています。6人に増えたとはいえ、そんな少数で臨んでいるのは私たちだけで、一般的に見れば異常かもしれません。それでもここまで成り立ってこられているのは、無理だとか絶体絶命だとか、こういう感覚は人間の想像力の少なさによるものだからだと思います。やってみれば思いがけないところでうまくいったりする、人間の想像力には限界があるわけです。

―なるほど。今後、いずれ人数を拡大したり拠点を増やしたりするということは考えているのでしょうか。

中島氏 そうですね、ずっと6人というわけにはいかないと思います。包括的な機能は持っていませんから。なので、数十人という規模は必要だと思います。でも具体的にどれくらいかは協議中です。50人必要だと考えるなら、人間の想像力には限界がありますから(笑)、実際に必要な人数は20人なのでしょうね。

メンバーの集合写真

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―新しい人材に関して重要視しているのはどのような点でしょうか。

中島氏 やる気と自主性です!月面探査を実際にやったことある人なんていませんから、現時点の能力なんて気にしていません。いま6人ですが、これが倍の人数になったところで全体の仕事が2倍進むかというと、そうはならないのが組織の一般論です。しかし私としては諦めていなくて、むしろ何十倍も大きなアウトプットを出せるようになっていきたいです。

三宅氏 理想は、従業員0/パートナー70人、という新しい組織です。全員が会社を持って、その集合体としてプロジェクトが動いていくとなれば、一人一人が苦労して成長していけます。そういう生き方ができたらいいな、社会変革になるのではと思っています。

―近年は宇宙ベンチャーも増え、宇宙業界が変わってきたといわれています。長く取り組んでいる中島さんから見て、日本の宇宙業界で変わってきたと思うことはありますでしょうか。

中島氏 実際のところ、変わってない印象です。最近は「民間による開発が活発になって新しい時代になるね」という話は10年も前から言われています。宇宙ベンチャーだって前からたくさんありますが、どれも「いつかやるよ」と宣言している会社です。いざ何か実行されたというのはほとんどありません。YAOKIは8年間の地道な開発をしている時は、大々的に宣伝することはしていませんでした。完成してから公開し、NASAに行って実行に向けた準備をして、という行動をしてきました。

三宅氏 月面探査も色々な企業が長い間取り組んでいますが、まだ一つも実現されていません。衛星に関しては新たな民間企業が出てきてはいますが、世界と比べた場合には実績ベースでみると際立って遅れています。ですので、この後の数年でどう変わるか、実績と呼べるものが出てくるのか、ということを期待しています。私たちも実績を作らないといけませんね。

―日本の宇宙産業がどのような姿になることを期待していますか?

三宅氏 まずは、宇宙開発フォーラムによって今まで宇宙に携わってこなかった2000社がいきなり宇宙産業に参入する、というようなドラスティックな変化が起こることを期待しています。

中島氏 アメリカのように、スペースXなどの大きな企業があってそれを支える企業がたくさんあって、というような日本の宇宙産業になったらならいいですね。私たちも、YAOKIを使って、スペースXくらい必要とされるメーカーになっていきたいです。

―最後に、YAOKIを実際に見て触れるイベントについて告知をお願いします!

三宅氏 
【10/19~10/21】東京ビッグサイトの産業交流 
【11/25~11/26】ロボット・航空宇宙フェスタふくしま2022 
【11/1~11/4】第66回宇宙科学技術連合講演会

会場の熊本城ホールで行われるオーガナイズセッションの研究発表で登壇します。

月面開発フォーラムが毎月ある。10/12と11/8に勉強会、12月にフォーラム。2回勉強会を実施して1回フォーラムを実施するサイクルです。

勉強会でもフォーラムでもトークセッションがり、

【2/1~2/3】国際宇宙産業展で現物をお見せすることになっています。

中島氏 私から1点加えると、このようにYAOKIを直接触れるというような取り組みを他の企業もした方が良いと思います。私たちは来場者には触らせて、操作させて、動かなかったら「ダメじゃん」と指摘されても逃げられない状況で展示しています。それでも大丈夫、ちゃんと動く自信がある。そういうところからスタートするようなレベルにしていきたいですね。

以上、株式会社ダイモンのインタビューでした。回答を通じて、生粋のエンジニアである中島氏のモノづくりへのこだわりや、日本の工業に対する思いがひしひしと伝わってきました。宇宙産業を成長させるのだという情熱がさらに伝播し、多くの人々が携わって、宇宙産業がいずれ一般的な大規模な産業になっていくことを期待したいと思います。読者の方々も、是非一緒に宇宙業界を盛り上げていきましょう!