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スマホの位置情報を乱す現象解明へ S-520-32号機打上げ

今回打上げられるS-520型ロケット

  宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、内之浦宇宙空間観測所(鹿児島県)から観測ロケットS-520-32号機による打上げ実験を行います。この記事では、使用されるロケットと実は私たちの生活にも深く関わる今回の実験目的についてご紹介します。延期された場合の打上げ期間(ウインドウ)は710日~17日、88日~17日、96日~17日が設けられています。 (当初、2022年7月10日(日)に打上げが予定されていましたが、「搭載観測機器に技術的に確認すべき事象が生じたため」延期となりました。) ※打上げ日時ですが、2022年8月8日(月)23:00に行うことが発表されました。(7月25日現在) (打上げ予備時間帯23:00~24:00(日本標準時))     https://www.jaxa.jp/press/2022/07/20220725-1_j.html  

使用されるロケット

今回使用される観測ロケットのS-520型は、全長8.0m、直径520mm、重量2.1tの単段式ロケットです。95kg150kgの観測機器を高度約300kmまで運ぶ能力を持っています。20159月に打上げられたS-520-30号機は、酸化物系宇宙ダストの核形成過程の解明が目的で、微小重力下で酸化物を蒸発させ、凝縮する粒子の成長が観察されました。この実験では、微粒子から地球やその他の太陽系天体が作られる物質進化の解明が期待されました。このように、1980年の初号機打上げ以来、科学観測になくてはならない存在として活躍し続けています。  

スマートフォンにも影響が!?電離圏擾乱現象の解明へ

観測ロケットS-520-32号機実験は、電離圏擾乱発生時の大気中の鉛直・水平方向電子密度を観測します。2021324日に行われた「第3回観測ロケットシンポジウム講演」の報告では、今回の打上げに向けて、「MS-TID」(中規模伝搬性電離圏擾乱)現象の発生メカニズム解明を目的とした実験が準備されているといいます。※1MS-TID」とは、電離圏(高度501,000kmの、太陽光によって陽イオンと電子に分かれたプラズマを含む領域)のF層とよばれる領域に発生する、電子密度がつくる波長数100kmの波の形をした構造のことで、夏の夜間に高頻度で発生します。この現象はスマートフォンやカーナビの位置決定に影響を与える現象でもあります。

MS-TID の様子 電子数が多い部分は赤色、少ない部分は青色で示してある(CreditNICT、※2

  観測データに必要となるロケットの姿勢情報を得るために、月センサを使って月の方向を測定します。センサが月を検出するには月が十分に明るい必要があるため、夜間の満月前後に実験を行う必要があります。そのため、上記のような断続した打上げウインドウが設定されました。※3

ロケットに観測機器が搭載されるイメージ(画像はS-210型ロケット)

 

実践的な宇宙人材育成

また、今回の実験は「実践的な宇宙人材育成の場」の要素を強く持ったものになります。できるだけ大学・高専の力のみで観測機器を作り、学生のものづくり実践力を養成。各種試験や内之浦での作業・打上げを通じて、宇宙人材に必要な実践力と経験値を習得することも目的としています。電離圏の観測実験はこれまでも数多く行われてきましたが、その多くは観測機器の設計・製造をメーカーに発注し、学生は機器の性能試験やデータ解析のみを行うというやり方でした。これは合理的ですが、教育的観点から見ると、設計・製造まで学生が担当できれば、より質の高い実践的な教育効果が期待されます。※3 私たちの生活に欠かせない位置情報へ影響を与える「MS-TID」を観測し、人材育成の側面も大きい今回の実験。打上げの結果と、観測されるデータに注目です。     参考資料 ※1:「中規模伝搬性電離圏擾乱(MSTID)発生時の電子密度構造観測:S-520-32号機の準備状況」芦原他、第3回観測ロケットシンポジウム講演 https://jaxa.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=47737&item_no=1&page_id=13&block_id=21 ※2:「GPS-TEC観測データ」NICT https://aer-nc-web.nict.go.jp/GPS/DRAWING-TEC/3:「S-520-32号機打上げについて」JAXA観測ロケット実験グループ https://www.isas.jaxa.jp/home/kansoku/images/pdf/S-520-32.pdf  

SPACEMedia編集部