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新たな宇宙インフラで地球の環境問題の解決へ NTTとスカパーJSATが株式会社Space Compassの設立を共同発表

20224月、日本電信電話株式会社(以下、NTT)とスカパーJSAT株式会社(以下、スカパーJSAT)が株式会社Space Compass(以下、Space Compass)の設立を発表しました。 新たな宇宙統合コンピューティング・ネットワークを構築し、持続可能な社会づくりへの貢献を目指しています。 今回は、SPACEMedia編集部の伊藤がSpace Compass Co-CEOであるNTTの堀茂弘氏と、スカパーJSATの松藤浩一郎氏にお話を伺いました。    

NTTが掲げるIOWN構想とは

伊藤)本日はよろしくお願いいたします。まず初めに、今回の会社設立の背景でもあるNTTIOWN構想についてお聞かせください。 堀氏 IOWN (Innovative Optical and Wireless Network)構想は、移動固定融合ネットワークの次世代版です。近年、NTTが提供しているインターネットのトラヒックが指数関数的に増加しています。コロナの影響もあり、今後もネットのトラヒックが増加することはあっても、減少することはないだろうと想定しています。ここで問題になるのが消費電力であり、日本の総消費電力の1%NTTグループだけで利用しています。

CreditNTT

  伊藤)確かに、最近はコンテンツもリッチなものになりつつありますよね。このまま消費電力が増加し続けるとどうなるのでしょうか。 堀氏 日本の消費電力の2~3割をICTインフラが占めることになるかもしれません。 そしてこの点に関し、施策を打たないままインフラ企業として突き進むのは果たして正しいのかという疑問がもともとNTTの中にありました。この消費電力をどうしていくのかということが、IOWN構想を検討した背景の一つであります。   伊藤)地球環境の保護が背景の一つにあるのですね。今回のプロジェクトもIOWN構想の事例の一つであると思うのですが、宇宙統合コンピューティング・ネットワークについて詳しく伺ってもよろしいでしょうか。  堀氏 光を利用して通信を行う光通信技術と、光回路と電気回路を融合させ、小型・経済化に加え、高速・低消費電力化等の性能向上を図る光電融合技術があります。これらの技術を利用し、通信のキャパシティーを大容量かつ低遅延にし、低消費電力化するようなコンセプトになっています。 コンピューターはほとんど電気配線でできており、この電気配線をどんどん微細化することで能力は上がりますが、反対に消費電力も上がります。この部分を電気配線でなく、光配線にするというのが光電融合技術です。マザーボードの電気回線を全て光配線にし、さらにCPUやメモリ等のチップレベルも光レベルに変更します。 このように主要部分を光に変えることで、消費電力が下がっていきます。この消費電力が低い点と、電気回線から光回線に代わるという2つの点が宇宙にも応用できるのではないかと考えたのが宇宙統合コンピューティング・ネットワーク構想の生まれたきっかけです。  

衛星・HAPSによる宇宙統合コンピューティング・ネットワーク構想 CreditSpace Compass

宇宙データセンタの特徴とは 

伊藤)次に宇宙データセンタ事業についてお聞きします。 特徴としてGEO*1-LEO*2LEO-LEOGEO-GEOそれぞれの間を光伝送路で結合することによる準リアルタイムな高速大容量の通信等が挙げられていますが、想定している伝送速度はどれくらい速いのでしょうか。 *1GEO(Geostationary Orbit):静止軌道 *2 LEO(Low Earth Orbit):低軌道   堀氏 宇宙データセンタの中で、まずは光データリレー事業を行います。 光データリレーは、既存のRF伝送サービスと比較し10倍くらい速い速度を実現します。 さらに、準リアルタイムでの伝送が可能となっているのが特徴です。地球を回っている低軌道衛星は、地上局の上空を通過している510分間しかデータを地上に送ることができません。 これに対し、光データリレーは静止軌道衛星経由で伝送するため、いつでもデータを送ることが可能なサービスとなっています。   伊藤)速度の面でも既存サービスと大きな違いがあるのですね。どのような種類のデータを保存する予定でしょうか?   堀氏 データセンタを静止軌道周辺に構築する予定です。 今一番想定しているユースケースは、低軌道を飛んでいる観測衛星が撮影したデータを地上にいかに早く送るかということです。そのため、観測衛星が取得したデータがデータセンタに蓄積されていく予定です。 また今までは、災害等が起きた際に観測衛星が撮影したデータをまず、地上に送らないと確認することができませんでした。私たちはデータを送信するパイプは太くし、さらにデータを地上に送る途中で必要なデータがしっかり写っているかどうかをフィルタリングで判断ができるようなサービスの構築を目指しています。   伊藤)伝送する速さだけでなく、効率性も格段に上がるサービスですね。 データセンタで用いる衛星はGEOをスカパーJSATが運用し、LEOは他事業者との連携が想定されますが、この点についてはどのようにお考えでしょうか。   松藤氏 宇宙データセンタ事業におけるLEOという観点では、基本的に弊社のお客さまはLEOを利用した観測衛星事業者です。また、弊社自身のインフラも、ビジネス的に効率が良いためGEOでのデータリレーから始めますが、将来的にはLEOコンステによるデータリレーも検討していきます。 まずはGEOを使ってお客様である観測衛星事業者との関係を構築し、要望に基づいてバージョンアップしていくという考え方です。

衛星間光通信を実現する難しさ

伊藤)現在の衛星通信は電波を用いていますが、衛星間光通信を実現するためにはどのような課題がありますでしょうか?   堀氏   光の無線通信は、ここ数年でかなり技術実証されていますが、商用で成功している事業者は現時点でいません。これから2025年にかけ、世界中で光無線通信事業を挑戦する企業がいくつかあり、弊社もそこに名乗りを上げることになります。技術実証と商用ではサービスや求められる水準が違うので、そこがチャレンジになると思います。 特に光通信は相手の衛星がどこの軌道上にいるのかを正確に捉えないといけません。つまり、衛星の姿勢制御などをしっかり行わないと光通信は不可能です。 衛星が許容できる消費電力で、かつ弊社のアーキテクチャー的な距離、端末の重量等、システム全体のバランスを設計してつくらないと実現が困難なシステムです。 スカパーJSATさんもNTTも元々ネットワークオペレーターですから、システム全体としてどのように動かすかというのをずっと考えてきたので、経験と知識を生かして乗り越えていく壁だと思います。 松藤氏   低軌道衛星は秒速7kmというものすごいスピードで回っているので、そことの通信をピンポイントで確立するという点がチャレンジになってくると思います。 このように技術的な課題はありますが、国内外含めて様々な開発が進んでいますので、非現実的な話ではなくなってきていると感じています。   伊藤)なるほど。秒速7kmのスピードで飛んでいるものを的確にとらえるというのは想像できないほど難しく聞こえます。   堀氏   面白い例えがあります。その難しさは、例えるなら高速移動する新幹線に光通信端末を乗せて、富士山の上にあるサッカーゴールを狙い撃ちするような追尾性能が求められるレベルだそうです。そのくらい難しいということですね。   伊藤)イメージしやすい表現ですね(笑)実現することは決して簡単ではないということが非常に伝わります。 次は宇宙RAN事業*3の特徴についてお聞きします。ネットワーク広域化・強靭化・省電力化などが挙げられていますが、これらを実現するための技術的課題についてお聞かせください。 *3 宇宙RAN事業: Beyond5G/6Gにおけるコミュニケーション基盤とされ、成層圏を飛行する高高度プラットフォーム(HAPSHigh Altitude Platform Station)を利用することで、地上のインフラに頼らない低遅延の通信サービス 堀氏 技術的課題は山ほどありますね。 まず成層圏を飛行する高高度プラットフォーム(以下、HAPS)で現在有望視されているタイプの機体は、翼に太陽光パネルを敷き詰め、飛行機というよりも翼の長いグライダーのようなもので、成層圏に長期間滞空します。 今回、エアバス社さんが製造されたHAPSZephyr(ゼファー)」は、とても期待のできる機体となっています。その機体の上に通信ユニットを載せるのですが、この通信技術も地上のものとは少し異なる技術工夫が必要になります。 また通信機器等を搭載可能な重量が、わずか十キロ程度と制限もあります。電力も太陽光パネルの発電だけなので、飛ぶために使った電力の残りしか通信技術に使用できません。 他にも制度課題というものがあり、航空法等の非常に高い規制ハードルをどのように乗り越えるのか、HAPS用のモバイル周波数は何を使えるのかという点もあります。

Credit:写真提供エアバス

  伊藤)エアバス社のHAPSZephyr(ゼファー)」を利用された決め手は何ですか? 堀氏 NTTとしては「スピード」を重視しており、事業に早期投入できる機体を探しました。その結果エアバス社のHAPSZephyr)が、現時点では1番良いと思っています。   伊藤)松藤さん、スカパーJSATではいかがですか? 松藤氏  色々と検討をしてきましたが、Zephyr(ゼファー)の滞空時間が1か月弱というのは世界記録だと思います。また、滞空時間を長くすることでよりコストを抑えることができるので、ビジネス面でも業界を一歩リードしていると評価しています。   伊藤)HAPSの滞空時間は、長い方がよろしいのでしょうか? 堀氏 運用の仕方次第になりますね。滞空時間が1か月でも半年でも、期限が来たら地上に降ろしてメンテナンスを行ない、また空に上げるといったローテーションをします。 このサイクルをどう回すのかが重要なので、どのくらい飛ばないといけないとかは特にありません。滞空時間は長いに越した事はありませんが、それは経済性を向上させる要因の一つに過ぎません。  

今後の展望について

伊藤)今後、日本の宇宙産業にどのようなことを期待されていますでしょうか。   松藤氏 今は、日本でも宇宙関連のスタートアップ企業が多く出ていますが、欧米に比べるとまだ少ないです。政府の支援の違いもあるかもしれませんが、政府に頼るだけでなく、宇宙産業規模を大きくしていけたらと思っています。   堀氏 人々の活動ある所に通信インフラありと思っていますので、これからアルテミス計画であったり火星であったり、宇宙空間にどんどん人が行くと、その分だけ色々な面で通信インフラが必要になってくると考えています。 例えば、宇宙空間や月で人が病気になった時の万が一の処置などに通信を使って、地上と同じような施術を受けられるようにすることなども含まれます。 人の活動領域が広がるところのインフラをインフラ企業として担いたい、そこがNTTのモチベーションだったりします。また、従来の光通信技術も活きると思っています。   伊藤)最後にこのSpace Compassが日本、あるいは世界の宇宙産業で果たす役割について、どのようにお考えか伺ってもよろしいでしょうか。   松藤氏  我々は、宇宙と地上を統合する「宇宙統合コンピューティング・ネットワーク」を目指しています。持続可能な社会の構築に貢献する、人類の未来に貢献する、壮大な構想を抱いています。 通信産業、データセンタ含めたIT産業全体を押し上げていく、そういう役割の一端を担いたいです。   堀氏 Space Compassの名前の由来は、スカパーJSATさんは「S極」、NTTは「N極」、これを2つ合わせてコンパスだ、と発案をされた方がいまして、PJメンバー相互の投票で採用されました。 これからの宇宙産業は大航海時代だと思っているので、そのために必要不可欠な羅針盤のような存在になりたいという思いが込められています。 日本からも宇宙の大航海時代に、チャレンジする一プレイヤーとして頑張っていきたいと思っています。 私たちの生活を高速通信によって豊かにする「宇宙統合コンピューティング・ネットワーク」は、2025年頃から順次打上、商用サービスの提供を開始する予定です。 株式会社Space Compass の2極がリードする日本及び世界での宇宙開発の未来に、期待が高まるばかりです。             <画像左> 堀茂弘 Shigehiro Hori NTT 研究企画部門 担当部長 1996 NTT入社、2007年 ワシントン大学MBA修了 複数の新規事業・サービス開発のPJに立上から携わり、20177月より現職   <画像右> 松藤 浩一郎 Koichiro Matsufuji スカパーJSAT 宇宙事業部門 執行役員 1990年 現スカパーJSAT㈱入社、衛星の調達、衛星通信事業の事業企画、 米国衛星事業子会社COO等を歴任、2021年より同社執行役員  

SPACEMedia編集部