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宇宙の“ガソリンスタンド”?宇宙産業のカギを握るスタートアップの挑戦

Credit: Orbit Fab

毎月多くの人工衛星が宇宙へと発射される現代。以前に比べ、人々と宇宙の関係はより密接なものとなりましたよね。一方で、宇宙空間内ではまだまだ課題があるといいます。中でも人工衛星を動かす燃料補給の問題は、大きな課題の1つであるのだそう。

 

そのような状況下、アメリカのスタートアップ企業Orbit Fab社は、宇宙空間での燃料補給を可能とする燃料タンカーを製作。すでに最初の1機を宇宙へと打ち上げており、創業4年目で早くも2機目の設計に取り組んでいるといいます。いわば宇宙の“ガソリンスタンド”といえる燃料タンカー。宇宙への冒険の、大きな革新となりそうですね。

宇宙の“ガソスタ”!宇宙産業のカギを握るOrbit Fab社

Credit: Orbit Fab

現在、宇宙の低軌道上にはおおよそ7,500機以上もあるとされる人工衛星。宇宙での研究は日々進歩していますよね。しかし、数多くの人工衛星打ち上げに伴い、たとえば人工衛星が計画途中で制御不能になるといったトラブルも発生しているといいます。このような課題を解決し、宇宙産業のポテンシャルのさらなる解放を目指すべく立ち上がったのが、Orbit Fab社です。日本企業との関りも強く、丸紅ベンチャーズ株式会社は2019年より同社に投資を開始。次世代イノベーションの促進を目的とした投資ということで、宇宙の“ガソスタ”が生み出すイノベーションに大きな期待を寄せていることが分かりますね。

 

燃料切れによる使い捨て

人工衛星は稼働中に、軌道からズレたり姿勢が不安定となる場合があります。そのような時、搭載された燃料でスラスタを噴射することで制御を行っています。しかし、燃料切れが原因で、制御ができなくなる人工衛星もあるのだとか。その場合、人工衛星はそのまま寿命を迎え、大気圏で燃えるか軌道上に投棄される道を辿ることとなります。せっかく打ち上げに成功した人工衛星が使い捨てとなるのは、宇宙環境の面でも問題となるでしょう。

 

燃料タンカーを開発、打ち上げに成功

燃料切れによる人工衛星の使い捨てを解決するため、2018年にOrbit Fab社が設立されました。アメリカ発のスタートアップとして勢いに乗る同社は、創業3年目には燃料タンカー「Tanker-001 Tenzing」の打ち上げに成功。宇宙空間での人工衛星への燃料補給に向け、軌道上への侵入にも成功しています。現在は「Tanker-002」も製作過程にあり、人工衛星への軌道上での燃料補給を実現しようとしています。まさに宇宙の“ガソスタ”が誕生しようとしているのです。

 

軌道上でドッキング!高い技術で燃料給油を目指す

月日をかけて開発され、宇宙への発射される人工衛星。打ち上げに成功したならば、より長い期間の稼働を期待したいですよね。そのためにも、宇宙の“ガソスタ”の実現は必要不可欠。では宇宙の“ガソスタ”が実現する場合、いったいどのようにして、軌道上で動く人工衛星への燃料補給を可能とするのでしょうか?

 

ステレオカメラで補足。人工衛星追跡が可能に

人工衛星は低軌道上で周回していますが、その速度は時速約27,000km以上とされています。燃料を給油するためには、そのような速さの人工衛星を的確に捉えなければなりません。この解決策として、Orbit Fab社は燃料タンカーにステレオカメラを設置。これが高速で動く人工衛星の動きを捉えます。その後、装備されたスラスタを噴射することで、人工衛星と同軌道上に侵入。この過程を経て、人工衛星の追跡を可能とします。

 

わずか75mmの給油ユニットが、宇宙産業の発展に導く

燃料タンカーから人工衛星に燃料を注入するためには、専用の給油ユニットを使用する必要があります。しかし、給油ユニットの大きさはわずか75mm。燃料タンカーと人工衛星の姿勢に少しでもズレが生じれば、宇宙空間に燃料が漏れ出てしまうでしょう。現在、燃料タンカー「Tanker-001 Tenzing」は人工衛星とのドッキングのテスト段階にあります。mm単位のズレも許されない場面ですが、この結果次第では、宇宙産業の未来は大きく変わってくるはずです。

 

次世代燃料タンカー「Tanker-002」

Credit: Orbit Fab

「Tanker-001 Tenzing」がドッキング試験の真っ只中にある一方で、早くも「Tanker-002」が開発途中にあるといいます。そしてこの次世代燃料タンカーは、「静止軌道」への投入を目標としているのだそう。低軌道上での燃料補給を目指す「Tanker-001 Tenzing」と異なり、「静止軌道」への投入はいったいどのような違いを生むのでしょうか。

 

高度約3万6000km「静止軌道」

「静止軌道」は高度約3万6000kmに存在しており、たとえば気象衛星や放送衛星はこの「静止軌道」上に列を成しています。この軌道上にある人工衛星は、地上から見て同じ位置に留まって見えるという特徴があります。したがって、宇宙から地上の定位置を観測したい場合には利便性の高い軌道となるのです。

 

「静止軌道」への衛星打ち上げ、莫大な資金が必要

利便性の高い「静止軌道」への人工衛星打ち上げ。しかし、地上から数百kmの低軌道と比較し数倍も高度があるため、「静止軌道」に人工衛星を送るためには莫大なコストが発生するといいます。さらには、「静止軌道」にある人工衛星の多くは、燃料不足の状態にあるといいます。多額の投資をしているにも関わらず、燃料不足により早い寿命を迎えてしまうことは大きな損失ですよね。この解決に繋がるのが、まさしく「静止軌道」への「Tanker-002」投入となるのです。「静止軌道」にある人工衛星への燃料補給が可能となれば、かなりの経済効果が生まれるでしょう。

 

民間企業が、宇宙を開拓する時代

ひと昔前までは、民間にはまったくの夢のような話であった宇宙への冒険。しかし、今では民間企業が、宇宙開拓の夢を担う時代となっているのです。スタートアップ企業Orbit Fab社による宇宙の“ガソスタ”の実現。宇宙開発の大事な燃料となる存在に、より一層注目ですね。

 

綱嶋 直也