• HOME
  • ニュース
  • 顧客に寄り添う衛星データで市場形成の中核を担う!- 日本工営株式会社 - SPACE Media

顧客に寄り添う衛星データで市場形成の中核を担う!- 日本工営株式会社

これから成長していく宇宙産業の市場規模には、衛星データ利用が大きく寄与するといわれています。しかし、衛星データ利用には専門的な知識や経験が求められるなど、利用拡大のために解決すべき課題がまだまだ残っています。今回のインタビューでは、様々な会社と協力しながら衛星データの利用拡大に向けた取り組みを展開している日本工営株式会社 コンサルティング事業統括本部 衛星情報サービスセンターのセンター長・徳永博氏、センター長代理・陰山建太郎氏、野間口芳希氏にお話を伺いました。

日本工営と宇宙との関係

―本日はよろしくお願いします。はじめに、貴社の概要と宇宙事業について教えてください。

陰山氏 私たちは建設コンサルティングを行っている会社であり、インフラや災害エリアのリスク評価及び防災減災のためのコンサルティングをしています。そして、これらの業務のために2000年以前からGIS (地理空間情報システム) の研究開発をしたり、2014年からJAXAの人工衛星ALOS-2 (だいち2号) の利用拡大に関する取り組みを行ったりしてきました。当初から衛星データの解析技術があったわけではありませんでしたが、コンサルタントとしての技術を活用できるのではないかということでJAXAと連携することになりました。

―その取り組みはその後どうなったのでしょうか。

陰山氏 JAXAとの共同研究という形で、2018年までインフラ関係の研究を行いました。その後、これは当社としてビジネス化できるのではないかということでさらに検討を進め、2021年に「衛星情報サービスセンター」を設立しました。ここでは、スカパーJSATとゼンリンと協業して衛星防災情報サービスを構築しています。

また、民間企業1社で市場形成は図れないということで、衛星事業を行っている5社 (三菱電機、パスコ、アジア航測、スカパーJSAT、リモート・センシング技術センター) と共に「衛星データサービス企画株式会社」を設立しました。この会社を媒体として市場を形成していきます。

―たくさんの企業とかかわっているのですね。ベンチャー企業との連携もあるのでしょうか。

陰山氏 そうですね。例えば、SAR衛星によるコンステレーションを行おうとしているQPS研究所と、資本注入という形で戦略的業務提携をしました。このSAR衛星を利用して、より進んだ形で衛星データを確実に取得していければと思っています。

Credit:日本工営株式会社

新たな「衛星防災情報サービス」とは

―スカパーJSATとゼンリンと共に構築している衛星防災情報サービスとは、どのようなビジネスなのでしょうか。

徳永氏 一言でいえば、衛星データに付加価値をつけて有益な情報を提供する、というサービスです。衛星データに加え、SNSの情報や自動車から通信ネットワーク等を通じて得られるプローブデータを使って解析・評価して地図基盤に重ね、顧客に提供します。こうした情報は多種多様な活用方法があり、国や自治体、民間インフラ事業者、測量調査会社などにご利用いただけるのではないかと思っています。また3社で手を組むことで、強みを持ち寄ってサービスを開発し、それぞれの営業基盤を通じて顧客を獲得する、ということを図っています。

―なるほど。3社の役割分担はどのようになっているのでしょうか。

徳永氏 スカパーJSATは衛星データの解析を主として担当しています。日本工営は様々な分野の技術者がいて、インフラ施設の調査や計画、設計、維持管理の技術を有しているので、解析の結果をどう評価しどう活用するのか、というところを担当しています。ゼンリンには素晴らしい地図基盤がありますので、これらのデータを地図に重ねることで、被害規模の算出などに活用していくことができます。

―現在、サービスの構築はどのようなフェーズにあるのでしょうか。

徳永氏 非常に幅広い活用方法がありますが、全て完成させてリリースとなると時間がかかりますので、まずは多くのサービスラインナップのうち斜面モニタリング・変動予測やインフラ等変状モニタリングのサービスをいち早く完成させて、顧客に提供していきます。

―なぜ斜面モニタリング・変動予測やインフラ等変状モニタリングサービスからなのでしょうか。

徳永氏 衛星データの利用は、現在は豪雨時における浸水域や被害規模の把握や斜面崩壊検出のような災害時の利用がクローズアップされていますね。ただ、主に利用する光学衛星だと天候が悪い場合は観測できないという課題があり、リアルタイム性に欠けてしまいます。そこでまずは、平常時のサービスとして斜面モニタリング・変動予測やインフラ等変状モニタリングサービスから取り組むことにしました。ALOS-2は平常時の観測には非常に有効なSAR衛星で、通常年に4回日本全国を定期的に撮影しています。また2014年以降のデータが蓄積されていますので、このデータを利用して変状を時系列的に分析し、将来的な予測にも役立てていくことができます。

野間口氏 そして、11月1日に新たなサービス「LIANA」をリリースしました。大規模災害につながりうる斜面、盛土、埋立地、道路等インフラ施設をモニタリングして情報提供をするサービスです。ALOS2衛星によるSARデータは約10年分あり、解析結果は詳細でデータ容量的に非常に重たくてなります。それを単に見るだけでも大変ですから、WEB上でいつでも分かりやすく簡単に変化を確認できるサービスを開発しました。

「LIANA」の概要
Credit: 日本工営・スカパーJSAT・ゼンリン

―なるほど、これは見やすいですね!どのような情報を示しているのでしょうか。

野間口氏 まず、関心のある領域について変形を色で表し、月平均や累積の変化など踏まえて現在危ない領域なのかどうかということを示しています。また、専門技術者コメントという形で、解析結果を踏まえて日本工営のノウハウを活用した評価を提供しています。そして詳細な3Dデータで地形を表示しているため、状況を把握しやすくなっています。

―いろいろな技術やノウハウが詰まっていますね。建設コンサル会社である日本工営がいるからこその強みはずばり何なのでしょうか。

野間口氏 解析結果だけだと、何を意味するのか、どんな対策が必要なのか、というところがわかりません。日本工営には各分野に技術者がいるので、幅広い知識を生かして情報を提供し、どう対応すればいいかというところまでワンストップでアドバイスできます。さらには、現地に技術者を派遣して追加の調査や対策への着手などにも踏み込むこともできます。

―このサービスによって顧客の幅も大きく広がりそうですね。では、もう一方の取り組みである衛星データサービス企画株式会社の設立について教えてください。

陰山氏 衛星データサービス企画株式会社は、三菱電機、パスコ、アジア航測、スカパーJSAT、リモート・センシング技術センターと共に設立しました。ここでは衛星データをどう一般化するかということを検討しています。現状では、衛星データを取り扱う各社それぞれがオリジナルで解析をして提供していますが、6社で協業してスタンダードを定め、品質を保っていく仕組みづくりをしています。低価格で高品質な衛星データの確立により、市場形成を図る取り組みを大きく前進させることが狙いです。

「衛星データサービス企画株式会社」事業イメージ
https://pdf.irpocket.com/C1954/bxTh/tM1K/KCxE.pdf

今後の展開

―それでは最後に今後のビジョンについてお聞かせください。

徳永氏 日本工営の長期経営戦略では、安全・安心なインフラ整備、すべての人が自由に交流し活動できる社会基盤整備、多様な人・産業が集積する魅力ある都市づくり、脱炭素社会の実現による社会環境の保全、という事業活動に関わるマテリアリティ(重点課題)を掲げています。衛星情報サービスセンターとして、このすべての項目で貢献できると思います。私たちが目指しているのは、安全安心、都市に関するもの、脱炭素に関することなど、社会のあらゆるところに衛星情報サービスを提供する、ということに尽きます。

―地域の拡大も見据えていると伺いました。

徳永氏 はい、そうですね。つい最近では、マレーシアでの国際会議でも私たちの取り組みについて発表もしました。プレス発表やメディアで取り上げていただくことによって、社内や社外、海外のパートナーから声がかかり一緒にグローバルな地域でサービス開発に取り組む動きにつながっています。また、海外では場合によっては日本より早く市場を形成できるかもしれません。日本は様々な規制や既存の技術があったりしますので。

―ビジョンの実現に向けて、現時点で乗り越えなければならない課題は何でしょうか。

徳永氏 一つは先述のリアルタイム性確保のためのSAR衛星の機数拡大ですね。この点に関しては、この先QPS研究所の36機のSAR衛星が打ち上がっていくことによって、10分に1回というリアルタイムで観測できるようになると見込んでいます。

あとは、繰り返しになりますが市場の形成です。衛星データをどう使えばいいか、何に使えるかという部分を、ユーザが分かっていません。私たちはエンドユーザー自身が気づいていない潜在的なニーズを発掘し、自ら市場を開拓していくことが重要です。先ほど述べたとおり国内でLIANAの提供を開始するなど、まだまだ始まったばかりの活動が多いですが、ビジョンの実現に向けて全力で取り組んでいきたいと思います。

以上、日本工営株式会社のインタビューでした。総合建設コンサルティング会社でありながら日本の衛星データ利用の拡大に大きく関わっており、とにかく顧客目線で使いやすい有益な衛星情報を提供していくのだという意気込みを感じました。建設やインフラの領域を端緒として、衛星データは私たちの生活をさらに豊かにしていくことでしょう。

衛星地球観測コンソーシアム
https://earth.jaxa.jp/conseo/

日本工営株式会社 コンサルティング事業統括本部 衛星情報サービスセンター

センター長 徳永博氏

センター長代理・陰山建太郎氏
野間口芳希氏