パナソニックアドバンストテクノロジー株式会社(以下、PAD)と大成建設株式会社は2023年5月16日、国土交通省が実施する宇宙無人建設革新技術開発推進事業における「宇宙建設革新プロジェクト」として採択された「月面適応のためのSLAM自動運転技術の開発」に関する研究開発を「F/S(フィージビリティ・スタディ)」から「R&D Stage」にステップアップして継続実施すると発表しました。
国交省の宇宙建設革新プロジェクト
近年、激甚化する災害への対応や国土強靱化が求められるとともに、人口減少が進むなか、国土交通省では、これまで培われてきた無人建設技術(自動化、遠隔化、ICT施工等)のさらなる高度化と現場への普及は喫緊の課題としています。
また、宇宙利用探査において世界に先駆けて月面拠点建設を進めるためにも、遠隔あるいは自動の建設技術(無人化施工等)は重要な要素となると位置づけており、アルテミス計画等を通じて月面環境に係るノウハウを有する文部科学省と連携して、月面拠点建設へ適用するための技術開発を進めるとともに、地上の事業へ波及させるとしています。
月面環境に適応する自動運転技術の構築
月面環境では、測位衛星から位置情報を得ることができないため、建設機械の自動運転を実現するためには別の方法で正確な位置情報を得る必要があります。
PADでは、これまでLiDAR SLAM技術による建設機械の自己位置推定技術を開発・実証しており、測位衛星が利用できない地上不整地環境での建設機械の自律移動を実現させてきました。
LiDAR SLAM技術は、LiDARというレーザーセンサ(距離センサ)の計測値をメイン情報として使用し、自己位置推定と環境地図作成を同時に行うSLAM技術です。レーザーセンサは暗所でも使用可能で、遠距離でも距離精度が高く、車両の速度が速い場合でも正確な地図を構築できるメリットがある一方、計測値である周囲地形の3D点群データの密度が粗いため、周囲に立体物が少ない環境では、点群データによる位置合わせが困難になるデメリットがあります。
今回採択された研究開発では、LiDAR SLAM技術に、人工的な特徴点を活用するランドマークSLAM技術とカメラから得られる様々な情報を統合することで、月面のような特殊な環境にも適応可能な自動運転技術の構築を目指すとしています。
ランドマークSLAM技術は、あらかじめ配置した周辺環境と区別しやすいランドマークを基準として自己位置推定と環境地図作成を同時に行うSLAM技術のことで、本研究開発では、立体物が少ない環境であらかじめ設置したマーカを目印とするランドマークSLAMを適応するということです。
月面を模した類似環境での実証実験
月面を想定した自動運転技術の研究開発においては、月面を仮想環境で再現したシミュレーション評価が重要な要素となります。
同社は、これまでに車載開発を通じて得たモデルベース開発・シミュレーション開発のノウハウ・実績があり、本研究開発では、NASA等より公開されているデータを基に、月面の仮想環境モデルを構築し、仮想環境上でのセンシング技術開発、自動運転技術の評価、精度向上を継続するとしています。
同社によると、今後はシミュレーション評価に加え、月面を模した疑似環境での実証実験により、開発技術を現実空間に適応するための課題対応を実施していくとしており、建設機械をはじめとするさまざまな自律移動モビリティの自動運転を実現するための技術の確立に向け、さらなる研究開発を推進していくということです。