宇宙飛行士が認めた「宇宙鯖缶」!一般販売へ

多くの人が憧れを持つ宇宙飛行士。今日も各国を代表する宇宙飛行士たちが、国際宇宙ステーションに滞在し、実験や研究を重ねています。そして、彼らは宇宙空間で日々の活動を継続するために、宇宙用の食事、つまり「宇宙食」を食べています。「宇宙食」という言葉を聞いたことはあっても、口にしたことはありますでしょうか。無重力空間での食事ですから、地上の私たちが口にする食事とは異なる物を想像しますよね。しかし、実は「宇宙食」の1つには、一般にも馴染みのある「鯖缶」が採用されているのです。さらには、2022年3月からは「宇宙食」の「鯖缶」が、地上での販売を開始したのだとか。今回は、そんな「宇宙鯖缶」の開発背景から、地上での一般販売までの経緯を紹介していきます。

「宇宙食」って特別な食べ物なの?

宇宙飛行士たちが国際宇宙ステーションで活動するための、大事な栄養となる「宇宙食」。その存在は知っているけれど、実際にどのような見た目や味をする食べ物なのでしょうか。どのような基準をもって、「宇宙食」は開発されているのでしょうか。ここでは、「宇宙食」とはいったいどのような食べ物で、私たちが普段口にする食事と何が違うのか、探っていきます。

「宇宙食」の開発条件

宇宙飛行士が宇宙という空間で健康に暮らすためには、私たちが口にする食事とは異なる手法で「宇宙食」が製造される必要があります。したがって、「宇宙食」の採用には主に4つの、特別な基準が設けられています。

充分な栄養素が含まれていること

宇宙飛行士たちは、閉鎖空間で長期にわたり生活する必要があります。そのようなストレス状況をサポートするためにも、安全で豊富な栄養素が含まれた食事をとることが大切なのです。

長期保存が可能なこと

宇宙空間では買い物に行くことも、後から食料を届けることもできません。したがって、長期保存が可能である必要があります。基準としては、常温で1年半の消費期限があることが求められています。

液体や粉末が空中に飛び散らないこと

みなさんも、宇宙飛行士たちが無重力空間で浮遊している様子を目にしたことはあるでしょう。それが液体や粉末であれば、回収に苦労を要することが想像できますよね。そのため、とろみを残すことで、ストローで吸引して食せるような食品である必要があります。

高い食品安全管理レベルで製造されていること

「宇宙食」を製造するにあたり、NASAが開発した「HACCP」と呼ばれる衛生管理手法に準拠する必要があります。材料を受け入れ、加工し、それが製品に至るまでのすべての工程がHACCPの管理項目にあてはまるか確認し、これをクリアした商品のみが「宇宙食」として採用されるのです。

 

以上の4つの採用基準をクリアした食べ物が、「宇宙食」に認可されます。「宇宙食」と一般の食事がいかに違うのか、この基準から分かるのではないでしょうか。

「宇宙鯖缶」の誕生

Credit:Science Portal

 

厳しい採用基準をクリアして誕生する「宇宙食」。そんな「宇宙食」の1つに、私たちにも馴染みのある「鯖缶」が採用されています。この「宇宙鯖缶」、いったい誰が開発し、どのようなストーリーを経て「宇宙食」として採用されるようになったのでしょうか。

日本の高校生が開発

今では宇宙飛行士たちの健康を支える「宇宙鯖缶」ですが、開発したのはなんと日本の高校生。2006年、福井県立若狭高校の生徒たちによって開発がスタートし、2020年に「宇宙食」に認可されるまで、約300人の生徒たちが開発に携わってきました。宇宙では味覚が鈍くなることから通常よりも濃い味付けに設定。また、開封した際に飛び散ることのないよう、くず粉でとろみをつける工夫も施してきました。そのようにして、たくさんの夢を繋いで完成した「宇宙鯖缶」ですが、当時国際宇宙ステーションに滞在していた「野口聡一さん」の元にも届けられました。その際の映像も残されており、「宇宙鯖缶」の美味しさに驚く様子が映し出されています。
(動画:野口宇宙飛行士の宇宙暮らし010:さば缶の宇宙的レシピ

開発ストーリーが書籍化

宇宙に飛び立つまでに、多くの歳月を経て開発された「宇宙鯖缶」。この高校生たちの長きにわたる宇宙への挑戦は書籍化もされています。開発における苦難、数々の学生たちが携わってきた葛藤、そして彼らの「鯖缶」が宇宙へ飛び立つまで。ノンフィクションの書籍として、これから宇宙へのビジネスを始めたい人にとっても、勇気づけられる1冊となりそうですね。

 

宇宙鯖缶、一般販売へ

宇宙飛行士も認めた「宇宙鯖缶」が、2022年3月8日「サバの日」に一般販売が開始されました。一方で、「宇宙食」は、一般の食事とは異なる加工法や保存法で製造されています。そのため、同じ鯖缶とはいえ、「宇宙鯖缶」は私たちが知る鯖缶とは異なる感覚を持つものでしょう。それにも関わらず、なぜ「宇宙食」用に開発した鯖缶を一般販売するのでしょうか。そこには、高校生たちの特別な思いが込められています。宇宙用と地上用では、どのように味や風味が異なるのか、気になるところも多いですよね。ここでは、「宇宙鯖缶」が一般販売されるまでの活動背景や、宇宙用との違いなどを説明していきます。

なぜ一般販売するの?

福井県立若狭高校の生徒たちが、14年かけて宇宙用に開発してきた「宇宙鯖缶」。なぜ一般販売用に再開発されたのでしょうか。そこには、高校生たちの地元への思いがあるといいます。

 

実は、彼らの高校のある福井県小浜市は、そこから京都までの道を「鯖街道」と名付けるほどに鯖の名産地。そのため、地元名産の鯖を活用することは、地元地域の魅力発信に繋がるのです。高校生たちは、生まれ育った土地の魅力を宇宙から全世界に発信し、小浜市、さらには活動を繋いできた先輩たちに感謝の気持ちを還元しているのです。

宇宙と地上で味は異なるの?

「宇宙鯖缶」は、通常の鯖缶より濃い「しょう油味付け缶詰」として宇宙に運ばれてきました。そして、今回発売の地上用の鯖缶は、「味を忠実に再現」していると言います。あえて宇宙と同様の味にすることで「鯖缶で、宇宙を体感してほしい」という思いがあるのだそう。商品名には高校の名前を含み、パッケージには英語での説明文を添えたデザインとなっています。彼らの活動が世界に拡大するのも、時間の問題かもしれませんね。

 

たくさんのアイデアが宇宙に繋がる

「宇宙飛行士が食べる鯖缶を開発しよう!」そのような豊かな発想はあっても、それを本当に具現化しようとする人は、これまでいなかったのではないでしょうか。しかし、高校生たちの開発した「宇宙鯖缶」がみなさんの食卓に並べば、「宇宙にはいろんなアイデアが繋がる」ということに気づくかもしれません。宇宙をより身近に感じることができ、宇宙への希望がますます湧いてくる「宇宙鯖缶」、ぜひ一度味わってみたいですね。

 

綱嶋 直也