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《大分県》 郷土銘菓の宇宙食化に挑戦する後藤製菓 -地方からの「宇宙」への挑戦 第6回-

2021118日、大分県を始めとした地方自治体の知事が岸田首相と面会し、宇宙産業の推進・支援を求める「地方からの『宇宙』への挑戦に係る要望・提言」を提出しました。世界の宇宙産業は2040年代までに120兆円規模になると予測され、日本でも国や大企業だけでなく、地方自治体による宇宙産業の推進が進んでいます。

 

SPACE Mediaでは宇宙産業×地方自治体にフォーカスし、全国で宇宙産業の推進を精力的に進める地方自治体と地域の企業の取り組みについて連載で紹介します。

 

6回の今回は、臼杵煎餅の製造会社、後藤製菓です。400年前に臼杵藩(現在の大分県)の城主として稲葉氏がやってきた頃、保存食として食べられていたという郷土菓子。その宇宙食化に挑んでいる5代目代表取締役・後藤亮馬氏にお話をお伺いしました。

大分銘菓・臼杵煎餅とは

 

臼杵煎餅はもともと江戸時代の保存食が起源です。参勤交代の際、江戸と臼杵藩の移動の道中で携行食として好まれていたといわれます。特徴的なのはその形です。馬の鞍のように手曲げされ、表面には刷毛目模様の凹凸が刻まれています。

 

武士の世が過ぎ去っても郷土の銘菓として愛され、数十年前までは各家庭に缶入りの状態で常備されていました。

 

米・麦・粟・ひえを原料にしたものが元型ですが徐々に姿形を変え、少なくとも100年以上前からは小麦粉が主原料のせんべいになっています。薄焼きしたせんべいに地元特製のショウガと砂糖でつくった蜜を塗って仕上げます。

 

現在は観光の手土産として、主に大分県内で消費されているそうです。

 

郷土銘菓の宇宙食化に挑む背景

地場の伝統菓子を宇宙食に。この発想の背景にはふたつの背景がありました。

 

ひとつは長びくコロナ禍の影響です。観光業の縮小に伴い、観光土産である臼杵煎餅の売上も減少しました。緊急事態宣言により、2020年から21年にかけて職人たちに断続的な休業をお願いしなければなりませんでした。その期間中、後藤氏は土産物以外の可能性を掘り起こす必要性を痛感したといいます。

 

「嗜好品としての菓子類は多様化しています。臼杵煎餅をもう一度各家庭でお菓子として食べていただくために備蓄してもらうというのは、残念ながらいまの時代にそぐわないとも思えます。

一方で、保存食も昔は乾パンしかありませんでしたが、日常食に近い形でさまざまな備蓄食が出回っています。保存缶に入ったお菓子の備蓄食も増えました。

江戸時代の保存食が由来の臼杵煎餅を、改めて大分独自の現代版保存食として再構築することができれば、もう一度各家庭に置いていただくことが出来るのではないか、と考えました」(後藤氏)

 

言わば原点回帰。コロナ禍で出口を模索するなかで原点である保存食化にたどり着いたのでした。

 

もうひとつの背景が大分空港の宇宙港化でした。県内で宇宙関連ビジネス意識が高まるなか、「宇宙食≒保存食」という気づきがあったのです。「臼杵煎餅の保存食化の先に宇宙食化も狙えるんじゃないか」と考えた後藤氏は保存食兼宇宙食化に向けたプロジェクトを走らせました。

 

 

プロジェクトの進め方

とは言え、どうしたら臼杵煎餅が宇宙食になるのか、最初はまったく分からなかったそうです。

 

「最初は『大分県技術・市場交流プラザ大分』(https://plazaoita.com/)という会に所属しました。私たちが宇宙食分野への挑戦を考えていたとき、長年付き合いのある包装業者の専務からドンピシャのタイミングで誘われました。ちょうどこの方が会の理事長だったのですが、私たちが所属する前から、会のものづくりチームで宇宙食が出来ないか検討していたそうです。そのとき県内の特産品のなかから、臼杵煎餅が最終候補に挙がっていた、と言われました」(後藤氏)

 

まるで引き寄せの法則が働いたかのような話ですが、こうしてすんなりとプラザ大分に入会。そこから JAXAに問い合わせを入れ、宇宙日本食事務局(宇宙技術開発())に繋いでもらい、宇宙食認定基準や審査フロー、クリアすべき課題などを伝えられたそうです。

https://humans-in-space.jaxa.jp/library/item/healthcare/food/certification_flow_d_2.pdf

四つの課題

 臼杵煎餅の宇宙食化はまだ途上段階。完成に向けて試行錯誤している状態といいます。「市販の臼杵煎餅を一度お送りして、フィードバックされた課題は以下の四つでした」と後藤氏。

 

1.賞味期限(常温で1年半以上もつこと)

 

臼杵煎餅は現状の包装形態でも1年程度は問題なく保存できるため、1年半は実現可能範囲内でした。長期保存の敵は酸素と湿気なので、「真空パックし酸素を通さない袋に密閉すること」で酸素に対応し、「本体を完全に乾燥させ、防湿性のある袋に密閉すること」で湿気に対応させました。

 

2.形状(喫食時に微粉が飛散しないこと)

 

煎餅という商品の性格上、食べたときの微粉発生は不可避です。しかし一口サイズに小さくすることで解決したそうです。じつは4年前に一口サイズの臼杵煎餅を開発済みだったため、このハードルは楽々クリアできました。

 

3.視認性(輸送中の破損が確認できること)

 

JAXAが用意している包装容器はレトルト用のアルミ素材なので、中身の確認ができません。透明フィルムで試作したところ、煎餅の縁のギザギザが原因でピンホールが発生することが判明しました。焼き立ての柔らかいうちに金型で打ち抜く装置を試作しましたが、まだ改良の余地があるそうです。

 

4.強度(輸送、圧縮に耐えられること)

 

雑多な輸送品と一緒に脱気、圧縮して詰め込まれるため、食品とはいえ高強度が求められます。しかし薄焼きである臼杵煎餅は1枚ずつでは割れてしまいます。強度不足を補うため5枚重ねにしましたが、真空状態にすると臼杵煎餅特有の刷毛目がテコの原理を生じさせ、やはり割れてしまいます。

 

生姜蜜の凹凸をなくすため食液用スプレーガンで塗布したところ、割れの問題は乗り越えられそうでしたが、職人が一枚一枚手づくりする臼杵煎餅本来の“らしさ”を損ねないように、今後も改良を重ねていくとのことです。

 

「商品をまるっと変えてしまえば楽になる課題もあるかも知れません。しかし臼杵煎餅らしさを残しながら宇宙食に認定されることを目指しています」と後藤氏。「とは言え、せんべいという食品が元々保存の効くものですから、開発する上で優位に立てています。まだ解決すべき課題が残っていますが、落としどころを探りながら、より地上に近い形で宇宙に持っていきたいと思います」

 

宇宙食プロジェクトを通して目指していること

 

地方の銘菓づくり企業が宇宙を目指す。突飛に思えるかも知れませんが、後藤製菓はこれまでもさまざまなことに挑戦してきました。洋菓子風の煎餅や柔らかい煎餅の開発、100周年記念ブランドの企画、「ヱヴァンゲリヲン」で知られる庵野秀明監督の展覧会とのコラボレーションなど、伝統の枠を飛び越えるような取り組みを重ねてきたのです。宇宙食への挑戦も、そんな挑戦のひとつに過ぎません。

 

最後に後藤氏の経営哲学を披露してもらいました。

 

「松尾芭蕉が唱えた『不易流行』という言葉があります。『古きものを守っていくために、時代に即した変化を取り入れていく。これが本質を留める秘訣である』ということです。昔ながらの臼杵煎餅を大切にしつつも、あたらしい可能性も探っていきたいですね。この時代だからこそできることに挑戦したいです。その結果より多くの人に認知していただき、より多くのシーンで食べていただき、臼杵煎餅という食文化を後世に残していきたいと思っています」

 

宇宙は誰もがワクワク出来るテーマです。宇宙を目指すことで実際に多くの方が、後藤製菓を応援してくれるようになったそうです。暗い世相ですが、小さな地場産業が宇宙を目指すことで、大分県を元気にすることにも貢献できるでしょう。

 

宇宙日本食に認定された食品は、国内の災害備蓄食の審査が簡便になります。後藤氏は宇宙食認定された暁に、この煎餅を保存食として市販する意向とのこと。大分の保存食から日本の保存食へ。臼杵煎餅のポテンシャルは予想以上に大きいのかも知れません。

 

画像転載元:

クラウドファンディングサイト「SANDWITCH

https://sandwichcrowd.com/project/detail/568

 

後藤製菓公式サイト
https://usukisenbei.com/

 

Tell-Kaz Dambala