【海外動向】地理条件・産業基盤・技術の優位性を活かし宇宙産業を振興 ―オーストラリア大使館インタビュー〈前編〉

【海外動向】地理条件・産業基盤・技術の優位性を活かし宇宙産業を振興 ―オーストラリア大使館インタビュー〈前編〉

年間市場規模46億豪ドル(約5,060億円)、雇用17,000人超 ―近年、オーストラリアの宇宙産業が存在感を増しています。民間投資の急拡大を背景に商業主導型のエコシステムが形成されつつあり、打上げ・帰還拠点としての地理的優位性や、鉱業・エネルギー分野で培われたロボティクス・遠隔オペレーション技術の転用などが進んでいます。

オーストラリアの宇宙戦略はどのような構造をもち、日本企業にとってどのような協業機会があるでしょうのか。

在日オーストラリア大使館で宇宙分野を担当する、ダン・グラヴァー氏とレオ・ブレマニス氏に聞きました。
※本記事では、1豪ドル=110円で換算しています


左/Dan Glover(ダン・グラヴァー)
在日オーストラリア大使館 産業・科学・資源担当参事官(2024年1月より)。資源貿易、製造業、重要技術に関するオーストラリアと日本のかかわりを主導するほか、科学協力の支援も行う。
前職ではオーストラリア産業科学資源省にて石油・ガス政策に携わり、東ティモールとのグレーター・サンライズ・ガス田共同開発に関する交渉の担当や、オーストラリアの産業・科学・技術大臣のアドバイザー、オーストラリア海上安全局のメディア・政府アドバイザーを務めた。また、政府機関で働く前は、オーストラリア放送協会でラジオ・ジャーナリストを務めており、キャリアと並行して、オーストラリア陸軍予備役で広報官を務めている。

右/Leo Bremanis(レオ・ブレマニス)
在日オーストラリア大使館 商務参事官(2025年1月より)。宇宙産業や先進製造業、重要技術、健康・医療、防衛分野を担当。2017年に入庁して以来、国内外でさまざまな政策や豪州企業の貿易のサポートに携わっている。日本での着任以前はニューデリーで商務参事官として、オーストラリア政府による“豪印未来のスキル・イニシアチブ”の立ち上げや、宇宙、先進製造業、防衛部門における豪州企業への支援を主導した。

5,060億円規模の市場に成長 オーストラリア宇宙産業を支える3つの要素

グローバル規模で競争が激化する宇宙産業において、独自のポジションを築きつつあるオーストラリア。同国の宇宙セクターは現在、年間46億豪ドル(約5,060億円)の売上規模に達し、17,000人以上の雇用を生み出しています。宇宙セクターにかかわる企業・組織は620近くに上り、宇宙専業の企業の売上は年間11億豪ドル(約1,200億円)に達したといいます。

ブレマニス氏はオーストラリア宇宙産業の成長ぶりをこう説明します。

「研究開発費は2017〜2018年の2,700万豪ドル(約30億円)から2022〜2023年には1億3,500万豪ドル(約149億円)へ、約5倍に増加しました。プライベート・エクイティ投資も、2018年の3,400万豪ドル(約37億円)から2024年には2億8,900万豪ドル(約318億円)に拡大しています」(ブレマニス氏)

こうした成長の背景には、オーストラリアならではの構造的な強みがあります。それは、打上げ・帰還拠点としての地理的優位性、鉱業・エネルギー産業で培われた技術基盤、そして商業志向の政策という3つの要素です。

「打上げ・帰還拠点」としての地理的優位性

オーストラリアの宇宙産業を語るうえで欠かせないのが、有利な地理的条件です。日本の20倍ほど、約769万平方キロメートルの国土には人口密度の低い地域が広がり、光害の少ない夜空、少ない航空交通量と電波干渉という、宇宙活動に適した環境が整っています。

グラヴァー氏は打上げ拠点としてのオーストラリアの強みについて、こう説明します。

「広大な国土を有するオーストラリアでは、静止軌道への投入など、赤道付近からの打上げが必要な場合はクイーンズランド州やノーザンテリトリー、地球低軌道(LEO)向けの打上げでは南オーストラリア州と、目的に応じて打上げ場所を使い分けることができます。国内で静止軌道とLEOの両方に対応できる点が、大きな強みの一つです」(グラヴァー氏)

実際に、この地理的優位性を活かした動きも活発化しています。

ブレマニス氏によると、南オーストラリア州Koonibba Test Range(クーニバ試験場)ではSouthern Launch(サザン・ローンチ)が2020年に初打上げを実施。米国のVarda Space Industries(ヴァルダ・スペース・インダストリーズ)もクーニバ試験場で3回の再突入着陸を行い、今後3年間で20回の再突入を計画しています(参考記事)。さらに、同国のGilmour Space(ギルモア・スペース)に加え、シンガポールのEquatorial Space Systems(エクアトリアル・スペース・システムズ)も打上げ事業を進めており、オーストラリアは打上げ・帰還分野の国際的なリーダーとしての存在感を高めています。

2023年にはNASAがアメリカ国外初の商業打上げの場所にオーストラリアを選定していますが、オーストラリアの宇宙分野における地理的優位性は、歴史の面からも証明されている、とブレマニス氏は語ります。

「1969年にオーストラリアのキャンベラ付近にある天文台が、初の月面着陸の映像を中継するという役割を果たしました。これに始まり、2023年のNASAによる商業打上げに至るまで、宇宙分野でのオーストラリアの地理的優位性は一貫したものです」(ブレマニス氏)

図 記事中でふれたオーストラリアにおける打上関連施設
宇宙活動に適した広大な土地をもつオーストラリア。宇宙ビジネスが世界的に成長し、打上げ需要も急増する中で、その地理的優位性は大きな武器となっています

鉱業とロボティクス、宇宙を支える他産業発の技術

オーストラリアの宇宙産業のもう一つの特徴は、鉱業やエネルギーなど、同国を支えている既存産業で培われた技術が宇宙分野に転用されている点です。

「オーストラリアは日本とも深い関係がある鉱業が盛んです。鉱業は、へき地や過酷な環境で営まれており、月面や火星の表面のような環境と通じる面があります。そのため、ロボティクスや、遠隔医療などを含めた遠隔でのオペレーションといった、将来宇宙で必要となる技術の基盤があります。農業における技術も同様に宇宙で活かせると考えています」(グラヴァー氏)

「自律型技術やリモートセンシングなど、鉱業や資源・エネルギー分野の技術が宇宙分野に導入され始めています。オーストラリアの既存産業の知見が宇宙に活用されているのです」(ブレマニス氏)

こうした技術基盤に加え、世界的に評価の高い大学・研究機関の存在も、オーストラリア宇宙産業のエコシステムを支えています。大学発の宇宙スタートアップも多く、イノベーション拠点をハブに、企業と研究の商業化を進めるケースもよくあることだといいます。

「商業主導型エコシステム」形成を目指す宇宙政策

ブレマニス氏は、「オーストラリア企業はロケット製造、宇宙港開発といった分野で、地理的優位性を活かしてグローバルに顧客を獲得のための競争を進めています」と、民間企業が地の利を活かして事業を展開していると説明します。

宇宙輸送や宇宙港以外にも、オーストラリアの宇宙企業が手がける分野は幅広く、先端R&D、地球観測、宇宙状況把握、ロボティクスと多岐にわたります。業界団体であるオーストラリア宇宙産業協会(SIAA)は、オーストラリア宇宙産業マッピングを行った企業情報データベースを提供しており、産業界全体で宇宙産業に取り組んでいる様子がうかがえます。

南オーストラリア州アデレードにある企業団地Lot Fourteen(ロット・フォーティーン)は、こうしたエコシステムの象徴的な存在です。オーストラリア宇宙庁もオフィスを構えるロット・フォーティーンには、スタートアップからスケールアップ企業までが集積し、州政府と連携したイノベーション拠点として機能しています。 オーストラリアの宇宙セクターは、「商業主導型」であることが大きな特徴なのです。

アデレードにあるロット・フォーティーンには、宇宙・防衛、サイバーのほか重要技術領域の企業、関連の行政機関などさまざまな組織が集まっています
Credit: ロット・フォーティーン ウェブサイト

地理的条件、そして既存産業で培われた技術を強みに、商業主導で宇宙産業の育成を進めるオーストラリア。

4/7(火)公開の後編では、こうした動きを主導するオーストラリア宇宙庁・オーストラリア大使館商務部・オーストラリア貿易投資促進庁(オーストレード)の役割と、日本との連携のあり方についてお聞きします。

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