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【海外動向】UAEの注目企業・Space42の最高商務責任者に聞く、万博のレガシーと宇宙ビジネスの将来展望

10月13日、盛況のうちに閉幕した2025年日本国際博覧会(略称:大阪・関西万博)。
日本館やJAXAブース、アメリカ館、中国館など、各国・各団体パビリオンで宇宙に関連する展示物が多く見られました(参考記事)。

日本を含め世界中で活発化している宇宙開発・宇宙ビジネスですが、特に積極的な取り組みを進めている国の一つがアラブ首長国連邦(UAE)です。 SPACE Mediaでは、大阪・関西万博UAEパビリオンのスポンサーの1社であり、UAEを代表する宇宙企業でもあるSpace42で最高商務責任者を務めるスレイマン・アル・アリ(Sulaiman Al Ali)氏に、万博での成果と今後の展望を聞きました。


スレイマン・アル・アリ(Sulaiman Al Ali)
Space42 Chief Commercial Officer(最高商務責任者) 中東・アフリカ・南アジア地域(MEASA)にて20年以上の通信・衛星分野での経験をもち、Yahsat、Etisalatで指導的役割を歴任。経営大学院INSEADでエグゼクティブMBAを取得しているほか、起業家リーダーシップの修士号、カリファ大学(Khalifa University)にて通信工学の学士号を取得。衛星電話サービス事業者・スラーヤ(Thuraya)の最高経営責任者(CEO)でもある。

大阪・関西万博を通じて伝えたUAEの価値 〜歴史の遺産と革新の融合

Space42は、2025年大阪・関西万博でUAEパビリオンの公式パートナーとなりました。その背景と経緯、展示を通じたメッセージについて聞かせてください。

アル・アリ 今回、Space42は、大阪・関西万博UAEパビリオンの公式パートナーを務めたことを誇りに思っています。

これは、AI活用地理空間ソリューション企業・Bayanat(バヤナット)と衛星通信企業・Yahsat(ヤーサット)の合併で2024年に設立された、UAE初のAI駆動スペーステック企業としての私たちの使命を反映したものです。Space42は、衛星通信と地球観測を先進的なAIと組み合わせることで、地球上のコミュニティと経済を強化する宇宙技術を提供しています。これは持続可能で知識主導型の未来に向かうというUAEのビジョンに沿ったものでもあります。

パビリオン内の展示「宇宙探検家たち」では、地球観測とAIがレジリエンス(回復力・強靭性)と高度な対応を支援すること・Direct-to-Device通信が安全で普遍的な接続を拡大すること・UAEが投資を通じて国際競争力を高めていること、の3つを核となるメッセージとして、UAEの宇宙における実績と、今後数十年の野心を紹介しました。

大阪・関西万博へ参加した印象はいかがでしたか。

万博期間中、パビリオンではインタラクティブな展示と没入型の体験を提供し、累計500万人を超える来館者の皆さんを迎えました。多くの方にパビリオンを体験いただき、歴史の遺産と革新を融合させるというUAEのストーリーに共感いただけたと感じています。

当社にとって大阪・関西万博は、新たなパートナーシップ探索の場であるとともに、未来への挑戦にあたり、宇宙がどのような位置づけにあるのかを示す機会になったと考えています。

UAEパビリオン内の「宇宙探検家たち」では宇宙開発や探査への取り組みを通したUAEのビジョンが伝えられました

あらゆる課題解決に「宇宙」を使う時代 〜衛星通信と地理空間情報ソリューションを拡大

世界の宇宙開発と宇宙ビジネスのトレンドをどのように見ていますか。また、その情勢の中でUAEをどう位置づけていますか。

アル・アリ 世界的に、あらゆるものが宇宙に「収斂(convergence)」していく方向にあると見ています。これはつまり、レジリエンスや安全保障から気候変動、通信の接続まで、世界を取り巻くさまざまな課題に取り組むために宇宙が活用されるようになるということです。

衛星通信とモバイル端末を直接接続する衛星ダイレクト通信への投資が増加し、セキュアでレジリエンスな接続への需要が高まり、多くの国々が地球観測衛星の配備を進めています。

UAEは、Space42を通じて、この変革の最前線にいます。今年後半には、新しい合成開口レーダー(SAR)衛星を打上げ、UAEの地球観測衛星シリーズ「Foresight」コンステレーションを拡大する予定であり、また、AIを搭載した地理空間情報プラットフォーム「GIQ」(参考記事)を通じて高度な地理空間分析の提供を始めています。

今後Space42が打ち上げる予定の合成開口レーダー(SAR)衛星「Foresight 2」
Credit: Space42

また、衛星通信においては、世界的な衛星通信企業Viasatとの共同事業であるEquatysを通じてDirect-to-Device接続サービスを提供すべく、世界最大級の移動体衛星サービス通信衛星「Thuraya-4」の商用運用に向けた準備を進めています。

これらの投資により、UAEは宇宙大国として、そしてグローバルパートナーとしての地位を確立していると認識しています。

日本との協力のあり方 〜革新の精神を共有、互いの強みを生かし合う

宇宙分野での日本とUAEの協力について、有望だと感じる分野はどこですか。日本への期待はありますか。

アル・アリ 戦略的パートナーシップはUAEのDNAの中核であり、Space42もそのアプローチを継承しています。一方、日本は革新の文化と技術的卓越性で知られていますが、UAEは宇宙とAI領域における急速な進歩を通じて、日本とこの精神を共有していると思っています。

宇宙において、協力の機会は豊富にあります。

日本の精密工学と探査ミッションにおけるリーダーシップは、UAEのAI搭載地球観測、セキュアな衛星通信、野心的な惑星科学プログラムにおける進歩と相互に補完できるものだと考えています。

ソフトバンクとは、2022年まで14年にわたるパートナーシップを築いてきましたが、これもその一つといえるでしょう。同社とは、災害時に地上の通信ネットワークを利用できない個人や企業に対し、私たちのモバイル衛星サービスを提供しました。

私たちは、協力をイノベーション共創への道筋、気候モニタリングから将来の宇宙探査まで、世界規模の課題に共同で貢献する手段だと考えています。

衛星通信、インテリジェンスの提供を通して持続可能な成長を目指す

Space42としての展望と今後の計画について聞かせてください。世界の宇宙産業でどのような役割を果たしていくのか、特に、貴社の強みである通信と地理空間インテリジェンスの観点でいかがでしょうか。

アル・アリ Space42は、世界規模の通信や、意思決定に重要な役割を果たしていると考えています。

通信分野では、前述のEquatysを通じて、世界中の数十億のユーザーにシームレスな衛星ダイレクト通信を提供することを目指しています。同時に、Thuraya-4、Al Yah-4、Al Yah-5衛星を通じて、政府、企業、消費者向けのセキュアでレジリエンスな接続を拡大していく予定です。

地理空間情報・分析においては、Foresightコンステレーションの拡大のためアブダビに専用の製造拠点を設立し、生産能力の強化を図っています。これをAI搭載プラットフォームである「GIQ」(参考記事)と組み合わせることで予測・インサイトを高速に生成し、災害対応や気候モニタリング、防衛、都市計画を支援できると考えています。

将来を見据えたSpace42の役割は明確です。私たちは、レジリエンス、繁栄、持続可能な成長の実現手段としてテクノロジーを提供する、グローバルな宇宙パートナーとなることを目指しているのです。

UAEと日本とのコラボレーションが進むことで世界の課題解決が進み、多くの人が利便性の高いサービスを使えるようになることが望まれますね。今回はありがとうございました。

人工衛星を活用した通信、そして地球観測の事業展開を急速に進めているSpace42。その背景には、気候変動への対応や災害の監視、防衛や安全保障、切れ目ない通信の維持・拡大といった世界の課題解決に積極的に関与していくという強いビジョンがうかがえました。

同社とUAEの今後の取り組み、そして世界の宇宙ビジネスの進展に、引き続き注目していきましょう。

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