前回の記事では、2011年(初回)から2015年までの過去のコペルニクス・マスターズ総合大賞を紹介しました。今回は、2016年から2020年(最新)までの総合大賞を解説します。
・コラムNo.1:https://spacemedia.jp/news/1919
2016年は、スロベニアのSinergiseが提案した”Sentinel Hub”が総合大賞を受賞しました。(https://www.sentinel-hub.com/)
Sentinel HubはSentinel衛星を中心とする地球観測衛星が撮影する画像データを処理、分析できるサービスを提供するものです。Sentinel衛星のデータに加えてLandsatやPlanetなどのソースへのアクセスも可能としています。プラットフォームとしてアマゾンが提供する汎用的なクラウドサービス“AWS”(Amazon Web Service)を活用しており、様々なGIS(地理情報システム)アプリケーションでデータを利用しやすくするとともに、Webアプリケーションへのデータ結合を容易にしています。Sinergiseは2008年に設立された会社であり、Sentinel Hubの開発によってアプリケーション開発者がリモートセンシングデータの取り扱いの煩雑から解放されるようになったことから、年間200万人以上が本ツールを利用しています。また、Sentinel HubはCopernicus計画に対する理解を深めることができるシステムとして評価されています。
2017年は、スペインとエストニアの大学チームが共同で発案した“FSSCAT”が総合大賞を受賞しました。
(https://elecnor-deimos.com/project/fsscat/)
FSSCATは、ESAの推進するコペルニクスセンチネル小型衛星チャレンジでも賞を受賞したミッションコンセプトです。2機の6Uキューブサットが連携し、極地の氷監視と土壌水分の測定をするというミッションです。彼らのアイディアは非常に費用効果が高い方法であり、地球観測用の小型衛星コンステレーションの先駆けになると評価されました。その後も、衛星データやリモートセンシングを専門とするElecnor Deimosと共同でミッション開発を行い、2020年9月には2機の小型衛星を打ち上げました。
2018年は、ポルトガルの“CybELE”が総合大賞を受賞しました。
CybELEは、衛星データを利用して法的な環境問題を管理できるよう設計された、特に民間の法律事務所や保険会社の専門家を対象としたツールです。このツールの特徴は、環境問題に関する訴訟に要する費用、時間、調査の負担を軽減し、企業やクライアントの効率性を高めるという点にあります。また、衛星データを活用することで環境問題の予見可能性を向上させることができる革新的なソリューションです。総合大賞受賞後の2019年に、地球観測、コンピューターサイエンス、法律の分野で経験を積んだ2人の共同創設者によって会社CybELEが設立されました。ケーススタディーでは1,000万㎞²のエリアを監視し、17の環境コンプライアンス違反が発見され、関連する企業全体で約1,000億円のコストを削減できるという結果が得られています。
2019年は、オランダの“Green City Watch”が総合大賞を受賞しました。
(https://www.greencitywatch.org/)
Green City Watchは、課題(チャレンジ)「See Change, Change the World」に対するアイディアとして提出されました。これは、都市の生態工学に特化したオープンソースのイニシアチブとして、生態学、新しいデータソースである高解像度の衛星データ、機械学習、AIなどを組み合わせて都市における自然の質を測定し、自然の管理を合理化、最適化するものです。本アイディアから開発された、灌漑、生態学的ホットスポット、汚水、洪水に関するほぼリアルタイムの地理的データを利用して、エビデンスに基づいた都市緑地管理を推進する”TreeTect”を提供しています。2018年に3人のパートナーで設立された会社Green City Watchの製品でありながら、”TreeTect”は世界中の30以上の都市で利用されており、自然環境の改善に役立っています。
2020年は、オランダの“Reef Support”が総合大賞を受賞しました。
Reef Supportは、海洋の環境保護と汚染管理に対するソリューションです。AIと衛星画像を利用した沿岸のサンゴの健康状態を追跡するオンラインツールであり、海岸の管理や監視、汚染、サンゴの白化、藻類の異常発生を検出する自動警報システムを備えています。海洋ビジネスの簡素化と、絶滅の危機にあるとされているサンゴ礁の保護を目的としており、今後需要が増えていくことが予想されます。2020年9月に設立されたばかりのReef Supportですが、iOSとAndroidの両方で利用できるユーザーフレンドリーなサブスクリプションベースのサービスを提供しており、現代社会が抱える世界的な海洋問題を解決へと導く画期的なアイディアとして期待されています。
2016年にSentinelデータをクラウド上で提供する“Sentinel Hub”が受賞されたのは、2014年以降打ち上げが続いたシリーズ衛星Sentinelのデータの利用促進が評価されたと考えられます。2017年から2020年にかけては、2015年に国連サミットでSDGs17のゴールが採択されたこともあり、衛星データが環境問題や世界的問題の解決にどう利用でき、それがどうビジネスにつながるか、という観点から総合大賞が選出されている傾向が見られます。
以上2回に分けて、2011年まで全てのコペルニクス・マスターズ総合大賞の解説を行いました。次回以降は、過去にコペルニクス・マスターズで受賞したいくつかのアイディアをピックアップし、最新の衛星データ利用という観点から紐解いていきます。
Photo credit: ESA (欧州宇宙機関)
SPACEMedia編集部