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コペルニクス・マスターズで受賞されたアイディア解説No.3

前回まで2回にわたり、コペルニクス・マスターズ総合大賞を受賞した全10のアイディア(2011年~2020年)の解説をしました。今回と次回は、コペルニクス・マスターズで賞を受賞した提案の中から、衛星データ利用とビジネスモデルに関するアイディアにフォーカスした最新情報をお届けします。まずは、衛星データ利用分野における受賞アイディアです。

・コラムNo.2:https://spacemedia.jp/spacebis/1921

Waterjade

(https://www.waterjade.com/en/)

2020年、ECが設定した「ブルーエコノミーチャレンジ」では、イタリアのMOBYGISが提出したアイディアであるWaterjadeがチャレンジ賞を受賞しました。ブルーエコノミーとは、海を守りながら、経済や社会全体をサステイナブルに発展させることを前提とした海洋産業(漁業や養殖業などの水産業や海運・造船、海洋観光)のことです。Waterjadeでは、人工知能と物理モデルを組み合わせた新しいモデリング手法を採用しており、Sentinel-1およびSentinel-3のデータ、現場の観測所、数値気象予測から得られるビッグデータを利用し、上流の集水域における天候の変化に基づいて水の流入量を予測します。水資源や水力発電に従事する企業は、次の運用期間にどれくらいの河川水の流入が見込めるか知るために、従来は過去のデータに基づいて流入量と発電所への影響を予測していました。しかし、最近の気候変動の影響により、水使用の非効率性や、最悪の場合には営業や業務の停止を引き起こすことが懸念されており、手法の改善が求められていました。Waterjadeは、衛星データによる河川水位の継続的な遠隔監視や、上流の集水域の天候に応じた次期の河川流量の予測を可能にし、今後さらに重要な社会課題になるとされている河川のモニタリングにおける革新的なソリューションであると評価されました。Waterjadeにより、リアルタイムでの積雪水当量の監視、短期流入予測、中長期の流入及び生産予測、気候変動シナリオに応じた今後30年間の水利用の変動分析も可能になり、イタリアの主要な3つの水力発電所で使用されています。

Credit: Waterjade

 

Lumikko

https://www.lumikko-rs.com/home-1

2020年の「Airbus soblooマルチデータチャレンジ」では、オランダのLumikkoが提出したアイディアがチャレンジ賞を受賞しました。近年、気候変動による異常気象が世界各地で発生しており、台風や暴風雨、豪雨などによる洪水被害が後を絶ちません。Lumikkoのプラットフォームは、過去のデータと衛星画像を併せて分析する独自のモデルに加え、気候変動の傾向と最近の人間活動の影響を考慮し、洪水のリスクに関するより正確で具体的な情報を提供します。利用者は、定量化されたリスク評価をマップで見ることができ、潜在的に危険にさらされている地域を監視することができます。Lumikko1年後に商業ベースのビジネスモデルを立ち上げることを目標にしており、現在、最初の顧客層として世界各地の保険会社にアプローチしています。洪水予測データをポートフォリオのリスク評価や、個々の顧客に適用することができます。柔軟な保険料の決定、リスク管理マネジメントのサポートを行います。また、リスク評価の質が向上することで顧客への支払い額の予測がより詳細になり、顧客体験の向上やネガティブな評価を受けるというリスクが低下し、関係当局との関係も向上するとされています。

Credit: ESAVector.comのページを元にSPACEMediaが作成。

 

ConstellR

https://constellr.space/

2019年の「ESA Copernicus 4.0チャレンジ」では、ドイツの宇宙開発スタートアップConstellRが提出したアイディアがチャレンジ賞を受賞しました。ConstellRは、熱赤外線ペイロードを搭載した30台のCubeSatsのコンステレーションを介して、宇宙から地表面温度をモニターします。これまで、一般的に地表面温度データは12時間ごとに4001000m程度の空間分解能しか得られませんでしたが、ConstellRはその制約を解消し、12時間ごと50mの空間分解能を可能にするとされています。生成されたデータは農家が水や肥料の使用量を減らすために利用され、既存のモニタリングコストとCO2排出量の削減に重要な役割を果たします。さらに、特許出願中の“自由曲面オプティクス”による小型化アーキテクチャを採用しており、従来の衛星システムよりもはるかに安価な赤外線による監視を実現しました。2021年の2月にプレシードラウンドで約1.3億円の調達をし、同年の12月に軌道上実証を行うための最初のシステムが軌道投入される予定です。2020年に、ConstellRJAXA認定の宇宙ベンチャー天地人はMOU(基本合意書)を締結したことを発表し、日本やアジアのような人口密度が高く、住宅や農地が密集している地域でのよりよいソリューションの提供を進めています。

Credit: NASAGerman innovationのページを元にSPACEMediaが作成。

 

今回は、衛星データ利用の最近の特徴的な傾向の一つである環境問題への対応を取り上げました。コペルニクス・マスターズでは、社会課題解決の手法としてのアイディアが主に賞を受賞しているように見られます。世界規模の課題解決や、SDGsの達成には衛星データの活用が有用なソリューションであるとされていることから、今後ますます貢献していくことが期待されています。

 

次回は、衛星データを利用するビジネス面での受賞アイディアを解説していきます。

SPACEMedia編集部