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技術だけでない、社会システムとしてのロケットを作りあげる —株式会社Yspace岩崎氏の挑戦

皆さんはロケットと聞くと、どのようなものを想像しますか?

細長いフォルムに、青空に真っすぐ伸びるロケットロード、どこまでも響く轟音。多くの人は、私たちが今いる地球からの打上げを思い浮かべるのではないでしょうか。

株式会社Yspace(以下Yspace)にて最高技術責任者 CTOを務める岩崎祥大氏が考えるロケットは、従来のロケットとは大きく異なります。岩崎氏が目指すのは地球以外の星である、月・火星から打ち上げるロケットの開発です。

今回は、そんな岩崎氏が考えるロケット、そしてこれからの宇宙開発についてお話を伺いました。


お仕事をしている様子(画像右端で立っているのが岩崎氏)

Credit:岩崎氏提供

 

——まずは、現在のお仕事内容について教えてください。

主に、ロケットや惑星探査プロジェクトに関する研究開発と、システムマネジメント支援     を行っています。

例えばJAXA宇宙科学研究所(以下、宇宙研)と一緒に、小型月着陸機「OMOTENASHIから繋がる固体推進薬研究をしています。

 

——OMOTENASHI2022年にNASAの大型ロケット「SLS」で打上げ予定ですね。わずか12.6㎏で月面着陸を目指すと聞いています。月・火星着陸機のほとんどが数トン規模なので、まさに桁違いです。

そうですね。月面への着陸時に機体を壊さないためには、着陸前に減速しておく必要があります。大型の着陸機だと、パラシュートのような減速するための大型の機構を搭載できます。ところが、OMOTENASHIのような小型機だと、工夫が必要です。

そこで登場するのが小型の固体燃料ロケットです。落下する機体から、地面の方向にロケットを噴射することで機体を減速させます。そうすることで機体を壊さずに月面着陸を行える、というわけです。

 

でも、このシステムって、月や火星から打ち上げるロケットにもなりえると思いませんか?地面の方向に燃料を噴射する、というのは、打上げロケットでもOMOTENASHIでも共通しています。月・火星からロケットを打ち上げられれば、採取したサンプルを地球に送り返すことも可能になるかもしれません。

現在行われているプロジェクトに関わる検討だけでなく、このような将来的な応用可能性も一緒に考えています。

 

——そういった月・火星からの打上げロケットは、具体的にどのようなものになるのでしょうか?

システム自体は地球から打ち上げるものとそんなに変わらないです。

地球からだと大気があるので、その抵抗を減らすためにロケットは細長い形状をしています。でも、月・火星から打ち上げるなら、ずんぐりむっくりな形でも良いんじゃないかと思いますね。

 

——それは、現在ではなかなか見られない形状のロケットになりそうですね。

岩崎さんは宇宙研で研究員をされていたご経験もありますよね。宇宙研にいた頃と、Yspaceでのお仕事、どう変わりましたか?

宇宙研では大学院生・研究員として、研究を行っていました。

当時から、ロケットや惑星探査のプロジェクトに関わらせてもらっています。研究員だった頃は、ロケットの安全審査書類や技術文書の作成などの事務的な作業も多く行っていました。

それに比べて今は、宇宙研にいた頃よりも研究をしている気がしますね。「宇宙輸送の概念を変えたい」という想いのもと、働いています。

 

ロケットを社会システムに組み込むためには、技術面以外にも多くの課題があります。打ち上げ頻度を上げるなら、物流の最適化、という視点でロケットを考えないといけない。時刻表も必要になるかもしれないですよね。そういうのをひっくるめて、ロケットの概念を作り上げていきたいです。これは、文理問わず、他の分野の知識も必要になってきます。他の人とのつながりも大切にして、みんなで作り上げていきたいですね。

 

——ロケット開発というと、どうしても技術開発のほうに目が行きがちですよね。

岩崎さんの考えるような包括的なロケットの概念検討は、まだ本格的にやられている方が少ない印象です。

今まで誰もやっていないことを考える、というのは大変ではないですか。

こういった考えを持っているエンジニアはあまりいない印象なので、そこは課題に感じています。

宇宙開発を行っているエンジニアの中には、地球周回軌道に入るCubeSatの知見を持っている人は多くいます。ところが、深宇宙でロケットを飛ばすとなると、その技術だけでは足りなくなってきます。

例えば、ロケットの位置情報を知る、という点に難しさがあります。地球周回衛星だと、GPS、地磁気など、使える手段が複数あります。ところが、月より遠くになっちゃうと、それらが使えなくなってしまう。これまでの常識が通じない時にどうしたらいいか、を考えられるエンジニアが不足していると感じます。

 

——色々な視点からロケットを考えられている岩崎さんですが、「プロジェクトマネジメント訓練用カードゲーム」というものも作られているそうですね。

これは宇宙研の頃から一緒にロケット開発をしていた     先生から、お声かけいただきました。

カードゲームをプレイすることで、プロジェクトマネジメントの概要を掴めるようなものです。短時間で、プロジェクトの追体験をしてもらいます。

実際の宇宙のプロジェクトは息が長いです。プロジェクトに参加する中で、メンバー間の認知・認識のずれによるトラブルが起きる、という場面を度々見てきました。それを語るだけではなく、解決のために形にしたいと考えて生まれたのがこのゲームです。

一部の天才だけでなく、プロジェクトの中で色んな人が心穏やかに過ごしてほしいと思っています。そうじゃないと、宇宙産業の裾野は広がらないので。そういうところで、このゲームが活かされて欲しいですね。

 

——ロケットに限らず、本当に幅広い領域で活動されているんですね。

プロジェクト目標だけを見て突き進むのではなく、惑星探査や宇宙輸送開発の息が長く続くように、こういった活動もしていきたいと思っています。

 

——少し意地の悪い質問かもしれませんが、岩崎さんの考えるロケット開発は、地上にいる私たちにどのような影響がありますでしょうか?

金銭的な影響は、そんなにないんじゃないですか。売れるとも思ってないですよ。

学生時代にロケットの打上げを見に行ったことだったり、はやぶさ2が帰ってきたことだったり、そういうことで得た感動が、今の私につながっています。

お金になるとかでなく、その一歩手前にある「面白い」という気持ちをみんなに伝えたいです。それに何か金銭的な価値をつけるっていうのはすごく難しいんですけど。ビジネスの面では、まだまだ模索中です。


岩崎氏が記録員として携わった、観測ロケットS-310-45号機の打上げ風景

CreditISAS/JAXA

——はやぶさ・はやぶさ2をきっかけに理系の進路を選んだという話もよく聞きます。宇宙には、一瞬で人生を変えるような、そんな魅力がありますよね。

今後、宇宙産業にはどのようなことを期待されますか?

もっと気軽に宇宙に参入してほしいですね。1000万~2000万円あればCubeSatが飛ぶような世界です。皆さんが思っているよりも、宇宙開発は自由なものだと思っていますよ。しかも、理系だけの話では決してない。社会学的な話だって、なんだって関係します。

そして、もっとクリエイティブに宇宙のことを考えてほしいと思っています。今の宇宙業界は、JAXAや偉い先生の話を引用したものが多い印象を受けます。誰かの受け売りじゃない、心から面白いと思えることをやってほしい。私自身も、そういうことをやっていきたいと思っています。

深宇宙開発に関しては、JAXA、ベンチャー、大手企業の差はそんなにないと思っています。月・火星のような重力天体を目指す、ということをこれからも積極的に発信して、一つの目標に向けてみんなで協力してやっていきたいですね。

 

他分野を巻き込みながら、宇宙輸送・惑星探査を発展させていく岩崎氏。彼をきっかけに、さらに多くの人が宇宙に参入し、宇宙開発の裾野が広がっていく予感がします。

 

取材協力:岩崎祥大氏(株式会社Yspace 最高技術責任者CTO

株式会社Yspace HPhttps://yspace.co.jp/

OMOTENASHIプロジェクトHPhttps://www.isas.jaxa.jp/home/omotenashi/index.html

S-310-45号機打上げ報告:https://www.isas.jaxa.jp/topics/002315.html


SPACEMedia編集部