独自の小型SAR衛星開発により、政府や民間企業へ衛星データソリューションを提供する株式会社Synspective(以下、Synspective)は、2022年3月1日には同社小型SAR衛星の2機目の実証機「StriX-β(ストリクス・ベータ)」の打上げに成功しました。さらに、2026年前後の小型SAR衛星30機からなる衛星コンステレーションの構築を目指しています。同月29日には、199億円の資金調達も実施。衛星開発からソリューション提供まで――宇宙産業という枠を超え、幅広い領域の企業に向けて事業を行っています。
今回は、PRマネージャー・熊崎勝彦氏にお話を伺いました。
Synspectiveとは
Synspectiveの始まりは、内閣府の革新的研究開発プログラム「ImPACT」。そのプログラムの1つに“SAR(合成開口レーダー)衛星の小型化”がありました。そこで研究された小型SAR衛星を社会実装したい、という想いから2018年に設立されています。
既にStriX-αおよびStriX-βという2機の実証衛星が、宇宙に打ち上げられています。StriX-βは、2022年3月に打ち上げられました。少しずつ技術面での改良や投入軌道の再検討も行いながら、今後も続々と衛星を打ち上げる予定です。
StriX-βの打上げ
Credit: Synspective Inc.
https://synspective.com/jp/information/2022/strix-1_launch/
独自のSAR衛星とその開発現場
SynspectiveのSAR衛星の強みは、何といっても“小型であること”。小型化することで、安価で開発が可能になります。
従来のSAR衛星は、開発から打上げまでに100億~200億円の費用がかかりました。高価格のままだと、衛星を大量に打上げることはできません。そのため、衛星データの供給不足という課題がありました。SAR衛星を小型化し、安く開発できるようになることで、より多くの衛星を打上げ、データを取得できるようになります。今後はSAR衛星からのデータ供給量が格段に増加することが見込まれます。
では、どのようにして小型化を実現しているのでしょうか。その秘密は、アンテナにあります。
SAR衛星はアンテナから電波を発射し、その反射を見ることで、地表面の情報を手に入れます。アンテナが大きくなるほど、分解能(どれだけ細かい構造が見えるのか)は向上すると言われています。
高分解能を実現しながら、小型化を行う。矛盾しているようにも見えますが、ここにSynspectiveならではの技術があります。
熊崎氏 「Synspectiveが開発しているSAR衛星のStriXシリーズでは、アンテナを折り畳み式にすることで打上げ時の小型化を実現しました。宇宙に行く前は70cm四方の立方体ですが、宇宙に行くとアンテナを展開し、5mほどの大きさになります」
Synspectiveが開発する小型SAR衛星のイメージ画像
Credit: Synspective Inc.
https://synspective.com/jp/press-release/2021/strix-b-launch/
アンテナの小型化には多くの困難があったそうです。
例えば、アンテナの熱制御。データのざらつきを低減するためには、アンテナから発射する電波を高出力にする必要があります。しかし、高出力を目指すと発熱量が大きくなり、高度な熱制御が求められます。
熊崎氏 「ここは、まさに『ImPACT』を通して培った知見が生きている部分ですね。他にも様々な視点からの研究を行い、熱制御、“軽量化”、“部品点数の少数化”、“壊れやすい部品への依存性の低減”などを可能にしています。今でも技術研究は続けていて、衛星の改良は日々進めています」
また、衛星開発を行うメンバーは宇宙開発に携わってきた人ばかりではありません。自動車会社を含め、日本のメーカー出身のエンジニアが多数在籍しています。メーカー出身の人材は、製品を量産するためのノウハウを持っていると言います。
熊崎氏 「今までの宇宙開発は単機での製造がメインでした。ところが、今、私たちの会社では将来30機のコンステレーション構築を目指すため、複数機生産を行っています。そうなると、日本のメーカーで培ってきた量産技術や知見が生きるのです」
高度な専門性を生かしての衛星開発から、分野を限らず幅広い知識をつぎ込む衛星開発へ――。開発現場の様子も、少しずつ変化が見られるようです。
衛星データを活用したサービス展開
地盤沈下モニタリングサービスを用いて油田採掘エリアの沈下傾向を確認した画像
Credit:Mapbox, OpenStreetMap Improve this map, Copernicus Sentinel data [2014-2021], Synspective Inc.
https://synspective.com/jp/usecase/2022/ldm6/
Synspectiveの事業は、衛星開発に留まりません。衛星が撮影したデータを活用したビジネスも行っています。その内容は主に2つです。
まず1つ目は、取得したデータそのものを販売するビジネス。2つ目は、データを組み合わせてサービスとして提供するということも行っています。日本では衛星データを活用している企業がまだ少なく、手探り状態で進めているそうです。
熊崎氏 「お客様は民間企業になります。ディベロッパー、金融・保険業界の企業など、取引領域は多岐に渡ります。お客様の課題にどうアプローチできるか、というコンサルティングから始めるケースもありましたが、今はターゲットを絞り、具体的なサービスを見せながら、提案しています」
SAR衛星の強みは、地表面の変動をミリメートル単位で検出できるということ。衛星は同じ場所を何回も観測するため、時系列データを取得することも可能です。このような特性を生かし、Synspectiveでは地盤変動をモニタリングするサービス、浸水被害状況を把握するサービスなどを提供しています。
熊崎氏 「例えば、地盤変動モニタリングサービスは途上国でも使われています。グアテマラという、火山が多い国で、地滑りリスクが高い箇所を把握するために活用しました。衛星データの“広範囲を観測できる”という強みが生き、現地調査では見つけられなかったリスクを追加で3か所発見できました」
これらのサービスは既存のサービスをそのまま提供するだけではありません。それぞれの客様に対して、適切なサービスを提供できるよう、要望を聞き出した上で提案を行います。お客様からの意見を、サービス開発・衛星開発にも取り込んでいくことも将来的に積極的に行うそうです。
30機の小型衛星コンステレーション計画実現へー今後の展望
今後も衛星を打ち上げる予定で、すでに、2022年度中には初の商用実証機「StriX-1」の打上げも決まっています。2023年以内に6機の衛星が軌道上にいる体制、2026年前後には30機の小型衛星コンステレーションを作ることを目指しています。2026年には、2時間おきにデータを取得できるようになると言います。
衛星の開発から観測データ活用サービスの提供まで一気通貫で行えるSynspectiveだからこそ、宇宙業界にとどまらない産業の枠組みを超えた衛星ビジネスが展開できます。衛星データは宇宙業界だけのもの、という認識はもう前時代的になりつつあります。
Synspective HP: https://synspective.com/jp
Synspectiveの求人情報:https://synspective.com/jp/recruit/
SPACEMedia編集部