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深刻化するスペースデブリ問題解決へ!富士通株式会社の最新システム

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自動的に生成された説明
開発の様子
Credit: JAXA

小惑星イトカワの探査をした「はやぶさ※」、小惑星リュウグウの探査をした「はやぶさ2※」は皆さんご存じかと思います。地球から遠く離れた小惑星まで到達して地球に帰還する、このミッションを成し遂げたのはJAXAですが、この緻密な軌道計算を行い、ミッションの成功に導いたのは、富士通株式会社 (以下、富士通) なのです。この技術は、現在も宇宙空間に数千万~数億個もあると推定され問題とされている「スペースデブリ」の監視にも役立てられ、衛星を守ることを通じて私たちの生活を支えています。今回のインタビューでは、富士通の宇宙事業を担当している佐藤氏・中島氏・土屋氏・久野氏にお話を伺いました。

※「はやぶさ」:2003年5月に打上げられ、2005年9月に小惑星イトカワに到着、諸々のトラブルなどを経て、2010年6月13日に約60億キロの旅を終え帰還した小惑星探査機。

※「はやぶさ2」:2014年12月に打上げられ、2018年6月にリュウグウに到着、2019年に2回のタッチダウンによって試料を回収し、2020年12月6日に無事に地球に試料が入ったカプセルを届けた小惑星探査機。

富士通と宇宙との関係

宇宙の安全を守る「軌道決定技術」

―本日はよろしくお願いします。初めに、貴社の宇宙事業の概要についてお伺いしてもよろしいでしょうか。

佐藤氏 実は、富士通と宇宙の繋がりは長く、最初は1960年代から衛星通信機器などのハードウェアから取り組んできました。その後、1970年代から衛星の軌道計算なども手掛けるようになり、現在では軌道力学計算、地球観測計画、データ処理などのアプリケーションと計算機を組み合わせた地上システムを通じ、多くの衛星プロジェクトに参画しております。弊社は高い精度の技術を活かし、日本の宇宙開発のために尽力しています。

―宇宙事業の初期から参画されていたのですね!知らなかったです。

佐藤氏 意外と知られていないかもしれないですが、JAXAが運用している人工衛星の軌道計算は、ほぼ富士通が担っているのです。最近の話題で言えば、「はやぶさ」や「はやぶさ2」といった探査機の軌道計算も担当しています。はやぶさは、小惑星イトカワに到着後、音信不通となり一時行方不明になりましたが、「軌道の癖」をもとに見つけ出すことに成功し、地球まで帰還させることができました。はやぶさ2については、小惑星リュウグウまで到達して、タッチダウンするという一連の流れに富士通の技術が生かされています。

―JAXAの探査機はどちらも大きな話題になりましたね。

佐藤氏 富士通が宇宙開発に関わっているということは、実は社内でも知らない人がほとんどという状況でした。ですが、「はやぶさ」や「はやぶさ2」が話題となったことで、富士通が宇宙事業に昔から参画し、軌道計算という重要な役割を担っているということが次第に知られていくようになりました。

スペースデブリの軌道計算システムを開発

図2:スペースデブリのイメージ図
Credit: 富士通株式会社

―最近では、どのような取り組みをされているのでしょうか。

久野氏 地球周回軌道上のスペースデブリの状況を把握する、「JAXA宇宙状況把握(SSA:Space Situational Awareness)システム」(以下、「SSAシステム」)において、スペースデブリの軌道を計算する解析システムを新たに構築しました。こちらは、2022年4月より、筑波宇宙センターにて稼働を開始しました。

人工衛星がスペースデブリと衝突する危険を回避し、宇宙を安全に利用するには、SSAシステムが欠かせません。当社が構築した解析システムは「SSAシステム」の中枢として、スペースデブリを効果的に観測するための観測計画の作成、取得した観測データの管理、また、接近や衝突回避を支援する軌道計算などの解析を担っています。

Credit: 富士通株式会社

―これまでのシステムとはどう違うのでしょうか。

久野氏 まず1990年代初頭から、現在のSSAシステムの前身となるシステムの構築をJAXAとともに進めていました。ところが、スペースデブリは増加の一途をたどっており、旧システムですと、処理できる物体や、観測できる物体に限りがあり、増加するスペースデブリの脅威から人工衛星などを守るためにはこれらの軌道を正確に把握することが不可欠になります。この課題の解決に向けてJAXAがシステムを刷新することになりました。新システムでは能力を向上させ、より多くのスペースデブリの軌道を把握できるようにしています。

地上からレーダーと光学望遠鏡によって、スペースデブリを観測しますが、今回 JAXAの新システムでは、特にレーダーの性能が大幅にアップして、観測できる物体数が増加しました。これに伴い、この膨大なデータを処理するために「計算能力の向上」も必要となり、このデータ処理部分を富士通が担当しました。

―新システムの開発をする上で、苦労されたことなどはありましたか。

久野氏 やはり、観測できる物体の数が増え、取り扱うデータの量が膨大となるので、これら膨大なデータのタイムリーな処理を実現するという点で苦労をしました。また、レーダーの性能がアップしたことで、大量の物体を最大限に観測できるよう、常時最適な観測計画を作成できるアルゴリズムを新たに開発しました。これは新システムの大きな特長の1つです。

図3:増加する軌道上の宇宙物体の推移
スペースデブリの数の遷移
Credit: NASA
https://orbitaldebris.jsc.nasa.gov/quarterly-news/pdfs/odqnv26i1.pdf

これからの宇宙産業

―スペースデブリの増加やベンチャー企業の参入など、宇宙産業の環境は大きく変化しています。この先の展望としてはどのようなことをお考えでしょうか。

土屋氏 3つのポイントがあると考えています。まず1つは、人類の活動の幅が広がるということです。地球だけではなく、月や火星に活動領域が広がっていくことは、大きなビジネスチャンスとなるでしょう。宇宙は他にも、補給船、ローバー、ヒト、ロボット、センサ、アバターなど、色々なモノが、様々な活動をする場所になります。このような世界では、事業者が単体で何かをやるのではなく、「相互につながること」が大事だと思います。

2つめは、デジタライゼーションです。モノづくりの現場でいきなり作って試すのではなく、より高度なシミュレーションを実現することで、事前検証ができるようになるでしょう。そうすれば、実際に宇宙空間に行かなくとも様々な検証をすることができます。

3つめは、衛星の安全領域を、他の衛星と相互に確保をするということです。スペースデブリや衛星で込み合った宇宙空間において、衛星同士が安全領域を保つこと、さらに衝突のリスクが生じた際には、これを瞬時に判断して対応するという運用が行われなくてはなりません。

富士通としては、こうした3つのポイントを意識して、これまでの軌道計算技術やHPC(ハイパフォーマンス・コンピューティング)やAIなどのコンピューティング技術を組み合わせて、「誰でも宇宙を利用することができる」そのような事業を創出したいと思っています。

―人材という観点では、これからの宇宙業界でどのような人材が活躍できると思いますでしょうか。

佐藤氏 これからの宇宙業界では、特に宇宙とは関係のない分野の方々でも活躍をすることができると考えます。なぜなら、様々な分野で宇宙を使ったビジネスが検討されており、宇宙ビジネスが特別ではない領域になっていくからです。そのため、まっさらな頭で宇宙がこんなことに使えるんじゃないかというアイデアを出せる人、宇宙を利用した先の未来を考えることができる、そういう人材が重要になってくると思います。

開発の様子
Credit: JAXA

以上、長年宇宙事業で活躍され、重要なポジションを担ってきた富士通のインタビューでした。日本が誇る小惑星探査機「はやぶさ」および「はやぶさ2」の軌道計算を行い、支えてきたその技術力で、これから先の宇宙開発をどのように発展させていくのか注目です。また、大手の有名企業でありながら、日本の宇宙の歴史の初期段階から、宇宙事業を行っていると知らなかった読者も意外といるのではないでしょうか。宇宙産業の裾野は広く、携わっているプレイヤーは多く、そして現在も増え続けています。インタビューの中にもあったように、これから先の宇宙産業はどんどん拡大し、現在では想像できないような経済圏になっていくことでしょう。宇宙産業の未来を牽引する、富士通が提供する最先端テクノロジーに今後も目が離せません。

佐藤 宗樹
富士通株式会社
官公庁事業本部 官庁第六事業部 第二ビジネス部 部長
1996~2015 官公庁担当営業
2015~ 宇宙業界担当営業 
2020~2022 内閣府 宇宙開発戦略推進事務局に出向
2022年5月~ 現職
中島 廣人
富士通株式会社
官公庁事業本部 官庁第六事業部 第二ビジネス部 営業担当
2015~2019 官公庁担当営業
2019~ 宇宙業界担当営業
土屋 武也
富士通株式会社 官公庁事業本部 官庁第六事業部 マネージャー
2006~2020 地球観測衛星の地上システム開発の開発リーダ、
      プロジェクト管理者を歴任
2021~ 宇宙領域における新規事業創出
久野 昌哉 
富士通株式会社 官公庁事業本部 官庁第六事業部 技術担当
2013~2016 防衛省SSAの調査研究
2016~ JAXA SSAシステム開発の開発リーダ
2019~2020 宇宙航空研究開発機構(JAXA)に出向
2021~ 同システム開発の開発リーダ及び運用保守












                                   SPACEMedia編集部