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ミドリムシを宇宙で培養?誰もが宇宙を利用できる世界へ- 株式会社ElevationSpace

宇宙利用といえば衛星データ活用が現在活況ですが、無重量環境を活かした創薬や材料開発も始まりつつあります。本記事のインタビューでは、日本初の宇宙利用プラットフォーム「ELS-R」を開発している株式会社ElevationSpaceのCOO・宮丸氏にお話を伺いました。

前回CEOである小林稜平氏のインタビュー
【次世代の宇宙利用プラットフォーム「ELS-R」- 株式会社ElevationSpace】
ではELS-Rの概要などについて伺いましたが、今回はそれから1年経った現在の開発状況や今後の展望について深堀したお話をお届けいたします。

「ELS-R」の開発状況

―本日はよろしくお願いします。日本初の宇宙利用プラットフォーム「ELS-R」の開発はどのような段階まで来ているのでしょうか。

宮丸氏 現在、技術実証機である「ELS-R100」の開発完了が見えており、2023年に予定する打上げに向けて種々の準備を行っています。実証機という位置づけではあるものの、実際に宇宙空間での実験ミッションも遂行する予定です。ユーグレナさんのミドリムシを搭載し、宇宙空間でミドリムシを培養して地上に持ち帰るということを計画しています。

―来年ですか、もうすぐですね。技術実証とは具体的にどのようなことを実証していくのでしょうか。

宮丸氏 ELS-Rシリーズの特徴は、宇宙で実験をして、そしてその試料を地球に持ち帰ることですが、この一連のミッションを達成するのはあまり単純ではありません。試料を持ち帰るためには、地球低軌道から離脱し、狙い通りの位置に着水できるようにタイミングを合わせて誘導し、安全に着水させ、着水したカプセルを発見して回収する、ということを行わなくてはなりません。

―その後の計画はどのようになっているのでしょうか。

宮丸氏 次のシリーズである「ELS-R1000」を開発し、2026年に打上げる予定です。ELS-R100で搭載できるのは数百グラム程度の小さな実験装置および試料でしたが、ELS-R1000では機体を大型化し、大型の装置を搭載したり複数の装置を搭載したりできるようになります。あとは、年に複数回打ち上げたりできるようにしていきたいですね。

―年に複数回ですか!どのようなビジョンを描いているのでしょうか。

宮丸氏 近いビジョンで言うと、ELS-R1000を再利用できる形に進化させていきたいというのがありますね。ELS-R100は衛星の中に試料を入れたカプセルが搭載されていて、そのカプセルだけが軌道から離脱します。衛星の部品などは非常に高価なので、最終的には衛星丸ごと地球に帰還させて再利用し、コストを削減できるようにしていきたいです。これより先のビジョンで言うと、宇宙利用のコストをどんどん下げていくことでいずれは開発のための実験だけではなく、何か量産するということをできるようにしていきたいです。あとは、やはり有人の宇宙船を作るということを目指しています。ELS-R100でミドリムシを宇宙で培養して地球に帰還させるわけですが、これは生き物を宇宙に持って行って地球へ持ち帰ったということで、その目標のためのはじめの1歩になります。

ELS-R1000機体イメージ
Credit: 株式会社ElevationSpace

ElevationSpaceで働く人々と宇宙業界のこれから

―そうしたビジョンの実現のために必要なことはなんでしょうか。

宮丸氏 私たちは、人工衛星の設計・開発・運用の実績が多数ある東北大学の吉田・桒原研究室というところから発展して始まりました。そして、様々な技術要素を重ねて宇宙利用プラットフォームを実現しようとしています。技術としてはこれまで蓄積してきたものがありますが、これをインテグレーションしてビジネスとして社会実装していくのは人間の意志と情熱ですから、共に実現しようと集まってくれる仲間が一番大切です。スタートアップ企業ですから当然資金調達等も大事ですが、やはりまずは人が大事だと思います。

―社員はどんなバックグラウンドの方が多いのでしょうか?

宮丸氏 現在はエンジニアの採用を強化しており、宇宙機や航空機の開発経験がある人はやはり多いです。しかし、航空宇宙分野というのはいろんな技術の組み合わせなので、宇宙機の経験が無くても、例えば電気系の経験を活かして活躍しているメンバーもいます。一方で、ビジネス面の業務でも、前職が宇宙とは全く関係なかったとしてもビジョンに共感して入って来るという人もいます。バイオケミカルや材料開発の顧客がいま多いので、前職は創薬に携わっていた方や実験設備のセールスをしていた方など、いろんな人材が活躍しています。私自身はずっとビジネスの世界にいましたし、前職までは物流やIT業界に身を置いていました。しかし、大学では航空宇宙工学を専攻していたので、航空宇宙オタクではありましたね。私を含め、宇宙に想いを持っているという人が多いです。

―宇宙産業は発揮できるスキルの幅が広いですよね。性格やマインドといった面では、どのような人に来てほしいと考えていますか?

宮丸氏 最も重要なのは、我が意思を持っているということですね。なぜかというと、まだ日本の宇宙開発というのは狭い世界で、インターネットの世界のようにオープンではない。そこで、既存の航空宇宙産業のやりかたを変えて、自由に宇宙へアクセスできるようにしていく必要があるからです。異なる業界の考え方が宇宙業界にも適用できるのではないか、という仮説を持って、我こそがそれをやるんだという意思を持っている方と一緒にチャレンジしていきたいです。

―最近感じる国内宇宙産業の変化はありますでしょうか?
宮丸氏 私が航空宇宙工学を修了して社会に出たのは20年ほど前ですが、当時国内で航空宇宙産業に携わるとしたら、大手の重工やメーカー、JAXAなどに入るしかありませんでした。しかしいまは違いますね。スタートアップが数多くあります。振り返ってみると、自分がインターネットに初めて触れたのは1995年でした。この時にインターネットがその後どうなっているかなんて誰も想像できていませんでした。宇宙業界も同じではないかと思います。それくらい変わってきているんですね。ロケット打ち上げや衛星データの活用だけではなく、もっと多様な企業が出てきているのも面白いです。

―これから先、さらに発展していくために大事なことはなんでしょうか。

宮丸氏 市場のパイを奪い合うのではなく、企業の垣根を越えて宇宙産業という市場全体を育てていくということが大事なことだと思います。私たちの事業に関していえば、宇宙で創薬の実験をするというユースケースを知っている人はまだ少ないです。宇宙でこんなことができるよ、という存在そのものが知られていません。創薬に限らずどの領域でも宇宙利用が広がっていき、インターネットが急速に我々の生活を変えたように、宇宙業界もドラスティックに変わっていけたらいいと思います。

ちょうど9月に、年1回開催されるIAC (International Aeronautics Congress)という会議がパリで開かれ、世界200カ国から約1万人の宇宙関係者が集まりました。私たちも参加したのですが、その交流のなかで感じたのは、宇宙業界の企業同士は仲がいいことです。いわゆる競合の企業同士でも、裏では仲がいいのです。宇宙に関わっている人みんなで宇宙業界を作っていこうという空気があり、これは既存の他の業界とは異なる良い特徴であり、維持していくべき文化だと思います。

軌道上での建築・輸送事業の構想図
Credit: 株式会社ElevationSpace

以上、株式会社ElevationSpaceのCOO・宮丸氏のインタビューでした。宇宙旅行や宇宙建築の実現に向けて、できることから着実に技術開発を積み上げている会社であり、現在の開発にも将来のビジョンにも希望が詰まっています!来年には技術実証を開始するということで、今後のニュースが楽しみですね。

宮丸 和成氏 Kazunari Miyamaru
Chief Operating Officer
大学卒業後、人材ベンチャー、物流・流通コンサルティング企業を経て、EC大手の楽天に入社。楽天では10年以上にわたり主にアジア地区の事業開発責任者、物流事業の立ち上げ及び立て直し、海外物流子会社のPMI、事業整理を推進。直近では、大手流通業のAEONで新世代ECプラットフォームの導入において、DX推進チームのリーダーとして契約交渉から要件定義、立ち上げ支援まで一貫して主導。宇宙への想い捨て難く、2022年より株式会社ElevationSpaceに参画し、COOに就任。防衛大学校 理工学専攻 航空宇宙工学科卒。