株式会社スペースワンが高頻度の小型ロケット打上げサービスを計画しており、前回のインタビューではロケットの射場が設置されている和歌山県東牟婁郡のお話を伺いました。 (リンク)。今回掲載するインタビューは、串本町の東に位置する那智勝浦町の堀順一郎町長のお話です。ロケットの打上げは那智勝浦町からも良く見えるとされており、この町でも打上げに向けた取り組みが行われています。
観光業を中心として栄える那智勝浦町
―本日はよろしくお願いします。はじめに、那智勝浦町の特徴についてお聞かせください。
堀氏 那智勝浦町は串本町の東に位置している人口1.4万人の町であり、観光業を主力産業としています。生まぐろや温泉、世界遺産である熊野古道など、様々な魅力を有しています。生まぐろというのは1回も冷凍していないまぐろのことで、この漁獲量は日本で一番です。1週間程度の漁に出て氷詰めにして港に戻って来るのですが、冷凍していないので口当たりが良く、非常に良い味をしています。お越しいただいた方々は口をそろえて他のまぐろとは違うとおっしゃいますね。このまぐろ漁ははえ縄漁といって、針1本につき1匹までしか捕れない方法で行っています。遠洋で小さな魚も丸ごと巨大な網で捕ってしまうというような方法ではありませんから、漁業資源にやさしい持続可能な漁業です。
―生まぐろ、是非インタビュー終了後に食べたいと思います。温泉といえば、同じ和歌山県では白浜町も有名ですよね。
堀氏 そうですね。白浜町には92の温泉源があり、和歌山県で2番目に多いです。しかし那智勝浦町には177の温泉源があり、ダントツの1位です。非常に多くの温泉が楽しめる、温泉の町です。
世界遺産の熊野古道は、那智の滝に象徴されるように、2000年もの歴史があります。那智大社は、1700年前に今の社務所ができたと言います。平安・鎌倉の時代から多くの人々がここを訪れ、熊野信仰を中心とした観光の町としてこの地域を支えてきました。
―本当に魅力たっぷりの観光地ですね。コロナの影響は大きかったでしょうか。
堀氏 やはりこの3年間は宿泊客が激減しました。コロナ前は年間50万人だったのが、去年は25万人でした。今年は30万人を超える見込みですね。白浜空港は1日3便しか離発着しておらず、関西や中京圏から来る人が多いですが、それでもやはり東京の人が出控えると影響は大きいです。
―観光業のための新しい取り組みなどはあるのでしょうか。
堀氏 一昨年から観光機構 (DMO) を立ち上げました。観光客に関する詳細なデータはこれまで全く蓄積されておらず、どこから来たのか程度しか記録していませんでした。観光の目的や趣味嗜好、那智勝浦のどこを訪れたのかを知るために、私が町長になってからDMOを立ち上げました。しかし、データ収集を始めたタイミングでコロナ禍が始まってしまいました。それでも得られたデータで新たに分かったことがあり、例えば那智の滝に訪れた人が町でまぐろを食べることは少なく、これは予想外の結果でした。そこで、大門坂駐車場に観光案内所をオープンして、訪問者に那智勝浦の魅力を伝えるという対応を始めていくところです。
ロケット打上げを見学する最高のスポット
―スペースワンのロケット射場がお隣の串本町に建設され、いよいよ2023年2月に初号機の打上げとなりましたね。町民の反応はいかがでしょうか。
堀氏 最近まではあまり話題になっていなかったのですが、町が主体となって宇宙ウィークなどのイベントなどを行い、かなり期待感が高まってきました。那智勝浦町からは非常によく打上げが見えると予想されていますが、実際どのように見えるのかまだ分かりませんから、待ち遠しいですね。町としては、見物客を誘致して那智勝浦の魅力を伝え、この町のリピーターになってもらう取り組みをしていきます。
―熊野古道からも良く見えたりしますか?
堀氏 あそこは見晴らしが素晴らしいですよ。方角的にも良く見えるはずです。そこからロケットの打上げが見られたら最高ですよね。ふるさと納税の高額納税者には特別席を用意したりするのも良いなと考えています。
―ロケット産業として町が栄える展開もあるのでしょうか?
堀氏 5年後には年間20発打ち上げるという計画ですから、こうした状況に対応するためにはロケット部品の組み立てを打上げ寸前まで行えるような仕組みが必要でしょう。ですので、こうした事業を行う企業誘致をしていきたいですね。那智勝浦町としてもロケット産業を盛り上げていきたいと思います。
―串本町とはどのような関係にあるのでしょうか。
堀氏 このロケット打上げを盛り上げるにあたって、最初の3年は県と串本と勝浦とが一緒になって協議会を立ち上げて取り組んでいきますので、共同でやっていくという関係にあります。しかし、その後は串本と勝浦とそれぞれで盛り上げていくことになりますから、いずれはライバルになるのでしょうか (笑)。ただ、宿泊施設は串本だけでも勝浦だけでもキャパシティが足りないといったこともありますから、協力するところは協力して、共に栄えていきたいと思いますね。
―現在どのような課題がありますでしょうか。
堀氏 宿泊施設に関して、課題はキャパシティだけではありません。打上げ関係者へのVIP対応が必要になりますが、それにふさわしいラグジュアリーホテルが数か所しかないのです。勝浦には現在2カ所ありますが、さらに誘致していけるように取り組んでいます。
あとは交通の課題です。この地域に来るまでの幹線が現在1本しかなく、このままだと相当な渋滞になって救急や消防の車が通せないという事態になりかねません。しかしながら、2023年の冬に1本開通予定であり、また高速道路が2025年の春に串本まで、2028~30年に勝浦まで延びてくるので、これで3本になります。ですから、これに関しては現在解決の見込みがありますね。
問題は輸送です。公式見学場は旧浦神小学校と串本町のあらふね海岸で、合わせて5000人のキャパがあり、ここ以外で見学する人も含めれば、もっと多くの人が来るかもしれません。そうなると、バスを何台用意して何往復するかということを考えなくてはいけません。渋滞で打上げに間に合わなかったということがあってもいけません。JRの駅も、臨時便を出す数にも限りがあります。見学場所は十分あると見込んでいますが、輸送の部分がボトルネックになるため、どのように調整していくか検討しているところです。
―今後、どのような街づくりやPRをしていきたいですか。
堀氏 人口減少や少子化というのはどの自治体も抱えている課題ですが、和歌山は南海トラフの地震がこれから40年で90%の確率で起こるとされ津波の心配がどうしてもあり、この不安感を払しょくして移住者を増やしていきたいです。町民の全員を逃がすためには200~300基の避難タワーが必要とされていますので、安心安全で子どもを育てられるように対策を進めていきます。そして、現在の観光資源に加えてロケットを象徴として宇宙産業も栄える街として発展していきたいと思います。
―現在、どのような方々が移住してきているのでしょうか。
堀氏 実はサーフィンのスポットが結構あるので、サーファーの方が移住してくるというケースがあります。ちなみに、サーフィンのスポットからロケットの打上げを見ることもできますよ。また、移住者向けに空き家の改修補助金を出しているので、それを利用して移住されている方もいますね。あとは、40年前くらいから色川地区という山沿いの場所には自然農法を行う方々が集まっています。牛を飼って田んぼを耕し、無農薬野菜を作り、風呂は薪で沸かすという生活をしています。現在、約350人のうち半数が移住者ですかね。平安時代からの綿も盛んに栽培されており、平安からの資料も数多く残っています。勝浦には地域の信仰もありますから、非常に趣のある魅力的な場所だと思います。
―これからは、宇宙産業との関わりさらに盛り上がっていくことになりますね。
堀氏 現在目に見えているのは、企業版ふるさと納税によってロケット関連企業からの税収が増加しているというところになりますね。ロケットの打上げはまだこれからですから、本当に打上げは見ごたえがあるのか、その反響を踏まえて今後の取り組みを考えていきたいですね。
以上、那智勝浦町の堀順一郎町長のインタビューでした。生まぐろや温泉、世界遺産の熊野古道やサーフィンなど、観光資源に溢れている那智勝浦町が、ロケットによってさらに盛り上がるのだという期待をひしひしと感じたインタビューでした。初号機の打上げは2023年2月末の予定です。ロケットの打上げを見学しに那智勝浦町を訪れ、是非この町の魅力を思う存分堪能しに来てください!
SPACE Media編集部