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宇宙利用で救う日本の農業 <農業×衛星リモートセンシング 第1回>

リモートセンシングとは「物を触らずに調べる」技術のことです。その中でも、人工衛星のセンサやカメラを用いて地球を調べることを「衛星リモートセンシング」といいます。この技術は、民間事業化が進む宇宙ビジネスの中でも広く活用されている分野です。

特に長期間の監視・管理が必要な農業で利用が進んでおり、「農業×衛星リモートセンシング」の事業化が、日本でも進んでいます。

今回の連載では、「農業×宇宙」に焦点を当てます。日本でどのように農業の分野で「宇宙」が活用されているのか、衛星リモートセンシングは農業によってどのようなメリットがあるのかを紹介していきます。

 

1.日本の農業課題

・少子高齢化による担い手不足

少子高齢化による農業人口の低下は、農林水産省によると、日本の基幹的農業従事者数、2015年に175.7万人だったのが、2021年には130.2万人にまで減少しており、この減少スピードは深刻なものと言わざるをえません。

農業の担い手が少なくなると広大な農地を管理することが難しくなり、食料自給率の低下や、耕作放棄地が増えるなどの問題が起きます。解決のためには農業人口を増やす以外にも、少人数でも農地管理が可能な効率的な仕組みを作る必要があります。

 

・耕作放棄地の増加

農業人口の低下によって起こるのが、耕作放棄地の増加です。耕作放棄地は、以前耕作していた土地で、過去1年以上作物を栽培せずに、今後数年間利用する意志がなくなった土地のことで、つまり農業が行われなくなって放置されている土地のことです。

耕作放棄地は雑草や害虫が発生しやすくなり、不法投棄の温床にもなりますが、再利用の価値がまだある土地です。早期に発見し、その土地の再利用を促せば問題を逆手に取ることができるかもしれません。

しかし、自治体で例年行われている耕作放棄地の調査は数か月かかるところもあり、毎年増え続けています。耕作放棄地利用の促進のためには、より効率的な監視システムの構築が必要です。



・異常気象への対応

農業と気象は切っても切れない関係にあり、特に気温や天気は栽培している作物に大きな影響を与えます。地球温暖化が世界中で議論されているように、地球の気候変動が拡大し、その影響で気象予測が難しくなっています。気温の異常な上昇は作物の高温障害を招き、台風や大雨日数の増加は作物の痛みや病気の蔓延の元になります。

これらの課題を乗り越えるためには、過去の気象データを基にした栽培計画を立て、現在のデータを活用し台風の早期発見などにつなげることで、農作物への悪影響のリスク軽減が重要になってきます。

 

2.農業での衛星リモートセンシング利用

上記のような農業の課題は、解決が非常に難しいですが、衛星リモートセンシングは、これらの課題解決策の一つになる可能性があります。空よりも遥か高くにある人工衛星から送られてくるデータは、地上では入手できない有用なものが多く、以前では不可能だった様々な手法が実現可能になっています。

いくつかの農業での衛星利用方法を見てみましょう。



陸域観測衛星「だいち(ALOS)」が捉えた農地(Credit:JAXA)

・農地のマッピングと監視、区画化

遥か上空から地球上を撮影できる人口衛星の画像は、今まで長時間かけて測量と地図作成を行わなければならなかった農地のマッピングや監視を容易にしました。定期的に頭上を通る衛星画像を解析することができれば、一目で農地の変化を把握することもできます。

さらに俯瞰で農地を見ることができる衛星画像を元に、農地を一定の区画で分けることで、区画ごとに別の品種の作物を育てるなど、栽培の効率化を行うことができます。

これらの衛星画像による農業の効率化は、農業人口の減少の一つの解決策になるかもしれません。

 

・植生の把握

人工衛星のセンサは、可視光や赤外線などの様々な波長を用いることで、それぞれの波長の特性を活かした分析を行うことができます。そのスペクトル分析で分かることの一つが「NDVI(Normalized Difference Vegetation Index:正規化植生指標)」です。

NDVIは、可視域赤の反射率と近赤外域の反射率から算出される指標で、植物の量や活力を表しています。このNDVIの値によってその土地の作物の生育状況などを把握することができ、全体の作物の成長具合にムラはないか、育たなくなっている作物はないか、などの農地管理が一目でできるようになります。

また、この数値を応用すれば作物が育たなくなった荒地を特定することもでき、課題の一つでもあった耕作放棄地の特定を行うことができます。

 

・高精度な天気予報

急な台風や気温の変化は農業における重大なリスクですが、農地ごとの詳細な気象データの把握は簡単ではありません。しかし、農地の上空を定期的に通過する人工衛星の衛星画像を分析すれば、直近の気象データを取得することが可能です。

台風や天気の情報だけでなく、気温や湿度の詳細な変化がデータとして分かれば、作物を守るための対策を素早く打ち出すことも可能になるかもしれません。また、同じ地点の、過去の詳細なデータが蓄積されていれば、過去と現在のデータ比較が可能です。そうすれば、その土地で育てやすい作物や、気象変化の傾向が分かり、あらゆるリスク低減につながります。

 

3.衛星利用で救える農業

このように、衛星リモートセンシングは数ある事業の中でも農業との相性は良く、本記事で紹介した以外にも様々な活用方法があります。ロボット・AI・IoTを活用した「スマート農業」の広がりもあり、これらを組み合わせた事業も存在します。

日本国内では農業人口減少の問題を抱えながら、世界的に見ると人口増加による食料危機も囁かれる時代にあり、農業の効率化は日本だけでなく、世界にとっても重要な要素です。そのような中、衛星利用は農業におけるキーテクノロジーになり得るため、農業の明るい未来を支える大きな柱になるかもしれません。

 

次回からは、そんな未来の農業を担う、日本国内で実際に「農業×宇宙」で活動する企業を紹介していきます。

[参考]

農林水産省:農業労働者に関する統計

 

SPACEMedia編集部