• HOME
  • 宇宙ビジネス
  • 空での物流サービス実現へ-ヤマト運輸がJAXAと「PUPA(ピューパ)®8801」の空力形状を開発 - SPACE Media

空での物流サービス実現へ-ヤマト運輸がJAXAと「PUPA(ピューパ)®8801」の空力形状を開発

202012月、ヤマトホールディングス株式会社(以下、ヤマトHD)は、JAXAと共同で物流電動垂直離着陸機(以下、物流eVTOL)への装着と、地上輸送手段の両方で使える大型貨物ユニット「PUPA(ピューパ)®8801」の空力形状を開発したと発表しました。また同社は、202110月、水を燃料に用いた超小型衛星用のエンジンを開発する株式会社Pale Blue(以下、Pale Blue)へ出資を行いました。物流業界で誰もが知るヤマトHDはなぜ宇宙分野へ展開を始めたのか、ヤマト運輸株式会社(以下、ヤマト運輸)のイノベーション推進部の部長・足立崇彰氏(以下、足立氏)、スーパーバイザー・康田理美氏(以下、康田氏)、片山結氏(以下、片山氏)に具体的な取り組みや懸ける想いについてお話を伺いました。

 

PUPA(ピューパ)®8801とは

宅配便のシェアNo.1の「宅急便」を提供するヤマト運輸などを傘下に持つヤマトHDは、202012月に「新たな空の輸送モード」の実現に向け、JAXAとの連携を発表しました。その中で発表された物流eVTOLと地上輸送手段に搭載可能な大型貨物ユニット「PUPA(ピューパ)®8801」は、陸上輸送と航空輸送それぞれの要求を同時に満たされるように、JAXAと共同開発されました。

ヤマトHDJAXAが共同開発したPUPA®8801の運用イメージ 

Credit:ヤマトホールディングス株式会社

 

トラックから物流eVTOLに切り替える場合、積み替えを行う荷役作業など作業とそれに伴う時間がかかってしまいます。それに対し、PUPA®8801は、大型貨物ユニットとして、トラックと物流eVTOLの両方に搭載することができ、陸上輸送と航空輸送の切り替えのオペレーションをシームレスに行うことを実現。お客さまに荷物をより速く、正確に運ぶことを目指しています。

 

「新たな空の輸送モード」構築の検討は、技術発展によりドローンを用いた輸送が現実味を帯びてきたことが、きっかけとなりました。さらに、コロナ禍を契機に全産業のEC化が加速し、今後も荷物の増加が予想されます。現状のトラック輸送を中心とした物流ネットワークだけでは、いつかキャパシティに限界がきます。自動運転等で効率的に運ぶことに取り組みながら、空にも輸送ネットワークを広げ、お客さまにとってより利便性の高いサービスの提供を目指します」(足立氏)と、先行して研究開発に取り組んできたそうです。

 

JAXAの数値シミュレーション技術を生かした共同開発

共同開発ではJAXAの流体解析ツール「FaSTAR(ファスター)」をはじめとした数値シミュレーション技術が使用されました。

足立氏は「JAXAとは以前から継続的に会話しており、その関係性の中で今回の取り組みにつながりました。JAXAが持つ空力シミュレーション技術をPUPA®の開発の中で使用したいと検討したことがきっかけです」と今回の開発経緯を語りました。

 

ヤマトHDでのあしかけ3年の物流eVTOLの基礎研究をベースに、JAXAの流体シミュレーション技術を用いることで、約4カ月間という短期間で仮説・検証を繰り返し、陸空両用の貨物ユニットの空力形状を開発しました。

足立氏は「SDGsの観点からエネルギー効率の最適化も重要です。

トラックは、四角い形状のため密度が高くより多くの荷物を積むことができます。一方でドローンは、空力が必要なため、丸みを帯びた形状がよく、そのため、四角い荷物を入れるとデッドスペースができてしまい、積載効率が落ちてしまいます。

そのトレードオフの一番いいバランスがどこなのか、最適値をシミュレーションの中で見つけました。形状と密度の2つのパラメータの最適値を求めています」と話します。

PUPA®8801の空力形状の変遷 
Credit:ヤマトホールディングス株式会社

 

もともと、ヤマト運輸のイノベーション推進部内に流体シミュレーションのノウハウを持った人材はいなかったそうです。一から勉強を重ね、これまで研究開発を進めてきました。

足立氏は「この分野はオープンイノベーションがキーになり、さまざまなパートナーと推進しています。ただ、外部パートナーの力を借りるだけでなく、研究内容を理解してイノベーションを推進できる人材は社内にも必要です」と話します。

個々で経験して得た知見は、勉強会を開いてシェアするなど、知識・経験の共有をメンバー間で積極的に行っているとのことです。

 

超小型衛星用の推進機を開発するPale Blueへの出資

ヤマトHDJAXAとの共同研究以外にも、宇宙産業に目を向けていました。人工衛星用デバイスの開発経験を持つ足立氏が、202010月にヤマト運輸に入社した際、出資領域の一つに宇宙領域を設定。202110月に、水を燃料に用いた超小型衛星の推進機の開発を行うPale Blueへ出資しました。

出資した背景について、片山氏は「Pale Blue社をポートフォリオに組み入れることで、ロケットや人工衛星のキーコーポネントである推進機の進化や、今後の宇宙産業に対する知見を深めることが重要だと考えています。Pale Blueが開発する水を燃料とした超小型衛星用のエンジンは、宇宙産業においてエコ・クリーンという視点でも進んでいます」と語ります。

足立氏は今後のPale Blueに「アメリカ、SpaceXが宇宙開発に強いと言われていますが、日本も負けていないと思っています。日本発のテクノロジー、技術が世界・宇宙でさらに進化していくことに期待しています。」と話します。

 

社会インフラを支えるヤマト運輸のサービスの今後

JAXAと共同開発されたPUPA®8801の実用化について、「運べる機体、安全に運ぶ技術はまだまだ先になると思います」(康田氏)と、今回の成果を踏まえて具体的なサービス性の検証も含む開発を進め、2020年代前半までのサービス導入を目指しているそうです。

 

宇宙産業から得た知見はどのように生かされるのでしょうか。足立氏は以下のように語ります。

「当社は社会的インフラとして物流を担っています。人が宇宙に行けば、宇宙に宅急便を運ぶ未来がいつかはやってくるだろうと思っています。何を運ぶかはお客さまのご要望に合わせてですが、地球で提供しているサービスで宇宙まで荷物を届ける未来を妄想しながら、それまでにできる準備、知見を深めていきたいと思っています」

 

人類が月、そして火星へと生活の場を広げた先には、宇宙でのヤマトHDの輸送サービスの展開が待っているのかもしれません。

 

SPACEMedia編集部