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《大分県》 県職員が宇宙産業を推進する「宇宙開発振興班」 -地方からの「宇宙」への挑戦 第2回-

2021年118日、大分県を始めとした地方自治体の知事が岸田首相と面会し、宇宙産業の推進・支援を求める「地方からの『宇宙』への挑戦に係る要望・提言」を提出しました。世界の宇宙産業は2040年代までに120兆円規模になると予測され、日本でも国や大企業だけでなく、地方自治体による宇宙産業の推進が進んでいます。

 

SPACE Mediaでは宇宙産業×地方自治体にフォーカスし、全国で宇宙産業の推進を精力的に進める地方自治体と地域の企業の取り組みについて連載で紹介します。

《大分県》 アジア初の水平型宇宙港を目指して -地方からの「宇宙」への挑戦 第1回-

大分県の宇宙産業に関する取り組みや企業を紹介した第1回に引き続き、第2回では全国でも数少ない県職員による宇宙産業振興を目的とした組織「宇宙開発振興班」について、大分県商工観光労働部 先端技術挑戦課の佐藤元彦課長に伺ったお話を交えて紹介します。

大分県の宇宙産業のはじまり

前回紹介した通り、アジア初の水平型宇宙港の実現を始めとして、現在では宇宙産業に関する取り組みが活発な大分県ですが、そもそも大分県が宇宙産業振興に取り組むことになったきっかけについて、佐藤氏は次のように話します。

大分県では県政の推進方針として「地方創生」、「県土の強靭化」、「先端技術への挑戦」があります。特に「先端技術への挑戦」は先端技術が世の中を変えていく時代という考えの元、新しい産業に積極的に取り組むことで地域課題の解決等にも繋がるという考えで進めています。そして、新しい産業の一つとして宇宙産業に注目はしていました。

 

そのような中、近年の大分県と宇宙産業の関わりのきっかけとなったのが、2018年の九州工業大学が主導した地球観測衛星「てんこう」プロジェクトにおいて大分県内の4社が部品等の製造に携わったことです。これまでは人工衛星部品の製造に携わったことのなかった各社ですが、自社のアピール等にもなりこのプロジェクトが良い方向に機能していました。

 

このような宇宙産業との関わりを単発ではなく継続させるにはどうすればよいか2年ほど模索していましたが、2020年に米ヴァージン・オービット社から宇宙港に関するお話をいただいたことをきっかけに、本格的に県として宇宙産業の振興に注力することになりました。


地球低軌道環境観測超小型衛星「てんこう」 
Credit:九州工業大学 


全員文系!?「宇宙開発振興班」

宇宙産業の振興に注力する大分県ですが、なんと「宇宙」という言葉の入った組織があります。それが「宇宙開発振興班」です。

 

2020年4月に大分県商工観光労働部に先端技術挑戦室が発足しましたが、発足直後の同年42日に米ヴァージン・オービット社とのパートナーシップの締結が発表されます。これを受け同年度中に組織のメンバーを増員し、翌20214月には先端技術挑戦は先端技術挑戦に、同時に「宇宙開発振興班」が新設されました。

 

発足して間もない「宇宙開発振興班」ですが、これまで次のような業務を行ってきました。


このように宇宙港の実現に向けた活動を始めとして、宇宙産業の振興のために幅広く活動する「宇宙開発振興班」ですが、立ち上げ当時の話を佐藤氏は次のように話します。

組織の立ち上げに際して、まずはどのような業務が必要になるのかを分解するところから始めました。そのうえで県庁内の人員を調整して発足させましたが、宇宙に関する知見を持ったメンバーは当初「0」人でした。全員が文系出身だったのです。

しかし、県職員としての他分野での業務経験を活かしつつも、宇宙に関する情報は専門家や民間企業に教えていただくことで、知見を徐々に蓄えながら現在の活動を進めることが出来ています。

SPACEPORT OITAの実現を目指して

大分県が実現を目指す、宇宙港「SPACEPORT OITA」について詳しく紹介します。

宇宙港は人工衛星や探査機・有人宇宙飛行のためのロケットを始めとした輸送機の発射場(又は着陸場も含む)を始めとした施設を指し、将来的には地球上のいかなる2地点も数時間内で移動を可能にする高速2地点間移動(P2P)の拠点として活用することも考えられています。

宇宙港は、大まかには垂直型宇宙港と水平型宇宙港に分類されます。垂直型宇宙港は従来型のロケットの発射を可能とし、北海道大樹町や和歌山県串本町で計画が進められています。一方で、専用に改修された航空機による水平型の打ち上げを可能とするのが水平型宇宙港です。アメリカ カリフォルニア州のMojave空港では、ボーイング747-400を改修した航空機(Cosmic Girl)の羽の下に釣り上げたロケット(Launcher One)を空中で発射する実験にも成功し、既に商業化も実現しています。さらに、イギリスのCornwall空港でも計画が進んでいる中、SPACEPORT OITAは、アジアでは初の水平型宇宙港の実現を目指しています。



2020年42日に大分県と米ヴァージン・オービット社によるパートナーシップが締結したことで、SPACEPORT OITAの計画が動き出しました。2021年1020日には、ANAHDと米ヴァージン・オービット社が人工衛星打ち上げ事業に係る基本合意書を締結し、2022年以降10年間で20回の打ち上げを目指すことが発表されました。

SPACEPORT OITAに関連したお話を佐藤氏に伺いました。

SPACEPORT OITAの実現に向けて大分県の強みは何でしょうか。

佐藤氏:大きく3つの強みがあると考えています。

1つ目は3,000m級の滑走路を持つ大分空港があることです。米ヴァージン・オービット社が運用する飛行機の離発着には3,000m級の滑走路が必要になります。

 

2つ目は長い歴史のある地域産業の存在です。石油コンビナート企業、自動車産業、精密機械産業等多様な産業が集積しています。宇宙港が実現した際には、ロケットの打ち上げに付随する様々な需要に応えることが出来ます。

 

3つ目が豊富な観光資源の存在です。打ち上げ時やそれ以外のタイミングにおいても、打ち上げ事業者である米ヴァージン・オービット社やそのクライアントを始めとした多くの関係者が大分を訪れることになることが予想されます。温泉を始めとした観光資源を活用することで、そのような方々におもてなしをすることが出来ます。

なによりこれらの強みを同時に保持していることが、何よりの強みだと考えています。

大分県の産業集積(大分県提供)

SPACEPORT OITAを通して実現したいことは何でしょうか。

佐藤氏:宇宙港を核としたエコシステム(経済循環)の構築です。

宇宙港が出来ることで、打ち上げに直接関わる産業の創出はもちろんのこと、大分県に来訪する打ち上げ事業者を始めた関係者や観覧客のための観光プログラムの創出、さらには宇宙に関連した新ビジネスの構築を目指したいと考えています。

 

このように単純に宇宙港を整備して、そこからロケットが打ち上げられて終わりではなく、大分県としての大きな経済循環を生み出すことを目指しています。そのためにも大分空港や宇宙開発に直接関わる企業だけでなく、多様な産業の企業に関わっていただきたいと考えています。

SPACEPORT OITAの実現に向けて苦労している点はありますか。

佐藤氏:まずは、このような試みが日本では初めてだということです。

日本では前例がないため、海外を含めた事例を調査の上、様々な検討や調整を進めています。

 

次に言語と専門性の壁です。海外の企業の担当者との調整はもちろん英語で、打ち合わせも原則オンラインで行うためコミュニケーションの難しさは感じます。さらに、宇宙という分野の専門性についても、難しさを感じることがあります。しかし専門的な知見については、専門家や民間企業の支援をいただくことで進めることが出来ています。

 

最後に、打ち上げに係る許認可についてです。大分県として保持している権限もありますが、ロケットの打ち上げや航空機の運用等の許認可は県には権限はなく、国にお願いするしかありません。これについては簡単な話ではありませんが、岸田首相への「地方からの『宇宙』への挑戦に係る要望・提言」は、この文脈の中で実施されたものと言えます。

宇宙に挑戦したい企業・自治体へ

今回は、大分県で宇宙産業の振興を目指す先端技術挑戦課 宇宙開発振興班の取り組みについて、同課長の佐藤元彦氏に伺ったお話を交えながら紹介しました。最後にこれから宇宙に挑戦したいと考えている企業・自治体へ向けてメッセージをいただきました。

 「宇宙」というとどうしても敷居が高いように思われがちですが、実は決して特別なものではないと考えています。陸や海、空、そして宇宙というようにあくまで場所の一つでしかありません。

 

まだ人類は宇宙へ歩みを進める最初の段階かもしれませんが、その分たくさんの可能性が秘められています。その可能性に対してこれまでそれぞれの企業で積み上げてきたノウハウを活かして何が出来るのかを考えて、ぜひ具現化してもらえたらと思います。

そこにはきっと思いもつかないようなビジネスチャンスがあるのではないかと考えています。



◆協力

大分県商工観光労働部 先端技術挑戦課 課長 佐藤元彦様

大分県商工観光労働部 先端技術挑戦課 宇宙開発振興班 主査 高野美衣様

 

◆用語

*1:MICE 企業等の会議(Meeting)、企業等の行う報奨・研修旅行(Incentive Travel)、国際機関・団体、学会等が行う国際会議(Convention)、展示会・見本市、イベント(Exhibition/Event)の頭文字をとり、多くの集客交流が見込まれるビジネスイベントなどの総称。ビジネス・イノベーションの機会の創造、地域への経済効果、国・都市の競争力向上等の観点から、国土交通省 観光庁でも地方自治体によるMICEの誘致・開催が推進されている。

《大分県》地方の課題を宇宙の技術で解決する 株式会社minsora -地方からの「宇宙」への挑戦 第3回 –



Hiroshi Kobayashi