世界各国、特色あるパビリオンが結集する2025年日本国際博覧会(略称:大阪・関西万博)。以前の記事でもお伝えしたように、宇宙に関する展示もさまざまなパビリオンで行われていますが、今日、2025年9月19日は「UAEの日」(アラブ首長国連邦の大阪・関西万博におけるナショナルデー)。
本記事では、同パビリオンの宇宙関連展示と日本との関係、そして万博後のレガシーをご紹介します。
目次
多文化共生の国・アラブ首長国連邦と宇宙との接点

皆さんは、アラブ首長国連邦(UAE)という国をご存知でしょうか。
中東を代表する経済の中心地・ドバイを含む7つの首長国で構成されるUAEは、人口約1,050万人、200以上の国籍の人々が暮らす多文化共生の国です。建国は1971年とまだ若い国ですが、石油に依存しない多角化経済を推進しており、現在、GDP(国内総生産)の70%を観光、航空、金融、テクノロジーなどの非石油分野が占めています。
UAEパビリオンでは、「大地から天空へ」をテーマに展示を展開。パビリオンの建築には、国の象徴であるナツメヤシが素材・モチーフとして活用されており、ナツメヤシの葉軸が束ねられた高さ最大16メートルもの柱が立ち並ぶ空間では、砂漠の中のやすらぎを感じることができます。
本パビリオンは「宇宙探査」「医療・健康」「サステナビリティ(持続可能性)」の3つが展示の柱。特に宇宙分野では、UAEが取り組んできたプロジェクトや未来に向けたビジョンが紹介されています。
砂漠の国から宇宙開発大国へ、UAE宇宙開発のあゆみ
UAEの宇宙への挑戦は、建国間もない1970年代にさかのぼります。「砂漠の国」のイメージが強いUAEですが、古来から真珠採取のための航海で天文学の知識を活かした航法を用いていた歴史があります。そんな同国では、1970年代にアポロミッションの関係者を招いて会議を開催。1997年には衛星通信事業を手がけるスラーヤ(Thuraya)社が設立され、砂漠地帯での狩猟などに衛星通信が活用されたといいます。
本格的な宇宙開発は2014年のUAE宇宙庁創設発表から始まり、地球観測、衛星通信、リモートセンシングなど数々のミッションが展開されました。2020年には建国50周年を迎える記念すべき年として、アラブ諸国初の火星探査ミッション「エミレーツ・マーズ・ミッション」が、日本の種子島宇宙センターからH-ⅡAロケットで打ち上げられました。このとき打ち上げられた探査機「HOPE Probe」には、中東の若者に希望を与えたいという願いが込められていました。
現在UAEの主な宇宙ミッションには、2028年打上げ予定の「エミレーツ小惑星帯探査ミッション」があり、日本の新たな基幹ロケット「H3」での打上げが計画されています。また、NASAが主導するアルテミス協定の創設メンバーとして、月周回ステーション「ゲートウェイ」で宇宙飛行士が宇宙船などとの出入りを行うエアロックの開発も担当しています。
官民一体で構築する、宇宙産業エコシステム
前述のように、1990年代には衛星企業が登場しているUAEですが、近年も注目企業が誕生しています。Yahsat、Bayanatという通信衛星・データ分析企業が合併して2024年に設立されたSpace42社は、UAEパビリオンの宇宙展示「宇宙探検家たち」の公式パートナーでもあります。衛星通信と地理空間分析、AIを統合したソリューションを提供する宇宙技術企業として注目を集めており、人工衛星の製造からデータの取得、分析、活用まで一貫して手がけることを掲げています。
また、Orbital Space社は宇宙教育や研究ネットワークの構築に特化しており、短期間のブートキャンプなどを通じて若者に実践的な宇宙技術教育を提供。キューブサット製作なども含む実習プログラムを通じ、次世代の宇宙人材育成を担っています。
さらに、UAE宇宙庁では「スペースエコシステム」プログラムを通じて宇宙企業向けの拠点を整備。優遇措置などを設けることで、世界中から宇宙企業や専門家を誘致しています。
官民が連携し、積極的にエコシステムの構築を進めている点も、UAEの宇宙産業の特徴です。
技術と人、それぞれがつなぐUAEと日本との絆
エミレーツ・マーズ・ミッションや、今後の小惑星帯探査ミッションの日本からの打上げにみられるUAEと日本の宇宙分野での協力関係は、単なる技術提携を超えた、人と人の深い絆に支えられています。
日本人として最長の宇宙滞在記録(504日)をもつ若田光一宇宙飛行士は、UAE宇宙庁諮問委員会のメンバー。そんな若田氏は、UAE初の国際宇宙ステーション(ISS)長期滞在宇宙飛行士で、現在は青年問題担当国務大臣も務めるスルタン・アル・ネヤディ閣下と大の親友で、2人は両国の宇宙協力の深さを示す象徴的な存在です。

パビリオンにも、UAEと日本の関係を感じさせる展示があります。
宇宙展示エリアには、クースと呼ばれる伝統的な技法でヤシの葉を編んで作られたH-ⅡAロケットのインスタレーションが。これはUAEの熟練職人が4カ月をかけて制作したもので、伝統を大切にしながら、宇宙への夢を叶えるというUAEのメッセージを体現しています。

宇宙分野で輝く、活躍する女性たちの姿
UAEの宇宙開発において、もう一つ見逃せないのが、女性の活躍です。
UAE宇宙飛行士プログラムには4名の宇宙飛行士が選ばれており、そのうちノラ・アル・マトロシ氏はUAE初の女性宇宙飛行士として、現在アメリカ航空宇宙局(NASA)で訓練を受けています。「手の届かない夢はない」という信念を語る彼女は、STEM分野を志す次世代女性の大きなロールモデルになるはずです。
また、ハーバード大学で計算宇宙論を研究するムーザ・アルムアラ博士も、各国の研究者と協力しながらUAEの宇宙探査に貢献しています。パビリオンでは、彼女らの肉声によるメッセージを聞くこともでき、宇宙領域でいきいきと活躍する女性の姿に勇気をもらえることでしょう。

人類共通の課題解決に向けて、次世代に残すレガシー
UAEパビリオンの宇宙展示では、次世代を生きる子どもたちが楽しく学ぶためのしかけも随所に見られます。
宇宙飛行士体験ゲームでは、プレイヤーはミッションの準備のためのアイテムを集めながら火星での生活や国際協力の重要性を学べるほか、宇宙飛行士になるためには科学を含めたさまざまな分野の知識が必要なこと、また自身の健康を維持する重要性なども学びます。
さらに、5月にはUAE宇宙飛行士が子どもたちと対話するイベントも行われました。本物の宇宙飛行士に会えることは、大人でも貴重な機会。子どもたちにとっては、ひときわ心に響く体験となったことでしょう。
UAEパビリオンの宇宙、医療、サステナビリティというテーマは、いずれも人類が直面する課題を解決するためのカギとなる要素です。本記事では宇宙の展示にフォーカスしてご紹介しましたが、人類への貢献に向けて挑戦するUAEの宇宙開発、そして日本との絆は、万博終了後もレガシーとして継続され、その価値を高めていくはずです。

パビリオン情報
パビリオン名称:UAEパビリオン「大地から天空へ」
場所:大阪・関西万博会場「エンパワーリングゾーン」内(日本館およびEXPOホール「シャインハット」近く)
一般公開時間:9:00〜21:00(最終入場20:30)まで
大阪・関西万博 UAEパビリオンについて、もっと詳しく知りたい方はこちらまで
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画像提供:UAEパビリオン