地理的優位性や、既存の産業分野で培われた技術などの強みを活かし、商業を主軸に官民で宇宙産業の振興を進めるオーストラリア。
在日オーストラリア大使館で宇宙分野を担当する、ダン・グラヴァー氏とレオ・ブレマニス氏へのインタビュー後編では、オーストラリア宇宙産業の振興を主導する宇宙庁・オーストラリア大使館商務部・オーストラリア貿易投資促進庁(以下、オーストレード)の役割と、日本との連携のあり方についてお聞きしました(前編はこちら)。
※本記事では、1豪ドル=110円で換算しています

(お2人の経歴は前編参照)
目次
オーストラリアの産官学をつなぐ、宇宙庁とオーストレード
オーストラリア宇宙庁は、政府・産業界・学術界を結集し、同国の宇宙セクターの発展を推進する政府機関です。
グラヴァー氏は、「宇宙庁の優先事項は、グローバル宇宙経済におけるオーストラリアの役割を強化することです。安全性とイノベーションのバランスを取りながら、宇宙ビジネスを健全に促進していくことが使命です」と説明します。
また、グラヴァー氏はオーストラリア自体がNASAやJAXAのような大規模な宇宙機関をもつことは現実的ではないとしたうえで、「オーストラリア企業がアルテミス計画や火星探査といった科学探査のサプライチェーンにも参画できるよう支援する方針をとっています」と、宇宙開発への参入支援を通して産業界のイノベーションを推進していると語ります。
具体的な施策として、宇宙庁は2021年以降約1億7,000万豪ドル(約190億円)を91件の研究開発プロジェクトを支援しており、対象分野は、月面資源探査、宇宙状況把握、自律航法、衛星開発など多岐にわたります。また、宇宙庁を所管する産業科学資源省は研究開発税制減免措置を通じて企業の研究開発費に応じた法人税減免を実施しており、イノベーション・エコシステムの強化を図っているということです。

また、オーストラリア宇宙庁には、初の正式にオーストラリアを代表する宇宙飛行士、Katherine Bennell-Pegg(キャサリン・ベネル・ペッグ)氏が所属しています。彼女は科学・技術・工学・数学(STEM)教育の推進への貢献が認められ、社会への貢献や優れた業績を残し、国民のロールモデルとなる人物を称えるオーストラリアで最も権威のある賞の一つ「オーストラリアン・オブ・ザ・イヤー」に2026年に選出されました。
そして、もう一つの重要な組織がオーストレードです。
オーストレードは貿易・対豪投資の促進を主な業務とするオーストラリアの政府機関と、ブレマニス氏は説明します。
「オーストレードは企業への貿易・投資支援サービスの提供や、オーストラリアの繁栄と国際ビジネスパートナーシップの拡大に向けた取り組みを行っています。このミッションのもと、オーストラリアへの観光誘致や留学プロモーションも行っています。オーストレードはオーストラリア宇宙庁と覚書を結んでおり、両者は緊密に協力する関係です」(ブレマニス氏)
半世紀にわたる日豪の関係、協力の分野は宇宙へも
日豪は貿易・投資の面でも強い結びつきがあります。日本は長年にわたりオーストラリアにとって第2位の輸出先であり、近年では対豪直接投資国として第1位となっています。
2026年は日豪友好協力基本条約署名50周年(参考記事)、また昨年は日豪科学技術協力協定締結45周年と、両国は長年にわたり協力関係を育んできました。そして、宇宙分野での日豪協力で象徴的なプロジェクトとして、2020年にJAXAの探査機「はやぶさ2」が小惑星リュウグウからのサンプルのオーストラリアへの帰還が挙げられます。
グラヴァー氏は、「コロナ禍中の移動規制が厳しい中でも、両国の科学者やエンジニアが緊密に協力した、同志国だからこそ実現できた大規模なプロジェクトでした」と振り返ります。
興味深いデータもあります。JAXAが日本の宇宙ビジネス事業者に対して行った調査では、関心のある国としてオーストラリアが2年連続で2位に選ばれています。
「はやぶさ2の成功で構築された政府機関及び研究者間の信頼関係深化や両国の宇宙産業の交流活性化が反映された結果だと考えています」(グラヴァー氏)
また、オーストラリアもNASA主導のアルテミス協定に参加しています。グラヴァー氏によると、産業コンソーシアムELO2が、アルテミス計画の一環として半自律型月面ローバーを開発中です。
「カンガルーにちなんで『Roo-ver(ルーバー)』と名付けられたこの月面ローバーは、宇宙探査における国際協力の重要な取り組みです」とグラヴァー氏は説明します。

Credit: オーストラリア宇宙庁 ウェブサイト
オーストラリアはNASAのMoon to Mars構想にも参画しており、ロボティクスや遠隔オペレーション、重要技術の開発に対して資金を提供しています。ここでも、鉱業分野で培われた技術力が活かされているということです。
日豪企業の間で進む、パートナーシップ構築
すでに日豪間では複数の商業パートナーシップが進行しています。
主な事例として、Gilmour Space(ギルモア・スペース)とSpace BDの衛星打上げサービスにおける協力(参考記事)、ギルモア・スペースと双日による協業、Inovor Technologies(イノバー・テクノロジーズ)とIHIと明星電気による海洋状況把握のための衛星技術協力、ANT61とSOMPOリスクマネジメントによる衛星リスク管理用ビーコンシステムの販売協力(参考記事)などが挙げられます。
また、オーストレードは2025年5月にオーストラリア宇宙庁と連携し、15社の宇宙企業による訪日ビジネス代表団を組織しました。ブレマニス氏によると、これはオーストラリアから日本への過去最大規模の宇宙関連のビジネス代表団で、来日中に日豪の企業間で110件以上のビジネスミーティングが実施されたといいます。

提供: 在日オーストラリア大使館
打上げ・帰還拠点としての活用とロボティクス分野での協業可能性
日本企業にとって、オーストラリアとの協業にはどのような可能性があるのでしょうか。
第一に、打上げ・帰還拠点としての活用です。複数の打上げ拠点をもつオーストラリアは、日本の宇宙スタートアップや衛星事業者にとって、技術実証・打上げサービスの選択肢となり得ます。透明性の高い規制環境も事業者にとっての利点といえるでしょう。
第二に、ロボティクス・遠隔オペレーション分野での協業です。鉱業で培われた自律型技術に強みをもつオーストラリア企業と、精密技術や品質管理に優れた日本企業の組み合わせは、月面探査や深宇宙探査の分野で相互補完的な関係を構築できる可能性があります。
第三に、地球観測データの共有・活用です。ブレマニス氏は、「オーストラリアには山火事、日本には地震や津波のリスクがあります。防災レジリエンスのための地球観測とそのデータ共有は、日豪それぞれの共通課題をふまえた重要な協力分野です」と指摘します。
将来の探査ミッションについて、グラヴァー氏は火星衛星探査計画MMX(Martian Moons eXploration)への期待を語ります。
「はやぶさ2の成功を礎に、サンプルリターンを含むMMXミッションに向けてオーストラリアが再び日本と協力できることを期待しています」(グラヴァー氏)
実際、オーストラリアのアルバニージー首相と当時の岸田首相は、2022年の会談において、MMXのカプセル帰還地として南オーストラリア州を使用することに原則合意しました。
現在、オーストラリアは着陸地の関連承認の取得に向けて日本と協力しており、JAXAとオーストラリアの産業界や学術界が連携してカプセル回収を支援できるよう、機会の提供を進めています。
世界の宇宙ビジネスにおいて存在感を増しつつあるオーストラリアは、日本の宇宙産業界にとっても重要なパートナーとなる存在です。長年にわたって築かれた信頼関係のもと、今後さらに連携・協業が拡大していくことが見込まれます。
最後に、グラヴァー氏は日本の企業関係者に向けてこうメッセージをくれました。
「在日オーストラリア大使館は、これからも産学官における宇宙分野の日豪連携をサポートしてまいります。いつでもお気軽にご相談ください」(グラヴァー氏)
日豪宇宙協力の次の展開に注目です。

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