スウェーデン発の宇宙企業SSC Space。打上げサービスから地上局ネットワーク、衛星・ロケットの運用管制まで一貫したサービスラインをもち、宇宙ミッションなどを通じて日本とも40年以上前から関係をもっています。
そんな同社は今年、日本法人を設立しました。日本拠点のカントリーマネージャーに就任したのは三井物産、Space BDなどを経てきた金澤誠氏です。
宇宙産業の人材育成や国際連携への問題意識を長年持ち続けてきた金澤氏に、SSC Space日本法人の設立意図や注力領域、そして宇宙ビジネス人材育成に対する考えを聞きました。

SSC Space カントリーマネージャー/アジア太平洋地域事業開発ディレクター
三井物産株式会社で環境エネルギー分野の新規事業開発、PwCアドバイザリー合同会社でM&Aアドバイザリー業務等を経験。2017年、宇宙スタートアップSpace BD株式会社に入社。事業開発マネージャーとして国際宇宙ステーション「きぼう」日本実験棟や国産ロケットの商業化を牽引。2020年より取締役COO就任。2023年に独立し、宇宙産業やディープテックスタートアップの人的基盤強化に資する取り組みに従事。2026年1月より現職。
一般社団法人SPACETIDEや公益財団法人 日本宇宙少年団(YAC)東京日本橋分団などでは、宇宙をテーマにした教育・人材育成活動に幅広く取り組んでいる。早稲田大学政治経済学部卒、シドニー工科大学MBA修了。
目次
宇宙ビジネスが広がる日本市場に本格参入 SSC Space、日本拠点設立の背景
欧州宇宙機関(ESA)の前身・欧州宇宙研究機構(ESRO)がスウェーデン北部のキルナ市に整備した射場が、1972年にスウェーデンに譲渡されたことを契機に設立された宇宙企業、SSC Space。
東京都の約2.5倍もの広さを誇る「エスレンジ宇宙センター」をもち、ロケット打上げ、地上局・衛星運用管制、バルーン(気球)ミッション支援、宇宙機器の地上試験など、多様なサービスを一貫して提供する企業です。
同社はSSC(Swedish Space Corporation:スウェーデン宇宙公社)として長く知られており、宇宙科学研究所(ISAS)の観測ロケット実験や、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の地球観測衛星「だいち4号(ALOS-4)」の運用支援などを通じて40年以上、日本の社会インフラや科学研究の推進にも貢献してきました。

提供:金澤誠氏
そんな同社は今年からSSC Spaceに社名を変更し、日本法人を設立。1月より同社カントリーマネージャーに就任したのが、金澤誠氏です。
金澤氏は、日本法人設立の背景をこう説明します。
「これまでSSC Spaceは、自社が保有する技術や資産を軸にその利用者を受け入れる、いわばプロダクトアウトのアプローチを行ってきました。しかし、日本の民間企業による宇宙ミッションは多角化し、変化が激しくなっています。加えて宇宙戦略基金の創設など国としての後押しも進む今、日本の宇宙事業者が抱える課題を丁寧に拾い、それにスピード感をもって応えていく必要があります。そのために拠点が必要と判断されたんです」(金澤氏)
豊富な宇宙技術を生かしつつも、市場の声に応じてサービスを組み立てるマーケットインへの転換が、日本拠点設立の大きな理由。金澤氏が日本拠点のカントリーマネージャーとして参画することを決断した背景には、SSC Spaceには長年の歴史で培われたアセットに加え、幅広いニーズに対応するサービスがあるからだといいます。
よりよい社会をつくるには、産業づくりが必要 「新産業創出」の思いを胸に宇宙業界へ
宇宙環境利用サービスや教育事業などを展開するSpace BD株式会社のCOO(最高事業責任者)を務めた経歴をもち、現在は宇宙ビジネスの発展に向けて業界横断的に活動する一般社団法人SPACETIDEで人材育成の取り組みにもかかわる金澤氏ですが、Space BD参画前は宇宙とはまったく別領域で働いていました。
そんな金澤氏が宇宙ビジネスの世界に踏み込んだのは、「新産業を創出したい」という思いが根底にあるからだといいます。

原体験の一つとして同氏が挙げるのは、大学時代にニューヨークの金融街でインターン勤務をした経験です。世界的な金融危機を引き起こしたリーマンショック直後の現地で目の当たりにしたのは、極端な社会格差でした。
「金融危機の直後とはいえ、金融街では若いビジネスパーソンが高級車を乗り回していました。一方で、少し離れたエリアでは救急車さえ呼べないほど貧困に苦しむ人々がいました。今ある産業の中で勝負しても、限られたパイを奪い合うゼロサムゲームになってしまう。人々の暮らしを豊かにするには、産業のエコシステム自体を新しく構築してビジネスをつくっていくことが必要なのではないかと考えたんです」(金澤氏)
そんな思いを抱えながら総合商社へ入社、海外MBA留学を経て外資系コンサルへ転職するなど、20代はさまざまな場所で新たな産業の創出を模索する時期だったと金澤氏は振り返ります。そして29歳のとき、Space BDの創業1号社員として宇宙業界に転身。
「商社時代の先輩だった永崎さん(現 Space BD代表取締役社長の永崎将利氏)から宇宙スタートアップ創業の構想を聞き、新産業をつくるという意味で、宇宙はとても面白そうな分野だと直感しました」(金澤氏)

提供:金澤誠氏
コンステレーション増加をふまえた地上局ニーズに対応 打上げ需要への対応や光通信への投資も
SSC Spaceが、当面の重点領域として位置づけるのが地上局サービスです。
「日本においてお問い合わせが特に多いのは地上局サービスです。まずこの領域でお客さまの課題を早期に解決できるよう、サービスを提供していきたいと考えています」(金澤氏)
衛星コンステレーション増加による地上局ニーズの急増を受け、SSC Spaceは同社が世界各地に設置した小型アンテナを活用した小型衛星向けの地上局ネットワークサービス「SSC Space Go」を、昨年11月に開始しています。

提供:SSC Space
また、日本の宇宙事業者の中で衛星打上げ需要が増加していることから、エスレンジ宇宙センターからの打上げ機会提供を進めたいといいます。現状、2028年以降に米Firefly Aerospaceのロケットがエスレンジ宇宙センターから軌道投入される予定で、欧州だけでなく日本企業へも宇宙へのアクセスを提供したいとします。
そして、今後に向けもう一つの柱として挙げるのが光通信です。
SSC Spaceはすでにチリと西オーストラリアに光通信用地上局を整備しており、今年中のサービスインを予定しています。光通信は従来の無線通信と比べ、高速・大容量・高セキュリティという特徴があります。
「現状、無線周波数の使用申請に非常に時間がかかる点が衛星ビジネスにおけるボトルネックになっている問題も、光通信なら解決できます。衛星光通信の普及は、今後、業界全体に大きなインパクトがあると見ており、会社としてこの領域へ投資を進めています」(金澤氏)

提供:金澤誠氏
日本市場の特性を大切にしながら、本国と日本の橋渡し役に
中長期のビジョンとして、金澤氏はSSC Spaceの日本拠点を単なる営業窓口にとどめず、オペレーション拠点の一つにしたいと語ります。
「これは個人的な思いですが、ゆくゆくは日本にオペレーションチームをつくりたいと思っています。地上局の設置や管制センターの開設も視野に入れながら、事業開発を進めていきたいと考えています」(金澤氏)
日本を含めて世界18カ所に拠点を構えるSSC Spaceとしても、「市場変化にアジャイルに対応する」という姿勢を打ち出している中、金澤氏は日本の宇宙エコシステムを取り巻く環境や課題を把握して本国にフィードバックする役割も担っていきたいと語ります。
「日本の宇宙産業はWinner takes all(勝者総取り)ではなく、ある種、同業であっても協調して物事を進めていく点が特徴なのかなと思っています。この文化的な側面を理解したうえで業界の皆さんとコミュニケーションを取ることが、日本市場で事業を進めるうえでのカギになると感じています」(金澤氏)
そのうえで、宇宙産業を持続可能なものにするには国際連携が不可欠、と強調します。
「一国だけで解決できない課題が多い宇宙産業においては、今後、国際連携がより重要になっていくはずです。SSC Spaceと日本の宇宙企業との協力関係において、少しでも多くそのロールモデルとなる案件を実現できるよう、橋渡し役として頑張りたいと考えています」(金澤氏)

人を育てることが、産業成長につながる 人材育成への取り組みに込める思い
「新産業創出」という大きなビジョンの下、SSC Spaceで新たな取り組みを始めた金澤氏が、ライフワークとして取り組むのが教育・人材育成です。
創業期のSpace BDで事業立ち上げと急激な事業成長を経験し、個社を越えて業界全体を見渡したときに教育・人材育成の重要性を痛感したという金澤氏は、SPACETIDEと日本宇宙少年団(YAC)東京日本橋分団で教育と人材育成の活動にも取り組んでいます。
SPACETIDEでは、他産業の人材を宇宙産業へ呼び込むための採用イベント「SPACETIDE Career Connect」(参考記事)と、宇宙企業への転職者が現場に定着するための「SPACETIDE Academy」(参考記事)を開催しており、そして慶應義塾大学とは、文部科学省の枠組みを活用した公開講座「宇宙ビジネス入門」を開講するなど、入口から現場定着までをカバーする体制を整えてきました。

「宇宙業界に入ってみたものの、『英語の略語が多くてわからない』『そもそも、軌道って何?』と戸惑われる方も少なくありません。他業界から参入した方が馴染むには、まず全体像とフレームワークをインストールし、会議についていける状態をつくることが大切だと実感しています」(金澤氏)
こうした場で生まれる横のつながりも重要な要素です。SPACETIDE Academyでは、異なる企業の参加者がともに学び、仲間になって帰っていく。そうして形成される現場レベルのネットワークが、将来の宇宙産業の土台になると金澤氏は考えています。
一方、日本宇宙少年団では小学生向けの教育活動にもかかわっています。
「人々が月や火星に当たり前に行くことになるであろう20年後、30年後の宇宙産業で働き盛りになるのは今の小学生たちです。宇宙が仕事の選択肢の一つになるということを小学生のうちに浸透させていくことは、将来の日本の強みになると思っています」(金澤氏)
いろいろなタイプの人に宇宙産業に入ってもらい、いろいろな言葉で宇宙を語ってもらうことですそ野が広がっていく、と金澤氏は話します。 宇宙ビジネスの推進と人材育成という両輪を回し、宇宙産業の今と未来をつくっていく。金澤氏の新たな挑戦は、始まったばかりです。
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