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宇宙ビジネス本格化のカギは「民需開拓」にあり VCが見る宇宙産業の現在地と将来

昨年に引き続き、盛り上がりを見せる宇宙ビジネス。

国内外でさまざまな取り組みが報じられ、ニュースに事欠かない状況になっていますが、日本の宇宙産業の現状は、ベンチャーキャピタリストの目にはどのように映っているのでしょうか。

日本の宇宙ビジネスは今どのような状況で、今後さらに成長していくためにはどのようなことが必要なのか。日本の上場宇宙スタートアップへの投資実績をもつ、水本尚宏氏に聞きました。


水本尚宏(みずもと・たかひろ)
ain 代表取締役パートナー
大和SMBCキャピタル(現 大和企業投資)にて、IT・医療などハイテク分野のベンチャー投資を経験した後、昭和シェル石油にて新サービス企画から市場導入までを主導。2017年からは東大IPCにてIT・サービス系ベンチャーへの投資、起業支援プログラムの管掌、アカデミア横断の起業支援プログラム1stRoundの創設、256億円のAOIファンドを立ち上げなどに携わる。2025年11月よりPE/VC融合型ベンチャーキャピタルであるain(アント・イノベーションズ株式会社)の代表取締役パートナーに就任。
専門領域はAI・データ・IoT、ロボティクス・自動化、宇宙・航空、モビリティ、防災・減災・レジリエンスで、宇宙領域ではSynspective、アストロスケール、アクセルスペースなどに投資を実行。京都大学大学院修了(技術経営学)、弁理士試験最終合格(2004年)。2025年 Forbes Japan「日本で最も影響力のあるキャピタリスト」第8位。第25回 Japan Venture Awardsベンチャーキャピタリスト奨励賞を受賞。

宇宙ビジネスの現在地 〜宇宙ビジネスは「儲かる」のか?

― 「宇宙戦略基金」第二期が始まるなど、政府による宇宙ビジネス支援が本格化しています。
以前から、「宇宙ビジネスは儲かるのか?」という問いがあったかと思いますが、ベンチャーキャピタリストの立場から、現状をどのように見ていますか。

水本 「儲かる」かどうかという点では、ベンチャーキャピタル(VC)と事業者では似て非なるものです。VCは投資先の上場時などに株が⾼値で売れればその時点で儲かりますが、事業者は事業で売上が上がり、コストが回収できてから儲かるので、両者の間にはタイムラグがあります。

要はVCは市場の期待値を取れればよいわけですが、事業者はその期待値が売上・利益として結実して初めて儲かるといえる状態になります。それゆえに、VCとしては宇宙のようにビジネスが確立していない新領域で、大きな先⾏者利益を獲得できる「ホワイトスペース」を取っていきたいという考えがあります。

― 「宇宙ビジネスが盛り上がっている」と言っても、投資なのか事業なのか、どちらの立場で言うかで異なるということですね。

水本 現在の⽇本の宇宙ビジネスは、研究開発段階のフェーズ1から、政府や⾏政の仕事を受ける(官需)フェーズ2に移行しているところだと見ています。フェーズ2は企業にとって、手堅いものの大きな利益が上がる領域ではないので、そういう点では、今は、事業者にとって宇宙ビジネスは大きく「儲かる」わけでありません。

ポイントとなるのは、民間を相手にしたビジネスが展開されるフェーズ3にいつ移行できるかです。例えば、Starlinkを提供するSpaceXはすでにフェーズ3にあるといえます。フェーズ3に進むためには、⺠間需要(民需)を開拓することが必要です。

SpaceXのビジネスの特筆すべき点は、Starlinkを開発したことです。多くの場合、お客さんに合わせてプロダクトをつくるという発想をしますが、これだと、プロダクトが採用されなければそれで終わってしまいます。

一方のSpaceXでは、自分たちの打ち上げサービスを使う民需を自分たちでつくってしまったわけです。これは、イーロン・マスク氏の莫大な資金力があってのことで、こういう動きが日本でできるかというとそれはまた別の議論になりますが、SpaceXはこうしてフェーズ3に移ったということです。

官需メインの「フェーズ2」と民需メインの「フェーズ3」、断絶を越えるには

― フェーズ2とフェーズ3の間には、かなりギャップがあるように思います。フェーズ3に移行するには、何が重要だと思いますか。

水本 確かに、フェーズ2と3の間には大きな断絶があります。

フェーズ2から3へのもう少し現実的な移行として一つあるのは、官需へ対応する際に原価アプローチからミッションアプローチへ世界観を変えていくという方法があるでしょう。これも、政府や行政側の調達ルールを変えなくてはいけないという意味では簡単ではないですが。

そして、もう一つが民間向けサービスをつくる、民需を生み出していくということです。

この点で、国内でまだ顕著な動きを感じているわけではないですが、衛星データを不動産業界向けSaaSで活用している「WHERE」(参考記事)のようなサービスが立ち上がってくると、民需が増え、結果的に衛星系の企業が収益を上げられるようになってきます。

これは衛星系の例ですが、「航空宇宙」と⼀括りにされるように、宇宙は航空領域と近しい産業構造をもっています。航空業界は今でこそ防衛と旅客の2本柱で成り立っていますが、防衛産業として急激に発展しました。今後の宇宙産業を考えたときも、官需を中心とした防衛領域と、それによって技術やコストが磨かれることで民需が発展し、最終的に民需と官需の両軸になっていくのではないかと考えています。航空産業が辿った歴史は、宇宙産業にも多くの部分で当てはまるのではないかと思って見ています。

― 国内では、ロケットに比べて衛星データ系のビジネスに取り組む企業が多いです。

水本 衛星データは、当面の間は国防領域での活⽤を中心に伸びていくと見ています。

また、⺠需領域では先ほどお話しした不動産領域での活⽤など、⼟地にリンクした投資から活⽤されていくのではないでしょうか。

例えばGPS衛星による位置情報などの地理空間情報を活用したビジネスは、これから伸びていくと思っています。より正確・網羅的で、リアルタイムな地理空間情報が取得できるようになれば、「見えるもの」が増え、予想の精度も上がりますから、それを活用したビジネスが増えます。リアルタイム性が上がれば、⾃動運転領域などでの活⽤増加も⾒込めます。

また、こうした衛星領域のニーズが増えれば、ロケットなどの宇宙輸送分野もどんどん伸びてくると予想できます。

衛星測位がより発達すれば、地理空間情報を活用した新たな民間サービスが生まれる可能性もあります

日本の宇宙スタートアップには「小粒」が多い? グローバルを見据えた需要の開拓を

― 投資の観点では、「⽇本の宇宙ビジネスにはお⾦がついている」と⾔われるようになった⼀⽅で、国内では「企業も投資家も、投入できる資金が少ない」という声も聞かれます。

水本 他領域のスタートアップに比べて、宇宙スタートアップにはだいぶ資⾦がついている状況だと言えると思います。

ですが、先ほどの「ホワイトスペース」の議論でいうと最近の宇宙系スタートアップは「⼩粒」な感じが否めません。

衛星本体から、衛星系の部材を扱うスタートアップなどバリューチェーンが広がっている感触がありますが、部品では海外企業に広く採用されていかないと、完成品である既存の衛星スタートアップのスケールを超えることはできません。一方で、成功すればリターンは⼤きいものの、研究開発に多⼤な費⽤・期間を要するようなハイリスク領域、例えばロケットや深宇宙などが空いている状況です。

宇宙スタートアップ、ひいては日本の宇宙産業が⼤きく成⻑するには、事業をグローバルに拡大していくことが必要で、資金も⽇本以外から調達できるようになることが重要です。

― そうした観点で、最近注目している企業や社会の動向はありますか。

水本 スカパーJSATからスピンアウトしたOrbital Lasers(参考記事)が、レーザーでデブリを除去するという、世界でも珍しい宇宙用高出力レーザーを軸とした事業展開を目指しているのは面白いですよね。

また、米国の自国第一主義を背景にした、欧州の「脱SpaceX」、Starlinkの欧州版をつくろうという動きも気になります。これは、国際情勢が不透明になっている中で日本は欧州や東南アジアなど、国という単位を越えたエリアで市場を⾒ていく必要があるということだとも言えます。

政治や技術の変化をチャンスとして捉え、大きく取れるところを探して狙っていく。自分たちで仕掛けて新しいニーズをつくる。中長期で成長していくためにはやらないとならないことだと思います。

宇宙×ディープテック、ポストISSの宇宙環境利用をVCとしてどう見るか

― 国際宇宙ステーション(ISS)退役後の存在である「⺠間宇宙ステーション」は、半導体製造や創薬研究などの研究開発(R&D)の場になると期待されています。衛星データ活用よりも民需開拓は先の分野だと思いますが、水本さんはどう見ていますか。

水本 この領域の日本の宇宙スタートアップでは、ElevationSpaceが存在感を発揮していると感じています。

宇宙ステーションはきわめて特殊なR&Dの場であり、そのニーズは今後も間違いなくありますが、創薬などで当たり前のように使われる場になるかというと、「実証成果待ち」の状態だと⾒ています。実際に結果が出る、ということになれば投資が集まり、さらに実践が進み、また資⾦がつく…という連鎖反応が起きていくでしょう。

本格的に何か新しいものが生まれたり、商業的に活用されたりするかというと、まだ様子見の段階だと思っています。

とはいえ、これは卵が先かニワトリが先かという話で、状況は変わるとも思っています。今進んでいる取り組みの中で連鎖反応を起こせるかどうか、重要な局面にあると感じます。

宇宙での創薬や半導体製造は、まだまだ実証の段階。産業応用はしばらく先になりそうですが、革新的な技術が生まれることが望まれます

― ほかのテクノロジーとのかけ合わせで宇宙ビジネスが拡大する可能性もあるかと思います。ディープテックを中心に、宇宙とのかけ合わせが有望なのはどんな分野だとお考えですか。

水本 まず、宇宙のような遠隔の場ではエネルギーをどう調達するかが課題になります。現時点では太陽光+蓄電が基本ですが、本格的な月面開発や深宇宙の開拓では原子力なども含めた電源技術の進展が重要です。核融合は長期的にゲームチェンジャーになり得ます。エネルギー問題が解決されれば、宇宙を何かの場として使う余地が広がりますし、ガンダムの世界だって実現するかもしれないですよね。

また、すでに連携が始まっていますが、AI技術と宇宙領域の融合は非常に有望だと思います。AIを活⽤し、衛星をはじめとしたいろいろなシステムを⾃動化することが進んでいくでしょう。今後、宇宙で稼働するシステムの台数は指数関数的に今後増えていき、システム同士の連携も必要になるでしょうから、AIを使った完全自動制御の重要度は増すはずです。

宇宙ビジネスを「ブーム」で終わらせないために

― 宇宙ビジネスは、ある種の「ブーム」にあると指摘されることもあります。ブームで終わらせないためには、どんなことが必要でしょうか。

水本 市場という面では、私が前職で投資した会社でもありますが、アストロスケールやSynspective、アクセルスペースなど、現在上場しているプレイヤーがしっかり売上と利益を上げて、市場の期待に応えていくことが重要です。

VCがスタートアップに投資を行う際には、すでに上場している同種企業のPER(株価収益率)を検討材料にしますから、上場している宇宙スタートアップのPERがどんどん上がっていってほしいというのがシンプルな思いです。

事業開発の面では、繰り返しになりますが、やはり民需をどう生み出していくかが重要です。

安定した官需による支えは当面必要だとは思うものの、さらなる成長は、その間に民需をつくっていけるかどうかにかかっていると考えています。 本格的な民需開拓には、少なくとも5〜10年以上はかかるものと⾒ています。でも、航空産業がそうであったように、いずれ必ず開拓されていくとも思っています。VCとして、事業者と⼀緒になってニーズを喚起したり、ニーズを⽣み出すための環境づくりにも取り組んでいくつもりです。

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