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「もし天」インタビュー|東北大学主催の高校生向け天文合宿の魅力とは

皆さんは「もし君が杜の都で天文学者になったら(以下、もし天)」というイベントをご存知でしょうか。東北大学が主催する「もし天」は、12人の高校生が集まって1週間合宿生活をしながら本物の天文学者と同じように研究を行う体験イベントで、今年(2022年)で12回目の開催となる長い歴史を誇ります。令和3年度の東北大学総長教育賞も受賞しています。

今回は「もし天」の魅力を探るべく、「もし天」運営の東北大学大学院理学研究科の服部誠(はっとり まこと)先生、板由房(いた よしふさ)先生にお話を伺いました。

「もし天」について

―本日はよろしくお願いいたします。まず、「もし天」の特徴について詳しくお聞かせください。

服部先生 受講生が「天文学者になって、仲間と協力して研究する1週間」を過ごせるというところが特徴です。「もし天」は6泊7日の合宿形式で行っていますが、我々のような本物の天文学者が日々行っている研究活動の内容が「もし天」の1週間にギュッと詰め込まれています。特に、受講生たちそれぞれが知りたい宇宙の謎を指針に研究課題を「自分で考え、実行する」ということを大事にしていて、与えられた正解を求める学校での勉強とは大きく異なります。

1週間のプログラムの具体的な流れとしては、このようになります。

  1. 3~4人程度のグループに分かれ、グループ内で議論しながら研究課題を設定する。
  2. グループの仲間と協力して観測提案書を作成する。
  3. 観測提案書審査会(本物の天文学者が厳しく審査)に合格する。合格するまで次に進めません。
  4. 仙台市天文台が持つ口径1.3メートルの「ひとみ望遠鏡」を用いて観測をする。
  5. 観測データを解析し、結果を考察する。
  6. グループの仲間と議論しながら研究を行う。
  7. 最終日に、研究成果を一般市民も交えた研究成果発表会でわかりやすくプレゼンする。

グループの仲間と議論する時間や、他グループに対して自分達の研究をプレゼンし、質疑応答する中で研究を洗練していく時間がたくさんあります。「納得できない」ことや「わからない」ことは全く恥ではないので、たくさん議論や質問をすることを奨励しています

全期間に渡って、Student Learning Adviserたち(以下、SLA:大学学部生・院生からなるサポーター)が解析や議論を手厚くサポートします。あくまでサポートなので、議論の主体は受講生たちになります。

板先生 難しいことを要求しているように聞こえるかもしれませんが、実際はそんなことは全然ありません。「もし天」の目的は、同じ目的を持つ仲間たちと議論したり、本物の設備を使って研究したりする「楽しさ」を知ってもらうことなので。ぜひぜひ気軽に「遊びに」来てほしいです。

「もし天」期間中の観測に使われる、仙台市天文台の「ひとみ望遠鏡」
Credit: 仙台市天文台

―「もし天」発足の背景やきっかけなどはありますか。

服部先生 国立天文台が、2001年から2009年までの間に「君が天文学者になる4日間(以下、君天)」を三鷹の天文台で実施していました。その「君天」にスタッフとして関わってきた田中幹人さん(現 法政大学 准教授)が2010年に東北大に赴任し、「ミニ君天」を東北大天文教室で実施してくださいました。当時何か独創的なアウトリーチ活動ができないか模索していた私は「ミニ君天」の実習にオブザーバーとして参加し、こんな形態のアウトリーチ活動があるのか、とその独創性に心を動かされました。田中氏に相談して、「君天」の東北大バージョンを2011年度から立ち上げることを決意し、こういう活動に興味がありそうな板さんも巻き込んで「もし天」を立ち上げました。

板先生 私が「もし天」に関わる理由は、受講生たちの若くて柔らかい頭から出てくる「なぜ?」や「どうして?」が物凄く面白くて、時にハッとして自分の研究にもつながりそうだからです。自分では解ったつもりでも、受講生たちに沢山質問されて「なぜ?」「どうして?」を禅問答のように繰り返していくうちに、根本的な所を自分が解っていなかったり、そもそもその問題が未解決だったりする事に気が付かされるのが面白いのです。

―コロナ対策で、直近2回の「もし天」は全日程Zoomによるオンライン形式での開催でしたよね。3年ぶりの対面開催となりますが、どのようなお気持ちでしょうか。

板先生 関係者や受講生の皆さんのご協力もあってオンラインでも円滑に進行できていましたが、対面での開催のほうがオンラインに比べて受講生同士や、SLAの先輩たちとの関係がより深いものになっていたように感じます。望遠鏡を自分たちの手で動かせることや、聴衆の顔や反応を見ながら研究成果発表をできることなど、対面での体験の方がより強く受講者の印象に残ると思います。そして何より、我々も受講生たちの顔を直接見られるのを楽しみにしています。

対面開催にあたってきちんと感染対策も行うので、安心して参加していただきたいです。

過去の「もし天」の様子。受講生が自分たちの手で望遠鏡を操作し、観測しています。
Credit: もしも君が杜の都で天文学者になったら

参加する高校生たちについて

―「もし天」を通じて、学生たちに伝えたい思いなどお伺いしてもよろしいでしょうか。

服部先生 好きなことに思いっきり打ち込むこと、また打ち込むことができることの尊さを改めて実感して欲しいです。ちょっと硬くなりますが、科学的根拠に基づいてクリティカル・シンキングができる、自立した人間になって欲しいとも思っています。

「もし天」では疑問を解消して納得できるまで質問や議論を重ねることを推奨しています。主体的に活躍できる人間になるためには、多角的な視点から自分や他者の意見を検討し、積極的に意見交換する精神を持つことが必要だと考えているからです。「もし天」では、大好きな宇宙の謎の解明に没頭する中で、自然にそのような精神の一端が養われると思います。SLAや教員もサポートするので、恥ずかしがらずにたくさん意見していってほしいです。

板先生 私は、「もし天」を通して「研究って超楽しい!」というのを実体験して知ってもらいたいと思っています。

私は「研究」が大好きなのですが、その一方で「勉強」が少々苦手に感じています。ですが、「研究」のためには「勉強」が必要不可欠です。教科書に書いてあること(=もう解っていること)を勉強して頭に入れておかないと、教科書に書いてないこと(=まだ誰も知らないこと)に気づけないし、気づいたとしても研究するためのツールが足りなくなってしまうからです。なので、私は努めて研究に必要な分だけ都度勉強するようにしています。でも、研究する「目的」があるから勉強することができます。勉強で得たツールをフル活用して未知の問題にチャレンジしていると少しずつパズルが解けていく感覚があって、心から研究が楽しめるのです。

「もし天」の中で、普段の「勉強」と「研究」との違いを実際に体験してもらい、これまで高校生の皆さんが勉強してきた中で得たツールを総動員して宇宙の問題に取り組んで、仲間と協力して少しずつ問題の核に近づいていく「研究」の面白さを味わってもらいたいなと思っています。

過去の「もし天」の様子。壁一面のホワイトシートにメモがびっしり書かれています。
Credit: もしも君が杜の都で天文学者になったら

―受講生や保護者からの反響はいかがでしょうか。

服部先生 「もし天」終了後も、同期はもちろん、歴代の参加者たちで連絡を取り合って会ったりしているようです。過去の「もし天」受講生が大学生や社会人となり、今度はSLAとして受講生をサポートする立場で「もし天」に戻ってきてくれています。保護者の方からも、「もし天」実施後にお手紙を頂いたりしており、好評を頂いていると思います。

板先生 普段学校や身の回りで宇宙への興味を共有できる相手が少ないと言う子も多いのですが、「もし天」の場で高い熱量で議論を交わすことで、一生ものの友人ができたと喜ぶ声も多いです。

三国志に「士別れて三日なれば刮目して相待すべし」という言葉がありますが、本当にその通りです。「もし天」は3日ではなく1週間ですが、興味を持って密度の高い学びを得た受講生たちはひと回りもふた回りも成長します。保護者の方々からも、少し見ない間に立派になったと喜ぶ声が届きます。

過去の「もし天」の様子。成果発表会当日は一般の人も来場し大盛況です。
Credit: もしも君が杜の都で天文学者になったら

宇宙業界の今後について

―宇宙ビジネスが加速する中で、「宇宙教育」に求められる役割についてお聞かせください。 また、どのような人材の育成を目指されていますでしょうか。

服部先生 「好きなことなら勉強することも苦でなく、時間を忘れて集中できる」ということを実体験で感じてもらう機会を、宇宙を題材に体験して欲しいです。

「宇宙教育」という言葉は既知の宇宙の姿を教育して教え込むという意味では無く、「宇宙を題材にして科学的根拠に基づいたクリティカル・シンキングを身につける機会を提供する」というものであって欲しいと考えています。それには、第一に楽しいものであることが必須ですし、宇宙は好奇心を掻き立てるには格好の場です。知識を与えるだけにとどまらない宇宙教育の発展に期待したいです。

板先生 宇宙が嫌いなんていう人は聞いたことが無いので、宇宙は万人受けするキーワードなのだろうと思っています。宇宙を入り口にして、自然の理や身の回りの不思議に興味を持つ人が今以上に増えると良いと思います。

また、「宇宙といえばロケットや探査機で、だったら工学部へ進学しなければ」といったイメージが先行し、視野を狭めてしまっている高校生が多い印象を受けます。私は以前JAXAで研究員をしていましたが、JAXAでは工学系の方だけでなく、様々な背景を持つ人々が協力していました。生物や植物が専門の方もおられたし、宇宙飛行士の向井千秋さんはお医者様ですし、NASAには宇宙のキレイな写真を作る画像処理の専門部署があると聞いた事もありますし、エトセトラ。宇宙に携わるにはココへ行ってコレをしないとダメ、なんてことは一切無いと思っています

大学の先生という立場にいる私は「あれをしろ、これをしろ」と言うのではなく、学生たちが自分の力で「知りたいこと」「やりたいこと」「好きなこと」を見つけられるようにお手伝いをしていくことを第一に考えています。

以上、東北大学大学院理学研究科の服部先生と板先生のインタビューでした。「もし天」は本物の天文学者と同じ設備を参加者が自分の手で運用し、宇宙を題材にした研究体験ができる貴重な機会を得られるイベントとなっています。皆さんも天文学者になりきった研究体験をしてみてはいかがでしょうか。

「もし君が杜の都で天文学者になったら(もし天)」詳細
・募集対象:全国の高等学校に在学する高校生、3年生までの高等専門学校生
・定員:12名
・参加費:10,000円
・期間:2022年12月23日(金)から12月29日(木) 6泊7日
・募集締切:2022年9月25日(日)23時59分59秒
・提出課題:作文
・ホームページ(外部リンク)
もし天2022公式ホームページ 
・応募フォーム(外部リンク)
もし天2022受講応募フォーム (google.com)

※2022年3月の地震の影響で、仙台市天文台の「ひとみ望遠鏡」は本来の性能を発揮できない状況です。万一「もし天」開催までに「ひとみ望遠鏡」の復旧が間に合わなかった場合、東北大学理学部が持つ直径50センチの屋上望遠鏡を使用する予定です。

〈画像左〉
服部 誠 Makoto Hattori
東北大学 大学院 理学研究科 天文学専攻 准教授

〈画像右〉
板 良房 Yoshifusa Ita
東北大学 大学院 理学研究科 天文学専攻 助教
2022年度「もし天」代表

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