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地域の課題を解決する宇宙ビジネスを官民一体で創出する ―豊橋市長・浅井由崇氏

2023年3月に市区町村単位で初めて「宇宙ビジネス創出推進自治体」に選定された豊橋市。
市をあげて宇宙産業の振興に取り組む背景にはどのような地域の歴史や課題があるのか。
地域における宇宙ビジネスのあり方を、浅井由崇市長に聞いた。

豊橋市・浅井由崇市長
浅井由崇 氏(あさい・よしたか)
豊橋市長

1962(昭和37)年、豊橋出身。早稲田大学政治経済学部卒業後、民間企業勤務を経て、2007(平成19)年に愛知県議会議員選挙当選。同県議を4期まで務めた後、2020(令和2)年に豊橋市長選挙当選。現在1期目。趣味は名建築や映画の鑑賞。

産学官連携の歴史の積み重ねがスタートアップ育成の土壌を育む

― 早くから宇宙ビジネスに注目し、取り組みを始めている豊橋市ですが、その背景をお聞かせください。

浅井市長 まずは2017(平成29)年度に、内閣府により「宇宙産業ビジョン2030」が策定されました。

そこで、衛星データが多くの産業の生産性向上や競争力強化に貢献することが期待されるほか、衛星データの利用拠点整備は地方創生にも貢献することが示されました。
豊橋市においては、2019(平成31)年度から、衛星データの利活用による地域課題の解決や新たなビジネスのニーズ、事業化の可能性を探るべく、衛星データ利活用促進に関する取り組みに着手しました。

― 「宇宙ビジネス創出推進自治体(S-NET)」に選定された要因は何だとお考えでしょうか。

浅井市長 豊橋市が持つ2つの素地が関係していると考えています。
一つは、長年にわたり産学官連携に取り組んできた地域だということです。遡れば、50年ほども前から産学官が連携して地域づくりを行う東三河懇話会が続いており、産学官連携の文化風土が根付いています。1990(平成2)年度には、豊橋市や愛知県、民間企業等が株式会社サイエンス・クリエイトを設立しました。同社は豊橋技術科学大学をはじめとした大学・研究機関と地域企業とを結び、新技術開発や新産業創出支援を理念の一つとして、産学官連携のハブの役割を担い、若者や企業が相談に訪れる拠点となっています。成果の一例として、2022(令和4)年度は産学共同研究により市内6社が新しい技術をベースとした試作品を開発しました。

株式会社サイエンス・クリエイトと大学、市内事業者が密に連携し、コミュニティを形成してきた歴史は豊橋市として誇れるものだと思っています。

株式会社サイエンス・クリエイトが運営する「豊橋サイエンスコア」(上)。
施設内のコーワーキングスペース「Startup Garage(スタートアップガレージ)」(下)には
起業家や新事業創出に挑戦する地域事業者が集う

浅井市長 もう一つは、スタートアップ支援ネットワークの存在です。愛知県が2024(令和6)年10月の開業を目指して名古屋市に日本最大のスタートアップ支援拠点「STATION Ai」の整備を進めています。愛知県は当施設を中心に国際的なイノベーション創出拠点の形成を図り、県内全域にわたるスタートアップ・エコシステムの形成を目指しています。さらに、豊橋市が位置する東三河地域では、武蔵精密工業株式会社による「MUSASHi Innovation Lab CLUE(ムサシイノベーションラボクルー)」、サーラグループの「emCAMPUS STUDIO(エムキャンパススタジオ)」、株式会社サイエンス・クリエイトの「Startup Garage(スタートアップガレージ)」と、3つのスタートアップ支援拠点があります。この3拠点を含む産学官8団体で、2021(令和3)年に「東三河スタートアップ推進協議会」を発足させ、STATION Aiのパートナー拠点第1号となりました。

豊橋市では、地域外スタートアップの呼び込み、実証実験のサポートなどを行っていますが、農業が盛んな豊橋市では東京や名古屋ではできない実証ができます。また、新規事業として、昨年度からアグリテックコンテストを開催しています。地域の農業課題の解決策を全国の企業から募り、コンテストで入賞したスタートアップ企業と地元農家による共創プロジェクトが複数走り出しています。今年度も開催に向けて取り組みを進めているところです。
こうした素地があったからこそ衛星データ利活用促進の取り組みが進み、それが評価されたのだと考えています。

ユーザーへのインタビューで製品の課題を深堀

農業に、防災に、まちづくりに… 地域発・衛星データ活用のアイデア

― 衛星データ利活用の促進支援について、具体的な取り組みをお教えください。

浅井市長 一つは、相談窓口「宙サポ(そらさぽ)」の設置です。市町村単位では珍しいことですが、株式会社サイエンス・クリエイトに常駐する宇宙ビジネスコーディネーターが相談を受ける体制をとっています。これは大変好評をいただいており、昨年度の相談件数はのべ133件で、かなり多くのご相談をいただきました。

宇宙ビジネス相談窓口「宙サポ」では、宇宙ビジネスコーディネーター(勝間氏)が
相談対応を行う。衛星データに触れたことがない事業者からの相談も多い

浅井市長 

もう一つは、利活用の促進支援として、市内の事業者が衛星データを活用した製品・サービスの実証実験を行う際に使うことのできる補助金を用意したことです。これにより、市内事業者の衛星データを活用した製品やサービスの開発に大きく寄与しました。
具体例として、株式会社マップクエストによる、空き駐車場の有効活用サービスの開発のための実証や、シンフォニアテクノロジー株式会社による、みちびきを用いた果樹園でのロボット台車の実証などが行われており、このほかにも農業と衛星データを掛け合わせた実証実験が多数あります。

シンフォニアテクノロジー株式会社の実証実験。
農家と一緒に柿畑にてロボット台車の動きを検証する

浅井市長 豊橋市はかつて農業生産額日本一だったこともある農業分野に強い自治体で、スマート農業も積極的に進めていますから、衛星データなどの先進領域に取り組みやすく、新しいことに挑戦するチャレンジングな農家さんもたくさんいらっしゃいます。
なお、今年度から新たに、宇宙関連技術の事業化可能性調査を支援する補助金も用意しました。市外事業者も、市内事業者と連携した取り組み等の要件を満たせば申請可能ですので是非ご活用いただきたいと思います。

― 衛星データは防災やまちづくりにも活かせると思いますが、この点ではどのようにお考えでしょうか。

浅井市長 防災やまちづくり等、行政での衛星データ利活用のポテンシャルは大きいと考えています。衛星データは地域をマクロに把握できるという利点があり、活用方法について新しい発見もまだまだある領域だと思っています。

豊橋市を含む東三河地域には豊川という河川があります。急峻なために雨が降ると一気に流れが増すという特徴があり、大雨が降ると水害になり、降らないと渇水になるという悩みがあります。その水がめである宇連ダムの貯水量も大きく左右されるのですが、2019(令和元)年度には、宇連ダムの枯渇という大きな問題が起きました。そこで、株式会社サイエンス・クリエイトが衛星画像を用いて渇水状況を可視化し、ホームページに掲載し、市民にわかりやすく節水を呼び掛けることができました。

また、サグリ株式会社は耕作放棄地の、GREEN OFFSHORE株式会社及び株式会社TOWINGは耕作放棄ビニールハウスの地図上での可視化実証に取り組みました。また、株式会社Archedaは、CO2吸収量を可視化してカーボンクレジットの算出根拠を示す実証を行うなど、衛星データを活用したまちづくりにつながる様々な取り組みが市内で実施されています。

宇宙ビジネスに携わる人材育成にどう取り組むか

― 宇宙ビジネスを発展させるためには人材育成も重要ですが、どのような取り組みをされていますか。

浅井市長 社会全体で言われているDXやスマートシティ化もそうですが、これを担う人材の育成は大きな課題です。組織の中の人材に知識やスキルがあることが重要で、本市でも職員のデジタル教育などを進めています。

宇宙ビジネスに関しては、これまで、専門講師による市内事業者や市職員向けセミナーを開催したほか、異分野の参加者がアイデアを出し合ってビジネスモデルを作るイベントも実施してきました。

現状の課題は、宇宙関連技術の知識不足です。宇宙関連技術からヒントを得ることで地域事業者のビジネスが発展する可能性がありますが、地域の事業者がもっている技術や課題に紐づけて考えることができる人材が不足しています。
今回S-NETに選定されたことによる支援策を活用して、今後は地域事業者の皆さんに衛星データや宇宙ビジネスに慣れ親しんでいただく講座等の検討をしています。また、すでに多くの相談をいただいている「宙サポ」の窓口についても、より気軽に相談できる雰囲気づくりをすることで人材の育成につなげたいと考えています。

豊橋市はコンパクトな規模の自治体ですが、オンリーワンの技術をもっているなど優れた中小企業が多くあります。これをより活かすためにリスキリングなども進めていきたいと考えています。

官民の壁を越え、地域一帯で新産業を育てる

― すでに市外の企業とも多く連携している豊橋市ですが、宇宙ビジネスに関心をもつ全国の企業に向けてメッセージをお願いします。

浅井市長 インフラ整備や広域連携など、気を配らなければならないことはたくさんありますが、私が市政の基本に考えていることの一つが「人づくり」です。近年、豊橋は子育てや教育で評価をいただくようになってきましたが、産業人材の育成も重要だと考えています。S-NET選出を機に、宇宙関連技術を利活用できる人材育成にもさらに注力し、市内事業者の皆さんの新事業創出を支える人材を育てたいと思っています。

発展途上の宇宙ビジネスでは実証などが必要ですが、豊橋市には、そのためのフィールドや相談ができる宙サポがあります。費用面の支援や協力者とのマッチングなど、地域全体で応援させていただきたいと思っています。重要なのは部局や組織などの壁を越えた協力です。官民一体となって産業を盛り上げていきたいと考えています。

衛星データ利活用を活用したまちづくりについてお話しいただいた浅井市長。
地域がもつ強みを活用、新たなチャレンジを支える市でありたいと語る

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