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地球の課題解決を加速する、社会インフラになる小型衛星 ―株式会社アクセルスペース

宇宙利活用ビジネスの中でさまざまな可能性が示されている「衛星データ活用」。
日本の小型衛星ビジネスのパイオニアであるアクセルスペース代表の中村友哉氏に、
データ活用による課題解決とサステナビリティ、さらに宇宙産業発展の課題を聞いた。

中村友哉 氏(なかむら・ゆうや)
株式会社アクセルスペース 代表取締役CEO

2007年、東京大学大学院工学系研究科 航空宇宙工学専攻 博士課程修了。在学中、世界初の大学生手作り超小型衛星「CubeSat(キューブサット)」を含む3機の超小型衛星の開発に携わる。卒業後、同専攻での特任研究員を経て2008年にアクセルスペースを設立、代表取締役に就任。2015年より内閣府宇宙政策委員会部会委員を歴任。2022年、第22回Japan Venture Awardsにて最高賞である経済産業大臣賞を受賞。

コストと性能のバランスがよい小型衛星へのニーズが急増

「宇宙を普通の場所に」をビジョンに掲げ、小型衛星群(衛星コンステレーション)による地球観測データを提供する『AxelGlobe』と、小型衛星の開発から運用までをパッケージ化して提供する『AxelLiner』、2つのソリューションを展開するアクセルスペース。

設立は2008年、日本での宇宙ベンチャー最先発組の1社であり、代表の中村友哉氏は東京大学大学院在学中に自ら超小型衛星開発に取り組んできた研究者でもある。

長年、超小型・小型衛星開発と宇宙ビジネスの現場を見てきた中村氏は、現在の小型衛星ビジネスを取り巻く状況について、こう語る。

「以前であれば大型衛星でしか実現できなかったミッションが、100kg、200kg級という小型衛星で可能になってきました。背景には、技術の進歩やコストの低下に加え、行政・民間問わず、小型衛星を使ってやりたいことを実現できないかと考える方が急速に増えているということがあります。キューブサットによる面白いミッションもいろいろあるのですが、小さすぎて十分な機能を乗せるのが難しいケースも出てきています。もう少し複雑なことをしたいというニーズに対し、100kg、200kg級の衛星がスイートスポットになりつつあります」

小型衛星の開発から運用までをパッケージ化して提供する『AxelLiner』。
同社は2023年7月に「ユーザーエクスペリエンス」の観点で
ビジネスデザインから運用まで、プロダクトライフサイクル
全体をパッケージ化した『AxelLinerTerminal』のデモを
初公開したばかりだ
Credit: アクセルスペース

衛星データ活用は、ビジネスにおける「ふりかけ」?

観測衛星が取得する地表面のデータは広範囲をカバーでき、また近年は画像の解像度も向上、かなり精密な状況が把握できるようになっている。

実際、アクセルスペースの地球観測プラットフォーム『AxelGlobe』は、スマート農業・森林や防災、インフラ管理、さらには環境モニタリングまで幅広く活用されている。

アクセルスペースの衛星画像サービス「AxelGlobe」で提供される画像
Credit: アクセルスペース

また、国など公的機関が取得した衛星画像はオープンデータ化されているものもあり、衛星データ活用は、宇宙ビジネス参入の糸口にしやすい領域でもある。しかし、衛星データをどう使えばビジネスになるのか? とハードルを感じる方もいるだろう。

そんな問いかけに対し、中村氏は「『衛星画像を使う』という点から入ると、それ自体が目的となってしまうおそれがあります。それよりも、まず課題があり、それに対するソリューションとして衛星データが使えないか、という考え方が大切です。『衛星画像をどう使うか』と思うと、どうしても衛星の方に意識が向いてしまい、本来自分たちが一番得意な分野の知識や経験が全く生かされません。新しいものをつくるときには、まず課題から入るということが非常に重要になると考えています」と答える。

そして、「最近よく言うのですが、宇宙を『ふりかけ』だと思う方がいいんです。まず自分たちのビジネスがあり、そこに衛星データというふりかけをかければ美味しくなる、もっと推進できるという感覚で取り組むのがいいのではないかと思っています」と続ける。

地上の課題を解決する衛星データ活用、途上国展開も視野に

中村氏自身は、「我々は宇宙ベンチャーである」という認識をあまりもっていないという。それは、衛星を宇宙に打ち上げている会社ではあっても、その衛星がモニタリングしているのは地球であり、ビジネスの対象は地球とそこで暮らす人のためという考えがあるからだ。

衛星を用いた地上の課題解決という観点で中村氏が注目するのは、東南アジアをはじめとした新興国・発展途上国だ。

「衛星データは、先進国よりも発展途上国の方が活用シーンは広いと思います。これらの国々に、衛星データを使うことでこんな課題解決ができる、と議論しながら一緒にソリューションをつくっていきたいと考えています。大切なのは、モノを売りつけに行くのではなく、現地の人たちを巻き込み、地域ごとに違うニーズや課題からソリューションを一緒につくっていくこと。そうすれば現地の産業の発展にもつながりますし、私たちもデータ利用が増えればwin-winです。こうした点に関心をもつ国は多くあるので、今後はそういう進め方をしていきたいと考えています」

宇宙のサステナビリティ、ルールメイクを仕掛ける側に回る

もう一つ、アクセルスペースの特徴的なスタンスといえるのがサステナビリティ(持続可能性)の重視だ。

同社は2023年6月、宇宙ビジネスとサステナビリティ(持続可能性)の両立を目指し、衛星のライフサイクル全般をカバーするガイドライン『Green Spacecraft Standard 1.0』を発表した(参考記事)。

米欧のルールや制度に対応しながら、各国政府や国際機関のガイドラインより高い基準を設定した野心的な内容だ。

「現状、宇宙のサステナビリティというとデブリ(宇宙ごみ)の話に終始しがちですが、本当にサステナビリティを考えるのであれば、製造時や輸送時、打ち上げ、さらには運用時も含めて、すべきことはたくさんあります。でも、それがトータルとして論じられる場はほとんどありません。ですが、これは私たちが将来にわたって事業活動を継続できるかどうかに関わる大きなイシューだと認識しています。だったら早くから取り組んだ方がいい。つまり、いずれ規制ができるのであれば、私たちはルールをつくる側に回るということです。まずは自社基準としてですが、これを業界の標準にしていくという活動は、時間がかかってもしなければいけないと思っているところです」

今求められる事業に加え、将来に向けアクションを起こしている同社。その根底には、衛星製造や衛星データを社会インフラにするという中村氏の思いがある。

今まさに発展の途上にある宇宙産業の中で、持続可能性にフォーカスして
アクションを起こしている点もアクセルスペースの特徴だ(イメージ画像)

日本の宇宙産業拡大のカギは、エコシステムの構築

今後、日本の宇宙産業をより発展させるためには何が課題となるのだろうか。

中村氏は、日本の制度はスタートアップをはじめとした企業活動も考慮に入れられており、これが事業の障害となるようなことはあまりないだろうと言う。その一方で課題としてあげるのは、「打ち上げ回数をどう増やすか」だ。

「現時点で日本はロケットの打ち上げ回数が圧倒的に少なく、小型衛星に関してはほとんどSpaceX一択という状況です。より多くのロケット領域のプレイヤーが出てきて、技術力や価格、サービス内容などで競っていかなければ価格は下がりませんし、結果的に衛星ビジネスの普及が遅れることにもなります。これは業界全体の課題で、定期的に打ち上げができる環境を世界的に整えていく必要があると考えています」

そのうえで、前述の『グリーン』『サステナビリティ』が打ち上げビジネスでも重要になると指摘する。

「打ち上げの選択肢が増えれば、おそらく環境負荷の少なさを売りにするサービスも出てくるはずです。『Green Spacecraft Standard』には打ち上げを入れていませんが、これは私たちがコントロールできないという点と、現状ではロケット事業者が少なすぎて、こうしたことが差別化要素にならないからです。ですが、今後間違いなくグリーンロケットのようなコンセプトを打ち出す企業も出てくると思っています」

中村氏は、自社で打ち上げビジネスに取り組むことは考えていないとするが、打ち上げ回数の増加に向けて日本の事業者に頑張ってほしいと語る。国内から打ち上げができれば、費用や事務作業の面で大きなコスト減となるからだ。

「衛星をいったん海外に輸出しなければならないというのは大変です。小型衛星であれば打ち上げまで日本で完結できる状態にしたい。そうすれば、衛星データの利用ニーズのある海外諸国を巻き込んで、宇宙利用のグローバルエコシステムを日本に作れます。それこそが、日本の実現すべきことだと考えています」

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