イプシロン5号機打上げ「機体の紹介」

JAXAは10月1日、イプシロンロケット5号機の打上げを中止しました。中止の原因は、ロケットを追跡するレーダーのケーブルに緩みが生じ、時刻データに異常が発生したためとしました。前回までの記事では、イプシロンロケットの発射場である内之浦についてご紹介しました。今回は、ロケット本体についてご紹介します。

 

基本情報

イプシロンロケットは全長約26m、質量約95tの使い捨て型固体燃料ロケットです。基本は3段式ですが、ミッションに合わせて4段目を追加することができます。2013年の試験機以降4機が打ち上げられ、全ての打上げに成功しています。


イプシロン試験機の打上げ Credit:JAXA


伝統と革新

イプシロンロケットの特徴は、伝統を継承しつつも革新的である点です。試験機では、先代ロケット「M-V」の3・4段目を改良したものを2・3段目として、「H-IIA」の補助ロケットを1段目として使用しました。さらに、「H-IIA」と電子機器・部品を共通化させるなど、既存のロケット技術を引き継ぐことで、費用を抑えながら短期間で開発することに成功しました。このように伝統を引き継ぐ一方、イプシロンでは革新的な仕組みも導入されました。それは、「モバイル管制」と呼ばれるシステムです。これまでのロケットは点検に多くの装置を必要とし、それをチェックする人手も必要であったため、大変な時間と手間がかかっていました。しかし、イプシロンでは小型の計算機と人工知能を使った自動点検装置を開発し、ロケットの点検・打上げを効率的に、遠隔から行うことを可能としました。これにより、パソコン1台で、世界中どこからでもロケットを打ち上げられるようになりました。実際は安全性の問題から複数台のパソコンで管制を行いますが、それでも8名での管制を実現しています。


コンパクトな管制室 Credit:JAXA


進化を続けるイプシロン

このように試験機で大きな革新を成し遂げたイプシロンですが、2号機以降も改良に取り組んでいます。2号機以降のイプシロンは「強化型」と呼ばれ、2段目と人工衛星を収納する「フェアリング」の大型化による性能向上が図られています。他にも搭載機器や構造の軽量化、衛星分離時の衝撃緩和を実現しており、4号機の打上げ後には「どのロケットよりもよい環境」であるという意見も寄せられました。2020年3月には「イプシロンSロケット」プロジェクトが発足しており、新型ロケット「H3」との相乗効果や民間移管による国際競争力の強化が期待されています。

 

今回は、打上げ間近のイプシロンロケットについてご紹介しました。イプシロンが今後どのような進化をしていくのか、注目です。


SPACEMedia編集部