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衛星コンステレーションによる天体観測への影響-宇宙開発と天文学の共存のために-

近年、宇宙開発における民間企業の参入が活発になる中で、人工衛星開発に大きな変化が訪れています。それが『衛星コンステレーション』の広がりです。しかし、衛星コンステレーションの普及に伴い、地上からの天体観測への影響が懸念されています。

 

今回は、衛星コンステレーションによる天体観測への影響について紹介します。

 

■目次

(1) 『衛星コンステレーション』とは

(2) 衛星フレアが与える、天文への影響

(3) 衛星フレアの実例、イリジウム

(4) 宇宙開発と天文の共存のために

 

1.『衛星コンステレーション』とは

『衛星コンステレーション』は共通の規格を持つ複数の人工衛星が協調し構築する、一つの巨大なシステムのことを言います。『コンステレーション(constellation)』とは、英語で星座を意味し、星座を形作る沢山の星のように一度に沢山の人工衛星が空に上がることからそう呼ばれています。

 

この衛星コンステレーションは一つ一つの人工衛星を小型にすることで、一回のロケット打上げで複数の人工衛星を打ち上げることが可能です。この特性を利用して大量の人工衛星を打ち上げれば、低い高度でも、今まで使用されていた静止軌道衛星よりも多くの地域をカバーすることができます。

 

そんな衛星コンステレーションですが、低い軌道の方が地上との距離が短いため、通信衛星では通信サービスが高速・低遅延に、地球観測衛星では高精度の画像を取得しやすくなります。そのため、特に低い高度(軌道)で構築される『低軌道衛星コンステレーション』は、高軌道に比べて人工衛星の打ち上げが容易なことも相まって、宇宙開発を行う多くの民間企業がその実現に向けて動いています。

SpaceX社の『Starlink』は、一度に60機の衛星を打ち上げ、最終的にその数は4万2000機に達するという、巨大な低軌道通信衛星コンステレーションです。地球上のほぼ全地域からインターネットアクセスを行えるようにすることを目的としており、既に多くのStarlink衛星が低軌道上に打ち上げられています。

こうした巨大な衛星コンステレーションは『メガコンステレーション』と呼ばれ、SpaceX社だけではなく、Amazon社やOneWeb社などもメガコンステレーション計画を発表しています。



ロケットから分離される前の、60機のStarlink衛星(Credit:Official SpaceX Photos

2.衛星フレアが与える、天文への影響

近年広がりを見せるメガコンステレーションは、従来の人工衛星の方式では達成できなかった、全世界全地域をカバーする衛星サービスを提供できる一方で、大きな問題もあります。その一つが、天体観測への影響です。



望遠鏡に映りこむStarlink衛星の飛跡(Credit:国立天文台


上の画像は、国立天文台が発表した、石垣島天文台のむりかぶし望遠鏡が捉えた画像です。左下から右上にかけて見える白い直線は、Starlink衛星の飛跡が望遠鏡に映りこんだもので、実際には白い点がまるでUFOが動いているかのようにスライド移動して見えます。低軌道に大量に存在する衛星コンステレーションを構成する人工衛星は、このように天文台の望遠鏡に映り込み、天体観測の障害になる可能性が高くなるのです。

人工衛星は発電のための太陽電池パネルや通信用のアンテナを搭載しています。搭載されているこれら金属製のパーツは太陽光を反射してしまう性質があり、その光が地上からも見えることで天体観測にも影響を与えてしまいます。これを『衛星フレア』といい、衛星コンステレーションによる問題点の一つとして大きく取り上げられています。

 

この衛星フレアは、人工の光が与える様々な悪影響、光害(こうがい、ひかりがい)の一つとして注目され、国立天文台は懸念表明を行っています。

 

光害とは -国立天文台-

 

 

3.衛星フレアの実例、イリジウム

かつて衛星フレアが地上から見えていた衛星コンステレーションの一つとして、『イリジウム衛星』がありました。イリジウム衛星の第1世代機は全部で66機打ち上げられ、それぞれ反射率の高い金属製の平面アンテナを装備していたことから、太陽光が反射して地上からも明るく輝いて見える『イリジウムフレア』が発生していました。

イリジウムフレアの閃光

イリジウム衛星の姿勢はほとんど決まっているため、イリジウムフレアがいつ・どこで見えるかどうかは正確に予測することができ、都会でも見ることのできる天体現象の一つとして、一部の天文ファンからも親しまれた現象でした。

しかし、イリジウムフレアはStarlinkの衛星フレアと同じく、天体観測の際に映りこんでしまう”光害” でもあり、イリジウム衛星が展開し始めた1990年代後半から一部の天文関係者の間では懸念が広がっていました。数はStarlinkよりも遥かに少なかったために衛星数が万単位のメガコンステレーションほど問題視されていなかったものの、衛星コンステレーションによって発生する衛星フレアが天文に与える影響が認知された最初の事例でした。

現在、イリジウムは第2世代機のイリジウムNEXT衛星に変わりましたが、通信アンテナ技術の進歩もあり、現在は太陽光を強く反射するようなアンテナは装備されなくなりました。そのため現在は、以前のようなイリジウムフレアが見られることはなくなっています。イリジウムは、天体観測において障害となる衛星フレアを技術の発展や開発側の努力によってその発生を抑えて解決した事例となったのです。

 

イリジウムフレアが見えていた当初、衛星フレアは一部で親しまれていた現象とは言え、今後いくつものメガコンステレーションが宇宙に構築されるとなると、その分衛星フレアによる光害の影響は無視できないほどに大きくなってきます。今後のメガコンステレーション構築においては、イリジウムのような過去の事例を学び、いかに他への悪影響を少なくして衛星を運用できるかどうかが重要になってきます。

 

 

4.宇宙開発と天文の共存のために

現在広がりを見せるメガコンステレーションが引き起こす衛星フレアは、天文に関わる人々にとっては深刻な問題であり、宇宙開発と天文の共存に大きな影響を与えかねません。宇宙望遠鏡に代表されるように、これまでも宇宙開発と天文学は同じ宇宙を舞台とし双方の協力によって大きな科学的成果を生み出してきました。両者の対立は天文宇宙業界全体から見ても好ましいものではなく、衛星フレア問題についても衛星側・天体観測側双方が歩み寄り、協力して解決策を探っていくのが大切です。

 

Starlinkについても、現在は衛星に黒い特殊な塗装を施すことで天文への影響を抑える工夫がなされているほか、衛星フレアによる天体観測データへの影響を抑えるソフトウェアが研究されるなど、衛星側・天体観測側双方で努力が進められています。

 

むりかぶし望遠鏡でスターリンク衛星の黒い塗装の効果を実証 -国立天文台 石垣島天文台-

衛星フレアの影響低減ソフトウェア -SPACE NEWS-

 

しかし、現状の明確な規制がないままメガコンステレーションの構築によって低軌道に10万以上の人工衛星が存在することになれば、現在進められている努力だけでは衛星フレア問題を十分に防ぐことができなくなるかもしれません。技術的な努力だけではなく、規制などのルール作りも必要になってくるでしょう。

 

技術の発展によって大規模な開発を進めることができるようになっている現代、その裏で犠牲になっている物がないか、そしてそれを解決する手段はないか、それを衛星フレアの問題を通して考えていきたいものです。

[参考]国立天文台 通信衛星群による天体観測への悪影響についての懸念表明

 



K.Imanishi