JAXA(宇宙航空研究開発機構)は2023年2月17日37分55秒に、新型のH3ロケット試験機1号機を打上げる予定でしたが、リフトオフ直前に打上げを中止しました。この記事では、中止の詳細と過去の中止例、今後の展望についてお伝えします。
中止の詳細
JAXAは2月17日14時より記者会見を開き、H3プロジェクトマネージャの岡田匡史氏が現状について説明しました。(※1)
岡田氏によれば、打上げ6.3秒前からのメインエンジン「LE-9」のスタートは正常でした。しかし、打上げ0.4秒前の固体補助ロケット「SRB-3」点火前に第1段制御機器が機体の異常を検知したため、「SRB-3」への着火信号を送信しなかったといいます。つまり、打上げ6.3~0.4秒前の間に異常が検知されたのです。原因については、第1段機体のどこかで異常が発生したのか、第1段制御機器自体に異常が発生したのか、それ以外なのか、まだ明らかになっていません。
また、ロケット側は「LE-9」が正常に動作し、リフトオフに充分な推力が得られたことを検知しており、メインエンジンや補助ロケットに異常があった可能性は低いそうです。
過去にも似た中止例
今回のように、メインエンジンスタート後に補助ロケットに点火しなかった事例はあるのでしょうか。実は、1994年8月18日のH-IIロケット試験機2号機の打上げにおいても、同様の事象が発生しています。地上にあるカウントダウン監視装置と他の装置とを繋ぐインターフェース盤が故障したことによるもので、メインエンジンスタート後に緊急停止となりました。この際は、故障部分を予備の部品と交換することにより、10日後の28日に無事打上げに成功しました。(※2)
また、アメリカのFalcon9ロケットやスペースシャトルにおいても、メインエンジンスタート後に打上げを中止した例があります。このような事象は、ロケット打上げにおいて稀ながらも見られるものであるといえるでしょう。
今後の展望
岡田氏によれば、既に記者会見開催時には、JAXAやMHI(三菱重工業株式会社)の職員がLCC(発射管制室)にこもり、原因究明に向けて作業をしていたといいます。また、ロケットは燃料排出を完了し、18日午前10時頃にVAB(大型ロケット組立棟)へ戻されました。その後のスケジュールは未定ですが、ひとまず原因究明を行い、打上げ予備期間である2023年3月10日までの打上げに向けて全力を尽くすそうです。
記者会見において岡田氏は、「見守ってくださった方々に申し訳なく思っていますし、悔しいです」と涙ながらに語りました。打上げは中止となりましたが、異常に対してリフトオフ前に停止措置を行い、リフトオフ後に失敗するという最悪の事態を防いだことは、システムが上手く機能した証左といえるでしょう。今後行われる原因究明の進捗に注目です。
※1 JAXA「H3ロケット試験機1号機に関する記者会見」
https://www.youtube.com/live/CZRB4MdJSuw?feature=share
※2 朝日新聞西部朝刊「H2ロケット打ち上げ、28日再挑戦 秒読み監視装置を交換」1994年8月20日