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参入のタイミングは今 先行者が語る宇宙ビジネスの壁と突破口 ―Conference X 2025レポート

左から、モデレーターを務めたINDUSTRIAL-X代表の八子知礼氏、ispace CEO&ファウンダーの袴田武史氏、将来宇宙輸送システム代表の畑田康二郎氏、東京大学大学院工学系研究科 教授の中須賀真一氏

製造業のDXを掲げ、宇宙戦略基金第一期「衛星サプライチェーンの構築・革新のための横断的な仕組みの整備に向けたFS(フィージビリティ・スタディ:実現可能性調査)」の委託先として採択されたINDUSTRIAL-X(参考記事)。

同社が2025年12月12日に開催したカンファレンスイベントConference X 2025では、AI時代の“企業変革”最前線をテーマに、経営・事業・現場という複数の視点を行き来しながら次世代のビジネスのあり方を考えるセッションが行われました。

この記事では、同カンファレンス内で行われたパネルディスカッション「宇宙ビジネス最前線」の模様をダイジェストでお伝えします。


宇宙スタートアップ創業者とトップ研究者が描く、宇宙産業の構想と現在地

セッション冒頭、各登壇者がそれぞれの立場から現在取り組んでいる宇宙ビジネスについて紹介しました。

ispaceの袴田氏は、宇宙に人間の生活圏を築くというビジョンの下、地球から月に及ぶ経済圏の構築を目指していると説明。月に存在するとされる水資源を活用し、宇宙空間で燃料を供給できるようになれば、ロケット輸送コストを大きく下げることが可能になると述べました。現在は月への高頻度輸送サービスの実現に向け、商業化を見据えたミッションを進めているといいます。

地球から月までの「シスルナ領域」での経済圏構築を構想する、ispaceの袴田氏。宇宙ベンチャーが日本に2〜3社ほどしかなかった時代に起業し、現在では世界で300名もの社員を抱える組織にまで成長しました

将来宇宙輸送システムの畑田氏は、再使用型ロケットの開発を通じて「宇宙でも人や物が当たり前に移動できる世界」を構想。ロケット単体だけでなく、宇宙港(スペースポート)という地上インフラも含めた輸送プラットフォームの必要性を強調しました。2040年代を見据えた長期ビジョンから逆算し、現在は小型ロケットによる試験開発に取り組んでいると説明しました。

一方、研究者として超小型衛星の世界を切り拓いた中須賀氏は、アカデミアの立場から、日本の超小型衛星研究の歩みを振り返りました。2003年に世界初の1キログラム級衛星を打ち上げて以降、地球観測や通信、宇宙科学など多様な分野で小型衛星の実用性を証明してきたとし、その成果が現在の日本の宇宙スタートアップ創出につながっていると語りました。

宇宙産業の特殊性は「試行錯誤がしづらい」こと、他産業との共通点は?

パネルディスカッション最初の論点は、「宇宙産業の特殊性」がテーマ。

袴田氏は、宇宙は夢の世界として捉えられがちだが、事業として見れば本質的に特別なものではないと指摘しました。微小重力・無重力や高放射線といった特殊な環境は存在するものの、経営や事業開発の基本は他産業と大きく変わらないといいます。

一方で、宇宙産業特有の難しさとして挙げたのが「試行錯誤の回数の少なさ」です。地上の製品開発では大量の試験や失敗を重ねて技術や製品を洗練させていくことができるのに対し、宇宙では打上げ機会が限られるため、技術が成熟しにくい構造があると説明しました。

畑田氏もこの点に同意し、新しいことをするにもデータの取得自体が難しいため、宇宙では過去に実績のある技術を使い続けざるを得ない結果、参入障壁が高い産業だと認識されているとしました。しかし畑田氏は、生成AIの登場でこの構造が変わり始めていると指摘。シミュレーションモデルと実際の試験結果との乖離をAIに検討させられるようになったことで、試行錯誤のスピードが劇的に早まっており、この点は他産業で起きている変化と同様だとしました。

経済産業省で産業政策に携わった後、将来宇宙輸送システムを創業した畑田氏。宇宙領域の技術開発では試行錯誤の回数が少ないことが課題だったとしつつ、AIの登場で状況は大きく変わると指摘しました

中須賀氏は、宇宙環境の条件を正しく定義し、工学的に検証すれば、地上で使われている部品や技術でも十分に対応できると説明。実際に、中須賀氏が開発した超小型衛星は打上げから22年経った現在でも稼働しているとし、宇宙という領域を過度に特別視してきた従来の開発手法から、地上産業に近い考え方へと転換する必要性を強調しました。

加えて中須賀氏は、技術の進歩は「回数」を増やすことに本質があると指摘。

これまでは試行回数が増やせないため、技術や信頼性を高めるために多大な時間と資金を投じてきたものの、そうすると設計の難易度が上がって時間がかかり、さらに試行回数が減るという循環になっていたと語りました。

八子氏から、この点の日米での差について問われた中須賀氏は、イーロン・マスク氏率いるSpaceXの手法に言及。莫大な投資を背景に、一挙に開発して打上げ、失敗をすぐ反映して再挑戦するという早いサイクルが回っていると説明しました。しかし、日本は同じ戦い方はできないため、デジタルツインなどを活用することが一つの手ではないかと述べました。

参入障壁と、宇宙産業エコシステムのこれから

後半では、宇宙産業の参入障壁と今後のエコシステムのあり方について意見が交わされました。

袴田氏は、日本の宇宙スタートアップは100社を超え、政府支援も進んできたとしつつも、ロケットやランダーといった宇宙機器システムを担う事業は依然として難易度が高いと説明。その一方で、サプライチェーンのすそ野は広いため、コンポーネントやサービス領域には多くの参入余地があると語りました。

続く畑田氏は、最大の参入障壁は「まだ儲からないこと」だと率直に指摘。補助金中心の支援構造は会計上の負担となり、民間投資を呼び込みにくい側面があると実情を訴えました。将来的な成長を見据え、今の段階からルールメイキングに関与できることが宇宙産業の特徴だと述べました。

研究者として日本の衛星開発を牽引するだけでなく、複数の宇宙スタートアップの設立にも関与している東京大学の中須賀氏は、宇宙ビジネスにかかわるコミュニティやエコシステムがあることも産業の拡大に重要だと説きました

中須賀氏は、宇宙産業はロケットや衛星を開発・製造する領域以上に、それらを活用したサービス産業が中心になると強調。ここを広げていくためには非宇宙企業の参画・連携が不可欠であり、地上の課題解決に宇宙をどう使うかという視点が重要だと語りました。

すべてのセッションを終えたクロージングで全体を総括したINDUSTRIAL-Xの八子氏は、「宇宙業界ではトライ・アンド・エラーに制約があったが、AIやデジタルツインを活用することでトライ・アンド・エラーを繰り返すこともできるようになる」とするとともに、「地球から宇宙を見て『まだまだ遠いね』と考えるのではなく、われわれが日常的に行っているビジネスと宇宙ビジネスを連携させることでマーケットを広げていくことができる」と展望を示しました。

宇宙ビジネスは多くの企業にとって縁遠い分野に見える一方で、すでに地上産業との結びつきも生まれ始めています。今後、宇宙産業を成長させる鍵の一つは、異業種からの参入であることは間違いありません。

宇宙ビジネスに参入するタイミングはまさに「今」だと言えるのではないでしょうか。

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