2024年6月5日(水)から2025年春頃にかけて、JAXA筑波宇宙センター内の展示館「スペースドーム」が老朽化対策工事のため閉鎖される。オープン以来、全国の宇宙ファンや子どもたちを楽しませてきた同館はどのように生まれ変わるのか。前編では、「スペースドーム」工事の概要やアクセス、今しか見られない閉鎖前の展示について紹介する。
(文・撮影:加治佐 匠真)
「スペースドーム」と改修工事の概要
「スペースドーム」は2010年7月17日、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)筑波宇宙センター内の展示館としてオープンした。以来、人工衛星をはじめとする実物大の展示品を間近で、かつ無料で見学できるスポットとして人気を博した。2015年6月には約3週間の休館を経てリニューアルオープンし、「宇宙博2014」で展示されていた国際宇宙ステーション(ISS)「きぼう」日本実験棟の実物大模型を展示資料に加え、さらにパワーアップした展示でJAXAの活動内容・成果を多くの人々へ発信してきた。
今回の工事は、オープンから約14年が経過した同館の老朽化対策と設備更新を目的として行われ、隣接する駐車場の一部も閉鎖対象。閉鎖期間は2024年6月5日(水)から2025年春頃までであり、2015年の休館期間を大幅に超える大規模な工事となる。なお、閉鎖期間中も宇宙センター内で実施されているガイド付き見学ツアーへの参加やミュージアムショップ、ロケット広場の利用が可能だ。
有料見学ツアーは事前予約制のため、解説付きでじっくり見学したい方はツアーも予約することをおすすめする。
工事後のスペースドームの詳細は発表されていないが、2023年に公開された「JAXA筑波宇宙センター広報施設リニューアル・維持管理・運営事業(仮)に係る 第2回情報提供要請(RFI)」資料によれば、
- 宇宙とJAXAと人々がつながるパブリックエンゲージメントの場
- 国民が宇宙開発現場のダイバーシティに触れることができ、日本人としての誇りと自信を感じられる場
- 環境など未来社会の問題解決に宇宙技術が貢献できることを知る場
を新展示館のコンセプトとして、民間事業者と連携して「スペースドーム」の老朽化対策・展示内容更新を行うこととしている。現在行われていない飲食サービスの提供や入場料徴収も認められており、新展示館は現在と大きく違った形態になる可能性がある。現在の展示品が欠けることなくそのまま展示される可能性も低いため、閉鎖前に一度は訪れることをおすすめする。
「スペースドーム」へのアクセス
都心から「スペースドーム」が位置するJAXA筑波宇宙センターまでは、つくばエクスプレスを利用するのがおすすめだ。宇宙センターの最寄り駅「つくば」駅まで、「秋葉原」駅から最速45分で行くことができる。
ちなみに、同路線でつくば方面へ向かう際、「守谷」駅から「みらい平」駅の間では、茨城県石岡市にある、2024年5月の太陽フレア発生で話題になった地磁気観測所への影響を抑えるため、電車が使用する電流を直流から交流へ切り替える「交直切替」とよばれる操作が行われる(秋葉原方面の電車は逆に、交流から直流へと切り替える)。これは全国でも珍しく、切換えの様子は車内からも見ることができる。
「つくば」駅からはバスを利用して10分ほどで宇宙センターへ行くことができるが、散歩がてら徒歩での移動もおすすめだ。道中では宇宙をモチーフにしたマンホールが見られるほか、宇宙センターがJAXAの前身である宇宙開発事業団の施設であった名残が残されている。宇宙センターを囲む生け垣がどこまでも続く光景は、同センターの敷地が広大であることを感じさせる。
正門を入ってすぐ左側へ行くと、目的地の「スペースドーム」が見えてくる。隣の「広報・情報棟」では売店で宇宙グッズを購入できるほか、視聴覚室でのロケット音響体験、『宇宙兄弟』の名シーンを再現した記念写真を撮ることができる。
「スペースドーム」の見どころ① 実用人工衛星
「スペースドーム」へ入館すると、100万分の1スケールの地球を模擬した「ドリームポート」が出迎えてくれる。よく見ると地球上空を飛行するJAXAの人工衛星や国際宇宙ステーションも再現されているため、探してみると楽しいだろう。
順路に従って進むと、まず多種多様な色や形をした人工衛星たちが目に入る。ここに並んでいる人工衛星の多くは「試験モデル」とよばれ、人工衛星の機能や性能、宇宙空間やロケットの環境に耐えられるかを確認するために制作された、実機と同じ大きさのモデルだ。
展示衛星の中で実験用中継放送衛星「ゆり(BS)」だけは「予備機」とよばれる機体であり、実機にトラブルがあれば代わりに宇宙へ送ることができるよう、実機と全く同じ仕様で製作されている。
その隣には、人工衛星に必要な新技術の習得・実証のために打ち上げられてきた技術試験衛星「きく(ETS)」シリーズが展示されている。特に「きく7号(ETS-VII)」は「おりひめ」と「ひこぼし」という2機の衛星から構成されており、両機を宇宙空間で分離した後、自動操縦により接近・結合までを行う「ランデブ・ドッキング技術実験」を行った。ちなみに、初回実験は7月7日、七夕の日に実施された。この成果は宇宙ステーション補給機「こうのとり(HTV)」に活かされ、今日の有人宇宙開発に息づいている。
「きく」シリーズを過ぎると、2機の地球観測衛星が展示されている。温室効果ガス観測技術衛星「いぶき(GOSAT)」と陸域観測技術衛星「だいち(ALOS)」だ。「だいち」向かって右側には、太陽電池パドル(パネル)が折りたたまれた状態で収納されており、その側面を見ると、六角形柱が隙間なく並んだ構造(ハニカム)をパネルで挟んだ「ハニカムサンドイッチ構造」の様子がよく分かる。この構造が何重にも重なる様子は圧巻だ。
前編では、「スペースドーム」改修工事の概要やアクセス方法、実用人工衛星の展示について紹介してきたが、「スペースドーム」の見どころはまだまだある。後編では、ロケットや有人宇宙開発に関する展示や、屋外展示の見どころについてご紹介する。
執筆者プロフィール
加治佐 匠真(かじさ・たくま)
鹿児島県出身。早稲田大学卒業。幼い頃からロケットが身近な環境で育ち、中学生から宇宙広報を志す。2019年より宇宙広報団体TELSTARでライター活動を始め、2021年からはSPACE Mediaでもライターとして活動。主にロケットに関する取材を全国各地で行う。主な取材実績にH3ロケット試験機1号機CFT(2022)、イプシロンSロケット燃焼試験(2023)、カイロスロケット初号機(2024)など。