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航空事業の強みを活かして宇宙ビジネスへ進出、3本柱の構想とは―株式会社JALUX

航空・空港ビジネスのみならず不動産や通販など多岐にわたるビジネスを手がけるJALグループの商社・JALUX。
同社で、宇宙業界への参入を提案し、そのビジネス構築に向け奮闘する同社事業企画室の長尾秀斗氏にこれまでの道のりとこれからの構想を語ってもらった。

長尾秀斗 氏(ながお・ひでと)
株式会社JALUX 航空・空港事業本部 事業企画室 航空・空港課 主任/
日本航空株式会社 事業開発部 JALイノベーションラボ 宇宙事業チーム(兼務)

JALグループの商社であるJALUX(ジャルックス)は、航空機部品の調達や海外空港の運営、空港店舗運営など、幅広くビジネスを展開している。
同社は近年、新規事業として宇宙ビジネスに着目し、2023年3月に有翼式再使用型ロケットを開発する宇宙ベンチャーのSPACE WALKERと資本業務提携締結を発表した。

同社の宇宙ビジネスを自ら発想し、SPACE WALKERとの資本業務提携を推進した同社航空・空港事業本部事業企画室の長尾秀斗氏に、宇宙ビジネスを描いた経緯と宇宙進出へ向けたビジョンを聞いた。

不動産事業から宇宙ビジネスを発想、社内で宇宙業界への進出を提案

長尾氏は入社後不動産部に配属となり、空港勤務者向けの社宅用地を探すといった不動産の仕入れ開発業務を行っていたという。

不動産部での仕事はまさに「足で稼ぐ」職場。毎日のように羽田空港周辺を自らの足で歩き回る中、長尾氏の頭に浮かんだのが衛星を活用して効率的に土地を探すというアイデアだ。突飛なアイデアに思えるが、この発想には長尾氏の幼少期の経験が関係している。

「もともと宇宙は好きでした。実家の近くに国立天文台三鷹キャンパスがあり、家族でよく訪れていました。学生の頃は天文関係のサークルで天体観測もしていました。ただ、当時は宇宙をビジネスの対象とは全く思っていませんでした」

不動産業務への衛星活用というアイデアをきっかけに、長尾氏はさらに宇宙ビジネスに対する独自調査を進める中で、成長性と航空業界との親和性を感じ、同社のビジネスとして宇宙進出を考えるようになった。
折よく、2020年に同社は社内公募で新規事業立案を行うイノベーション推進チームを発足させた。長尾氏はイノベーション推進チームに不動産部との兼務で参加し、精力的に同社での宇宙ビジネス立ち上げ企画を進めていく。

「この機会を逃すまいという気持ちでした。不動産業務への衛星活用のアイデアは短期間で特許を出願することができました。また、大分県主催の『宇宙挑戦セミナー』という研修プログラムにも参加し、衛星データ解析を学びながら、宇宙事業のアイデアを練っていきました」

大分県主催の「宇宙挑戦セミナー」へ参加し、衛星データを活用した宇宙ビジネス企画をプレゼンしたときの様子

航空機を取り扱い、空港運営も行う同社ならではの強みを活かした宇宙ビジネスを企画した長尾氏は、経営陣へ何度もプレゼンを行い、宇宙事業への理解を得る。これにより、長尾氏は専任で宇宙事業の立ち上げに取り組むため、同社航空・空港事業本部事業企画室に異動になった。

イノベーション推進チーム発足以来、自ら発案した新規事業の専任担当者が生まれたのは長尾氏が初のケースだという。長尾氏の宇宙への情熱が、晴れて同社の宇宙ビジネスの事業立ち上げへつながったのだ。

イノベーション推進チームの活動として、経営陣とJALUX社員向けにプレゼンを実施している様子。スペースプレーン開発企業との協業企画や今後の宇宙事業展開について説明した

宇宙輸送・宇宙港・衛星活用の3本柱でビジネスを構想

長尾氏が構想した宇宙ビジネスとはどのようなものだろうか。

長尾氏は、宇宙ビジネスを発想した当初からJALUXの宇宙業界への参入についてロードマップを描いていたという。

「JALUXの宇宙ビジネスとして、宇宙輸送、宇宙港、衛星活用の3つを注力領域にしたいと考えています。宇宙輸送と宇宙港に関しては、JALグループの強みが特に生きるところです。航空機の部品取引やメンテナンスなどのノウハウとネットワークが宇宙機の運用に活用できるポテンシャルを持っていますし、空港運営のノウハウも宇宙港の運営に活かすことができると考えます。宇宙輸送と宇宙港が将来の主力事業になればと思いますが、収益化には時間がかかるので、比較的収益化につながりやすい領域として、衛星を活用した事業を注力領域に挙げています。つまり、宇宙輸送と宇宙港の領域には早期参入して着実に足場を築きつつ、一方で衛星を活用したビジネス展開により早期収益化を実現していくプランです」

長尾氏は、このような堅実なプランとそこに懸ける情熱をもって、社内での合意を得ていった。SPACE WALKERとの資本業務提携を提案したのも、このロードマップに基づいたものだ。長尾氏はSPACE WALKERとの提携の経緯についてこのように語る。

「宇宙系のピッチイベントでSPACE WALKERを知り、事業概要がJALUXの宇宙ビジネス像と非常に親和性があると感じ、幅広く協業できるのではないかと考えました。同社との協業案を企画し、代表の眞鍋さんにSLA(宇宙旅客輸送推進協議会)シンポジウムで初めてお会いする機会を得てから、以降、話し合いを進めてきました。私が宇宙進出へ向けて同社との資本業務提携を実現したかった理由は大きく二つです。一つ目は、同社の宇宙輸送事業と、JALUXの強みが活きる宇宙輸送領域にシナジーがあることです。二つ目は、同社が複合材タンク事業に力を入れている点です。宇宙用だけでなく、地上用の複合材タンク開発事業にも将来性を感じ、商社として協業事業を創出できるのではないかと考えました。社内には、短期的にも事業化が見込める足元の地上用複合材タンク事業の延長線上に宇宙進出があると説明して、経営陣に納得してもらいました」

水素社会の実現が推進されるなかで、今後需要が見込まれる複合材タンクを販売し、宇宙機の開発費用を確保するというSPACE WALKERの戦略が長尾氏の描く宇宙ビジネスと共鳴していたのだ。

SPACE WALKERとの提携時の一枚。左から、SPACE WALKER代表取締役CEOの眞鍋氏、JALUXの長尾氏

宇宙ビジネスの本格化へ向け、人材育成・コミュニティづくりも

JALUXの宇宙ビジネスは着実に前に進んでいる。SPACE WALKERは2025年には宇宙機の打ち上げ試験、2027年には衛星打ち上げを予定している。

衛星活用事業に関しては、そのデータを酒米の稲作に活用、美味しい日本酒を造ることができれば、付加価値をつけて販売することを考えているそうだ。他にも不動産向けの衛星データ提供など、幅広く企画を進めているという。

事業立ち上げから複数の収益ポイントまで描かれたJALUXの宇宙ビジネス構想には、商社に身を置く長尾氏の視点が大いに生かされている。不動産業務での気付きを宇宙ビジネスにつなげたり、航空機や空港に関するノウハウがあるJALグループ独自の強みを活かせるロードマップを描いたり、さらには複合材タンクや日本酒という利益確保の手段を考慮していたりと、長尾氏の持つ広い視野が広大な宇宙への進出を支えている。

また、日本航空においても今年6月に宇宙事業の開発チームが発足し、チーム組成と同時に長尾氏は同チームへ兼務所属となり、JALUXのみならず幅広くJALグループの宇宙事業開発へ向けて活動している。

そんな長尾氏は社内でも有名人。エレベータで顔見知りでない社員に「“宇宙の人”ですよね。応援しています」と声をかけられるほどだ。

宇宙ビジネス立ち上げの経緯を話す長尾氏。長尾氏の宇宙ビジネスへの情熱は経営陣を含めた社内のメンバーにも伝わり、次世代を支える事業化を目論んでいる

自身もコミュニティづくりには力を入れていると語る。宇宙事業の専任担当は現状一人だが、長尾氏は宇宙事業に関心を持つ人が増えていることを実感し、宇宙人材の拡大につながる場を作れないかと考え、業務外の活動として宇宙ビジネスを本格的に学べる場「宇宙ビジネス研究会」を立ち上げた。この研究会の立ち上げは2023年7月20日、長尾氏が宇宙ビジネス立ち上げを経営陣にプレゼンしたのはちょうど2年前の2021年7月20日、偶然にもアポロ11号の月面着陸と同じ日付だ。

長尾氏はプレゼンの最後に「今日、7月20日は何の日かご存知ですか。アポロ11号が月面着陸した日です。今こそ宇宙に進出しましょう」と呼びかけたという。そんな縁のある日付にスタートした商社JALUXの宇宙ビジネスから今後も目が離せない。

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