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ポストISSを担う4社の宇宙ステーション~未来の宇宙環境利用に向けて~

2021年12月31日、NASAのビル・ネルソン長官は、2024年以降の運用について不透明だったISS(国際宇宙ステーション)の運用を2030年まで継続する発表を行いました。2022年2月2日にYoutubeLive上で行われた「国際宇宙ステーション「きぼう」利用シンポジウム Day3」でもNASA・JAXA関係者から深く触れられており、NASAのRobyn Gatens氏は、ISSが退役する2030年までの期間を「ISSからの恩恵を最大限活かすことができる期間」と前向きな意見を述べています。

 

一方で、2030年以降は現状日本や欧米各国が唯一利用可能な宇宙環境利用設備が使えなくなり、「ポストISS」となる新たな設備が必要になります。NASAはISS退役までの間に、地球低軌道上に新たな宇宙ステーションを建設する構想を発表。4社の民間企業が請け負うことになっており、既に開発に向けた契約が結ばれています。今回は、そんなポストISSである商用宇宙ステーションについて見ていきます。

 

民間宇宙ステーションを手がける4社の民間企業

NASAは2021年に商用宇宙ステーション開発プログラムである「商用地球低軌道開発(CLD)」を発表、ポストISSとなる民間宇宙ステーションの開発に携わる企業を募集しました。その結果、NASAは「Blue Origin」社、「Nanoracks」社、「Northrop Grumman」社の計3社と商用宇宙ステーション開発に関する契約を結びました。また、ISSに接続する新モジュール開発についての契約を交わしている「Axiom Space」社が現在も宇宙ステーション開発を続けており、この4社が現在の主な商用宇宙ステーションプレイヤーとなっています。

この4社はそれぞれ独自の宇宙ステーション構想を描いています。


Blue Origin社「Orbital Reef」

Blue Origin社はAmazon社の設立者であるジェフ・ベゾス氏が設立した航空宇宙企業で、自社製ロケットによる有人宇宙飛行にも成功している一大航空宇宙企業です。Blue Origin社は2021年10月に航空宇宙企業のSierra Space社やBoeing社等14以上の大学・企業と協力し、宇宙ステーション「Orbital Reef」を開発することを発表しました。受け入れ可能人数10名、容積830㎥、ISSよりやや高い高度500kmにおいて運用予定で、2025-2030年までの運用開始を目指しています。

Orbital Reefは地球低軌道の微小重力環境下で研究開発やエンタメなど様々な民間利用を行える”複合型宇宙ビジネスパーク”としての運用が想定されています。研究だけでなく、一室をレンタルして住居したり、宇宙ホテルを営業できるようにするなど、ユーザのビジネスビジョンに合った運用を可能にすることを目指しています。また、研究・居住・船外活動・発電など目的に合わせたモジュールを連結することで機能を拡張できる汎用性の高い宇宙ステーションになると言われています。

Blue Origin社は宇宙旅行目的の利用について「短期滞在でも長期滞在でも、冒険を新しいレベルに引き上げるためのフライトプラン、トレーニング、アクティビティを提供する」と明言しており、民間宇宙ステーションならではの利用が期待できます。Orbital Reefを訪れた宇宙旅行者は、各企業の支援を受けながら、宇宙ステーションの大きな窓から覗ける絶景を楽しむことができるかもしれません。

 

また、Orbital Reefに関わるBlue Origin社は独自にニューグレンロケット、Boeing社はスターライナー有人宇宙船、Sierra Space社は小型スペースプレーンであるドリーム・チェイサー輸送船といった独自の宇宙輸送システムを保有しており、宇宙ステーション運用時に宇宙飛行士や宇宙旅行者、物資を独自に運べる強みがあります。


「Orbital Reef」の想像図(Credit:Blue Origin社)

 

Nanoracks社「Starlab」

Nanoracks社はISSの日本実験棟「きぼう」で使用可能な超小型衛星放出機構を開発するなど、宇宙環境利用での事業を手掛けている新興宇宙開発企業です。Nanoracks社は2021年10月、航空宇宙企業のVoyager Space社、Lockheed Martin社と協力し、宇宙ステーション「Starlab」の開発を発表しました。受け入れ可能人数4名、容積340㎥で最新の実験室を備えた宇宙ステーションになる予定で、2027年の運用開始を目指しています。

 

StarlabはLockheed Martin社が開発する膨張式モジュールと金属製ドッキングノードで構成された宇宙ステーションで、Starlabの中核となる”GWC(ジョージ・ワシントン・カーヴァー)サイエンスパーク”と呼ばれる実験室では、生物学、植物、物理化学、材料研究における最先端の研究が可能な4つの主要な研究設備が備えられています。また、電力・推進モジュールのほか、ISSにも備えられているような貨物搬出・移動用のロボットアームが備えられています。

ロボットアームや最新の総合型実験設備が備えられていてISSと同等の研究能力を持っており、それらがより広く民間企業にも提供されることが期待できます。膨張式モジュールによってコンパクトな状態で打ち上げることができるため、運用に必要な全ての設備を一度で打ち上げることもでき、展開・運用の面で大幅なコスト削減ができるのも大きな利点となっています。

協力会社のひとつであるLockheed Martin社は今までアトラスロケットやオリオン宇宙船を手がけており、地球-Starlab間の輸送を担うことが期待されています。

「Starlab」の想像図(Credit:Nanoracks社)


Northrop Grumman社「Base Module」

Northrop Grumman社はISS補給船であるシグナス開発のほか、軍事において大きなシェアを持つ大企業です。Northrop Grumman社は、かつて月面着陸船開発で名乗りを上げていた航空宇宙企業であるDynetics社などと協力し、「Base Module」と呼ばれるコアモジュールを元にした宇宙ステーション開発計画を発表しています。受け入れ可能人数4名(将来的に8名に拡大)、運用想定年数15年となる予定で、Base Moduleは2020年代後半に打ち上げ予定です。

Northrop Grumman社は今まで開発を担っていたシグナス補給船や、NASAが進める月軌道ステーションであるゲートウェイ居住区の開発・研究経験を活かしたものとすることで、初期費用を最小化しつつ市場ニーズに合わせてモジュールを開発し能力を付加していくと発表しています。

その核となるのがBase Moduleで、複数のドッキングポートを備え、初期段階でも4人が滞在可能な能力を持っています。今後のニーズに合わせてこれらのドッキングポートに居住区や実験室、エアロックなどの設備が追加されると考えられ、今後の民間宇宙利用の発展の仕方によって、このBase Moduleの形も変わってくるかもしれません。

前2社と比べると公表されている情報がまだ少なく、今後の公式発表が気になる宇宙ステーションです。

 

Axiom Space社「Axiom Station」

Axiom Space社は2020年という早い段階からNASAからの商用宇宙ステーションの承認に乗り出した宇宙開発企業で、商用宇宙ステーションの先駆けとも言える存在です。Axiom Space社は2020年1月に「Axiom Segment」と呼ばれる、ISSに接続する商業宇宙活動用モジュールの承認をNASAから獲得し、2024年に最初の打ち上げを目指しています。

Axiom Segmentは最初のコアモジュールと2つの追加モジュールの最大3つのモジュールから構成される居住用モジュールで、宿泊施設や展望室を備えており、民間宇宙飛行士の長期滞在利用を想定して設計されています。モジュール内には高速Wi-Fi、ビデオスクリーン、画像ウィンドウ、外の景色を見渡せるキューポラが備えられ快適な宇宙滞在が可能なモジュールとなる予定です。

Axiom Segmentの各モジュールはISSのカナダアームを用いて連結され、ISS運用期間中はISSの拡張施設として運用されますが、ISS退役前には大型太陽電池パドルが備えられた発電用モジュールなどを新たに連結した上で分離、「Axiom Station」という一つの宇宙ステーションとして機能するようになっています。Axiom Stationは、現在の予定ではISSのモジュールとしてですが最も早く稼働する商用宇宙ステーションとして期待されています。

Axiom Spaceは、2024年にAsiom Segmentとして最初のモジュールを連結し、1年ごとに1つずつモジュールを追加、2028年には分離しAxiom Stationとしての運用を開始する予定です。

「Axiom Station」に至る2028年までのロードマップ(Credit:Axiom Space社)

 

 

今回はポストISSである低軌道の商用宇宙ステーション4社について紹介しました。

このような商用宇宙ステーション開発をNASAが進めるのは、ISS退役後の宇宙利用の場の確保はもちろん、NASAが今後月軌道ゲートウェイを含む月有人宇宙探査や、深宇宙探査に活動の主軸を置くために、地球軌道上の開発を民間に移行したいためと思われます。実際に、NASAはISS退役の発表時に「低軌道でアメリカ主導の強力な商業経済」を構築したいと述べています。

4社の商用宇宙ステーションの、現在判明しているデータでの比較表(筆者調べ)

 

SpaceX社によるドラゴン宇宙船での地球-ISS間の輸送など、有人宇宙利用での商業経済圏拡大は現在進行形で進んでいます。また、民間宇宙ステーションへの移行によりNASAはISSのように修理や運営に費用を払う必要がなくなり、NASAの他分野での開発がさらに加速するのではないかという期待も持たれています。

商用宇宙ステーション開発は官民ともに今後の宇宙開発の発展に大きく関わってきます。各社の宇宙ステーション開発が今後どのように進んでいくのか、目が離せません。

 

<参考ページ>

・Orbital Reef https://www.orbitalreef.com/

・Axiom Space picks Thales Alenia to build commercial space station modules

https://www.space.com/axiom-space-commercial-station-modules-thales-alenia.html

・ノースロップグラマン -ノースロップ・グラマン、NASAと地球低軌道スペースステーション設計協定を締結 https://news.northropgrumman.com/news/releases/

・NASA – NASA Selects Companies to Develop Commercial Destinations in Space

https://www.nasa.gov/press-release/nasa-selects-companies-to-develop-commercial-destinations-in-space

 

SPACEMedia編集部